ベンシー-5 「あとさ、お前が戦ってた奴らの名前とかも聞いときたいな。一応俺も気をつけるから」

「あとさ、お前が戦ってた奴らの名前とかも聞いときたいな。一応俺も気をつけるから」

 と摩耶がベンシーに言うとベンシーも同意するように首を縦に振った。

「ああ、教えとこう。そいつらは緑ノ宮高校にいる女三人だ」


 摩耶は同じ市にある緑ノ宮高校について場所くらいは知っていた。共学で生徒数も多く敷地も広い私立だそうで、摩耶が仕事に行く時に使うバスの停留所のひとつにその名前がある。

 それよりも摩耶が気になったのは『三人』の方だった。


「三人?俺が見たのは二人だったけど」

「あいつは戦いに来られなかったんだろう。深手を負わせたからな。スレルドのやつらはモノは直せても生き物の傷は治せないんだ。まずあの時追いかけてきた奴が新崎にいざきみのり。追いかけなかった奴が赤嶺あかみねあかね。来なかった奴が藤野ふじの凛瞳りんどうだ」


 それを聞いた摩耶が驚いた。

「はぁ!? 藤野凛瞳って言った?」

「なんだ、知り合いだったか?」

「いや知り合いっていうか……俺が働いてる病院で入院してる人だよ。骨折して入院って言ってたけど……」


 まさかの巡り合わせに戸惑った摩耶。今まで楽しげに話していたあの少女は避けるべき敵だったということだ。骨折もきっと戦いで負ったものなのも直感的に分かったようだ。


「どんな印象だった? 藤野は」


 何故か食い気味にベンシーが質問した。摩耶は質問の意図が分からずに困惑したまま答える。


「印象って……。別に良い子そうだったぞ? ちゃんと挨拶するし育ちも良さそうで」

「だけどそいつは俺の仲間を何十人も殺して来たやつだ。俺も人のことは言えないが、殺人鬼の癖に良い子ぶって生きてる気持ち悪い女だ。そんなことは俺だって出来ねえな」

「い、いや〜……。そう見えないけどな」

「だろうな。さんざん殺した癖に未だに罪のない人間として振舞ってやがる。俺の仲間殺す時も殺したくないだのなんだの喚いて……じゃあ今までのは何なんだってな! 気持ち悪いだろ?」


 だんだんと語勢を強くしながら恨み節を並べるベンシーに摩耶はたじろいだ。ベンシーにも色々と思うところがあるのだろうが、摩耶はその意見に同意することはとても出来ずにいた。


「うーん、どうだろうなぁ。あの人の気持ちは分かるよ。俺だってお前を助けてるんだし」

「一緒にするな。藤野は最終的に説得されて結局殺す判断をするんだ。最後まで俺を見捨てなかったお前と全然違う」

「ふーん。…………えっ? 今褒めてくれた?」と摩耶が言うとベンシーは戸惑った。

「そ、そんなんじゃ……はあ、いや、認めるよ。お前はあの三人よりは気に入ってる」

「意外だな。俺のことなんて都合良いとしか見てないって思ってたわ」

「だとしたらお前よくそんな奴助けれるな」


 ベンシーは呆れが混ざった複雑な心境でつぶやいた。

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