透明ノ聲
海山 紺
第1話 心に吹き荒ぶ怒声
その聲は、俺にしか聞こえることのない儚くも切ない聲だった。
そして、独りぼっちで悲しい聲だった。
けれど、どんな声よりも明瞭で、力強くて、美しかった。
*****
あの時、俺は全てが嫌で嫌でしょうがなかった。
生前の母さんが誕生日プレゼントに買い与えてくれた、黒のヘッドホンでずっと両耳を塞いでた。シンガーソングライターだった母さんの遺声が収録された楽曲を常に聞き続けて、周囲の人声を拒んだ。
嫌味ったらしく向ける罵詈雑言なんて、もううんざりだ。
何で母さんが……。必死に頑張って俺に笑顔と愛情を注いでくれた母さんが、死んだ後もいちゃもんを吐かれなきゃいけないんだ?
『だからあの子一人で
――赤の他人が、一人の人間を理解しきったように言うんじゃねえよ。
『仕事が軌道に乗っていない中子供一人育てるなんて馬鹿げてる。身の程知らずで実に無謀だ』
――母さんの気持ち、何も知らないくせに。
――知ろうともしないで、どうして母さんの生き方を否定する?
――それに、お前らには何も関係のない事だろ。
『ずっと仕事ばかりで、肝心の我が子との時間は全く取ろうともしない。奏斗君が可哀想だわ』
――俺が可哀想?
――いつ俺が、悲しいだとか寂しいだとか、可哀想って思える言葉を吐いたんだよ?
――勝手に俺を可哀想って決めつけるな。
自分の価値観が一般的だからと決めつけて。
それを押し付けては他人の考えや生き方を否定し間違っていると非難する。
反吐が出る。気持ち悪い。
お前らみたいなクズの隣に立つ事すら嫌気がさす。
何より、人に対する鬱憤と非難しか言えない能無しの〈声〉なんて、それこそ聞く価値すら俺には無い。
母さんの想いを踏み躙って、それを真っ当な生き方じゃないって否定するなら――、
それを肯定する人間もまたお前らにとっての敵。
つまり、自分の大好きな「至極真っ当な価値観」から外れた対象。
「なら、俺という
そして、母さんの葬式が終わって数日後――。
俺を引き取ろうとする腐った親戚共の魔の手から、
俺は逃げ出した。
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