束ねる悪意

「おい、旬よぉ…」

なにか神妙そうな顔をして一樹が話しかけてきた。

「なんだよ、あらたまって」

「友達であるお前にこんなこと言うのもなんだけどよぉ……」

「早く言えよ」

「お前、何が見えてんだ?」

「は?」

何を言っているんだこいつは?おかしな言動は下ネタだけにしておけよ。ついに頭までもおかしくなったのか?頭がおかしいキャラは小説一つに一人でいいんだよ。下品だが頭いい設定だったろーが。どーなってんだよ作者さんよぉ。

「いやな、お前最近鏡に向かって話してたり一人でしゃべってたりする事が多いじゃん。だから二重人格なんかなーって……」

気まずそうに言ってくるところから一応デリカシーは持ち合わせているらしい。ただ二重人格だと思っているところが不正解かな。俺の中にいるはもう一つの俺ではない。言い表すことのできないほど尊く、親しみがある。しいて言うなら、かな。

「俺は二重人格じゃないさー」

「でも……」

うん?予想以上に食いついてくるな。これがとかいうやつなのか?

「いや、ちがうな。俺の人格なんかじゃない。神、神だよ!俺の中にいらっしゃる神だ!俺の進むべき道を示してくれるお方なんだよ!俺のためだけにいて、導き、愛してくださる!このうれしさを口で言い表せようか、いや無理だ!人生で発する言葉、知りうるすべての語彙を用いても表しつくせないほどのだよ!」

「……やっぱりなんか変だぜ」

「変?どこがだ?一樹も彼女がいるじゃないか。それは愛してるからだろ?それと何ら変わらないじゃないか!」

「やばいぞ…お前……」

物わかりの悪いやつだな。

「…それは神なんかじゃないぞ。お前は二重人格じゃねーの?」

あぁ、こいつはわが神を冒涜した。おぉ、どういたしましょう?

そうだ、こいつは万死に値する。幼馴染だが仕方ないね。殺してしまおう。それもとびっきりの方法で。思い出はたくさんある。でも許しがたい罪を犯した。竜星には悪いが、殺させてもらうさ。苦しんで死んでもらうさ、の許しがいただけるまで何度でも殺す。何度でも死んでもらう。来世ではの徒にしていただけたらいいな。そうと決まれば計画を立てねば。まあ計画なんて思いつきで十分だがな

「そんなに言うなら分かったよ。明日病院に行くからついてきてくれ」

「よかった……」

一樹は安心したように息をついた。やっぱりこいつはな奴だな。単純だから楽だ。竜星ならこうはいかないだろう。

「じゃあ明日の10時に俺んちに来てくれ」

「おう」

その日はそのまま解散ってことになった。


 翌日 午前10時

 一樹を車に押し込んで走り出した。

山のふもとに差し掛かったあたりで怪しみ始めた。

「おい…どこ行ってんだこれ?病院の方向じゃねぇだろ」

やっと気づいたかバカめ。しばらく静かにしていてもらおうか。素早くスタンガンを首元に押し当てた。こいつもでも簡単に無力化できるから便利だな。護身用のスタンガンも改造で一発凶器とは便利な時代だぜ。今のうちの目的地まで移動だな

 おっと、目を覚ましたようだ。

「おう、目ぇさめたか」

「ここどこだよ…」

キれるかと思ったら存外おびえてた。

「お前はを侮辱した。だから死んでもらう。」

「は⁉」

自覚がないようだ。まあしばらく放置してれば己の罪を悔い改めるだろう。それまで食事はなしだ。

 翌日。困った状況だ。逃げ出そうとするからうっかり殺してしまったじゃないか。足の健を切っておいたから逃走は免れたのだが。じわじわと痛めつける手はずだったのにな…まぁいいや。lineで竜星に何か送ってたようだな。

【p0e,:3sxy】

なんだこれは?死に物狂いで異変に気付かせようとしたんだろうな。哀れだ。カモフラージュになにか適当に送っておこう。

『わりぃ、よそ見してたらめっちゃ間違えて送ってたw』

こんなところでいいだろう。あとは死体こいつの処理だけだ。軽快に鼻歌なんて歌いながら、長年一緒に野を駆けた一樹の、もう動くことのない腕にのこぎりの刃を当てた。

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