コップの雨水
くもまつあめ
コップの雨水
私の仲良しのミャーコはわがままです。勝手です。
ミヤコだからミャーコです。
自分が一番じゃないと気が済まないし、私のお菓子をほとんど食べちゃうし、私が話した話を自分のことみたいに他の人に話しちゃうし。
ミャーコは男子にも言い返すし、リーダ女子のナナコちゃんにも平気で文句を言えます。私には全然できないので、そこはとてもすごいなぁと思います。
私は持っていないけど、ミャーコはスマホを持ってて、私の知らないアイドルのニュースや怖い話をこれでもかって教えてくれます。
私はそんなミャーコが好きで時々嫌いです。
でも、どうして一緒にいるかというとやっぱり楽しいからです。
六月の雨の日、ミャーコは学校からの帰り道、私に教えてくれました。
「ねぇ、こないだネットで見たんだけどね」
またネットの話。正直うんざりしていたけど、聞かないと怒って水をかけてくるので聞くことにしました。
「なぁに」
「雨の日にね雨水をコップに溜めるの。それでね、自分の血とか涙を濁らない程度に入れるんだって。そして、そのコップの雨水が蒸発してなくなったら、雨水たちと一緒に空に帰れるらしいよ。」
「空に帰れるってどういうこと?飛べるってこと?」
「相変わらずバカだねー。
そんなこともわからないの?
・・・死ぬってことだよ。」
そういうと、ミャーコはケラケラ笑って、傘をくるくる回しました。
私はミャーコのこういうところが嫌いです。
バカにされたので何も言い返さず、家に帰りました。
日曜日、遅く起きた私にお母さんが言いました。
「・・・ねぇちょっと、まだそんな恰好?
もう、早く支度してくれる?
おばあちゃんのお見舞いに行くわよ。」
あぁ、そうでした。
入院しているおばあちゃんのお見舞いに行く日でした。
ゆっくりしたかったけど私は急いで、小さなパンを口に入れて牛乳を飲んで支度をしました。
お母さんとバスに乗って病院に行く途中、雨が降ってきました。
「やだ、降って来ちゃったじゃない・・・」
お母さんは面倒臭そうに言いました。
「すぐ止むといいね。」
私はお母さんに言いました。
お母さんは返事をしませんでした。
バスから降りておばあちゃんの病室に行くと、おばあちゃんは苦しそうに息をしていました。なんだかとても具合が悪そうでした。
「お義母さん、大丈夫ですか?」
お母さんが声をかけると、ウーウーとおばあちゃんは返事をしました。
おばあちゃんは口にマスクみたいなのを当てられていました。
苦しいのか嬉しいのか悲しいのかわからないけど、
私かおかあさんを見て涙を流していました。
看護師さんが病室へ顔を出して、
「よかったですね、ご家族が見えて。」
とおばあちゃんに声をかけました。
その後、「今日はずっと待ってらしたみたいですよー」
看護師さんは私とお母さんに声をかけてきました。
そうして、あたまを下げていなくなりました。
ウーウーとおばあちゃんはまた声を出して、
涙をポロポロ流しました。
お母さんは、花瓶の水を替えるため洗面所に行きました。
私はティッシュでおばあちゃんの涙を拭いてあげました。
おばあちゃんはまたウーウーと言いました。
お母さんが水を替えて戻って帰ってくると、
「さぁ、帰るわよ」と私に言いました。
「え?もう?」とびっくりして聞き返すと、
むっとしたような顔をおかあさんはしました。
「・・・どうせ私たちが誰だかなんて、わかってないんだから」
私は慌てて帰る支度をして、さっき降りばかりのバス停にまた並びました。
雨は止むどころか、もっと強くなっていました。
「おばあちゃん、苦しそうだったね」
と私がバスの中で言うと、
「そうね・・・、もうずっとあんな感じみたい。
それより・・・晩御飯何か買って帰ろうか。」
おかあさんはおばあちゃんより、晩御飯の方が気になるみたいでした。
私はおばあちゃんが可哀そうになりました。
バスの窓に当たる雨をぼんやり見ながら私は明日の学校の授業はなんだっけと思い出していました。
そこから三日後、
おかあさんが私の部屋に飛び込んできて、
「ねぇ起きてちょうだい!おばあちゃんが亡くなったの。お父さんとこれから病院に行くから」
と言ってきました。
おかあさんはそう言うと、部屋を出ていってバタバタと何かしているようでした。
私はそれを聞いて胸がバクバクとしました。
慌てて、窓に置いてあるコップを見てみるとコップは空っぽになっていました。
(・・・本当に、空に帰ったんだ!!)
驚きと怖さと喜びで言葉が出ませんでした。
あの病院からの帰り、私のポケットにはおばあちゃんの涙を拭いたティッシュが入っていました。
私はなんとなくミャーコのおまじないを思い出し、帰ってから雨をコップに溜めておばあちゃんの涙を拭いたティッシュをコップに浸して窓に置いたのです。
そこから三日後、おばあちゃんは本当に空に帰ってしまったのです。
だれも一緒にいてくれない、ただ苦しいだけのおばあちゃんを私が助けてあげたのです。おばあちゃん、よかったね。
なんだかいいことをしたような、神様の使いになったそんな気持ちになりました。
あのおまじないは本当に効果があるのです。
体育がありました。外でマラソンの練習です。
私は体育が嫌いです。マラソンも大嫌いです。
ミャーコは足が速くて、体育は得意。
女子全員で走るマラソン練習中、そんなミャーコが思い切り転びました。
痛くてうずくまってるミャーコに後からやっと追いついた私は、
ミャーコのそばで大丈夫?と声を掛けました。
「遅いくせに。」
ミャーコはこちらを見ずに私にいいました。
膝から血が出ていて、私はポケットからティッシュを出してミャーコの膝の血を拭いてあげました。
「触らないでよ!あんたと同じで遅いと思われるじゃん。」こちらをキッと睨んで、ミャーコは私を突き飛ばしてまた走り始めました。
置いて行かれた私は、ミャーコの血がついたティッシュを握りしめながら、
空を見ました。
きょうはとてもいい天気のくもりです。
「早く雨が雨が雨が降らないかな」
と心から思いました。
コップの雨水 くもまつあめ @amef13
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます