24 進軍を始める国
俺が集めた素材を使ってドワーフの鍛冶師が作り上げた武器も無事完成した。
そして、シャルロッテの部下で武器に精通している者の協力の元、俺も含めてすべての村人たちが武器を扱えるように鍛錬を重ねていった。
そんな日々を過ごしていったある日、その知らせは唐突に知らされた。
「シャルロッテ様! 緊急の伝令です!」
シャルロッテの諜報部隊が薬屋に姿を現す。
「そんなに慌ててどうしたのですか?」
「アラバスト王国が我が国に進軍を始めました!! 我が王の警告を無視したアラバスト王国の強行軍はこのネルド村へ向かっているとの事で、ギルバート様もすぐに全軍を出撃させて迎え撃っております!」
「……そんなっ!」
――パリンッ!
シャルロッテは手に持っていたポーションを地面に落とす。
「……あ、申し訳ありません」
シャルロッテはしゃがみ込み、割ってしまったポーションのビンを拾い集める。
「待ってくれシャルロッテ、手を切ってしまうから俺が拾うよ」
俺はシャルロッテにそう伝えると、しゃがみ込み割れたビンを拾い集める。
「アーノルド……ありがとうございます」
「やっぱり、攻めて来たのね……」
リーシアも俯きながら小さく呟く。
割れた破片を拾い集めた俺は顔を上げて、シャルロッテの諜報部隊に詳細を確認する。
「……それで、その軍はこのネルド村にどれぐらいで到着するんだ?」
「ギルバート様が用意した兵士達によって食い止められていると思いますが、アラバスト王国の兵士の数が予想以上に多く……苦戦を強いられているようです。……ネルド村に到着するのも時間の問題かと」
「……あまり、いい状況じゃないみたいだな」
俺がそう答えると、俺の服の裾をラミリアが掴む。
「アーノルド、良くないコト?」
「……あぁ、相当な」
いつも冷静な諜報部隊の部下が冷静を欠いているのを見るに、相当の事態だという事が分かる。
(……でも、何故いきなり進軍してきたんだ? 進軍してくるとしても、エリナベル王国がアラバスト王国へ警告を出した後すぐに進軍してきてもいいものだが……何か狙いがあるのか?)
≪何ですか~? 緊急事態ですか~?≫
俺が思考を巡らしていると、その思考にエイルが割り込んでくる。
(あぁ、どうやらアラバスト王国がこのネルド村に向かって進軍してきたみたいだ)
≪それは大変ですねぇ。アーノルドさんはどうするんですか~?≫
(……そんなの決まっているさ)
俺はそうエイルに答えた後、シャルロッテに提案する。
「シャルロッテ、元はといえば今回のアラバスト王国の進軍は俺のポーションが原因だ。俺を進軍するアラバスト軍がいる場所へ案内してもらえるか?」
「……そんなっ! 危険ですアーノルド!」
当然の如く、シャルロッテは異論を唱えてくる。
「危険なのは承知の上だ。ここで待っているだけだと、多くのエリナベル軍の兵士が犠牲になるだろ? それは俺が許せないんだ。……頼むシャルロッテ、行かせてくれ」
俺のせいで死ぬ人は増やしたくない、そんな強い思いが伝わるように鋭い視線をシャルロッテに向ける。
「……………………わかりました。ですが、私も同行します。アーノルドだけを前線に向かわせる訳にはいきません!」
「……っ!? シャルロッテ様、それはなりません! シャルロッテ様は後方で待機をお願い致します!」
諜報部隊の者がシャルロッテに異議を唱える。
「心配して頂きありがとうございます。ですが、こればかりは譲る事はできません。……なので、護衛の方達も同行して頂けますか?」
すると、いつもシャルロッテの傍を護衛するすべての部下が姿を現す。
「「「はっ! 畏まりました、シャルロッテ様」」」
護衛の者達はシャルロッテの傍に瞬時に現れシャルロッテに
「……畏まりました。シャルロッテ様。どうかご武運を祈っております」
シャルロッテが諜報部隊を説得を済ませた後、俺に視線を向けてくる。
「それではアーノルド、向かいましょう」
「……ありがとう、シャルロッテ」
俺はリーシアとラミリアに視線を向ける。
「……という訳だ。少しの間、二人に薬屋とネルド村を任せたい。……大丈夫か?」
「えぇ……でも、本当に無茶だけはしないでね」
「アーノルド、私も行きたイ!」
ラミリアはいつもの雰囲気でその場でジャンプを繰り返す。
俺はしゃがみ込み、ラミリアの肩に手を置く。
「ラミリア、今回は本当に遊びじゃないんだ。そんなラミリアにお願いがある。……俺がネルド村にいない間、リーシアやこの村を守ってくれないか?」
俺はラミリアに今思いついた役割を与える。
それは何かをお願いしない限り、付いて来ると思ったからだ。
「皆を守る……ウン! わかったアーノルド!」
「よし、良い子だ」
俺はラミリアの頭を撫でた後、シャルロッテに視線を戻す。
「それじゃシャルロッテ、すぐに向かうぞ!」
「はい!」
前線に向かう俺達はシャルロッテの部下が用意してくれた防具を着る事となり、俺は軽装に着替え、シャルロッテは重装に着替える。
移動はシャルロッテの部下が用意してくれた高速の馬車で、豪華な荷台に乗り込んだ俺達とシャルロッテの護衛の者はアラバスト王国が進軍を開始している場所へ速やかに向かうのだった。
◇◇◇
豪華な荷台の中にある窓から荒野の先に大量の
「シャルロッテ様、間もなく前線に到着します。まずは補給拠点と合流致します」
「わかりました、お願い致します」
俺達は前線に向かう前に、補給拠点に到着する。
簡易的な布で区切られた補給地点には、戦いで傷ついた数多くのエルフ族の兵士が横になっていた。
「……酷い……これほどまでに傷ついている者がいるなんて……」
シャルロッテは傷ついた兵士を見るや否やその場に座り込む。
「……すぐに治療を始める。負傷者はこれで全員か?」
俺は負傷者を治療していた見覚えのある宮廷医療班の一人に尋ねる。
「……アーノルド!? それに、シャルロッテ様も何故ここに?」
そいつは俺達を見て驚くが、返答している暇はなかった。
「細かい事は後でいいだろ。……で、負傷者はこれで全員か?」
「はい。……ですが、治療薬が底をつき……ここでは治療する設備もなく、もう手の施しようがないのです」
「……わかった。俺に任せておけ」
(……やるぞ、エイル)
≪ふぇ~……皆さん痛そうですね~。わっかりました、私にまかせてください~!≫
横になっている兵士は所々骨が見えていたり、欠損している箇所が多い患者ばかりだった……が、俺の力の前だと関係がなかった。
俺はもう隠しておく必要もないので、すぐにエイルの力を使って負傷者を全員完治させていく。
「す、すごい……アーノルド、お前は一体……」
「よし、これでひとまず安静にしていたら目を覚ますだろう。……それで、敵はあの
俺は治療を済ませた後、
「あぁ、だが、敵兵は非常に多く、すぐにこの補給拠点を引き払い、撤退を考えていたところだ」
「そうか。なら、こいつらが起きたら撤退して構わない。後は俺に任せろ」
「アーノルド……まさか。あの戦火の中に向かうのですか?」
シャルロッテは不安そうに尋ねてくる。
「その通りだ。ここで待っていてもいいんだぞ、シャルロッテ」
「…………いや、私も付き添わせて頂きます」
俺達が向かおうとしたところ、医療班の一人が兵士が持っていたであろう剣を渡してくる。
「護身用だ、持っていけ」
「ん~……そうだな、受け取っておくよ」
俺もネルド村のドワーフの鍛冶師が作ってくれた武器をシャルロッテの部下の特訓の元、ある程度使えるようになっていたので渋々剣を受け取る。
「シャルロッテ様もどうぞ」
「ありがとうございます」
シャルロッテも同様に剣を受け取る。
それから護衛の者が待つ馬車に戻り、前線へと向かった。
前線ではまさに乱戦で、多くの兵士が戦っていた。
「ここでいい! 降ろしてくれ!」
「わ、わかりました」
――ズサァ!
護衛の者は答えるが、俺は馬車が止まる前に荷台から飛び降りる。
「あ……アーノルド!! 待ってください!」
シャルロッテの声が聞こえたが、すぐにでも血が流れるのを止めたかった俺は止まらずに駆け出す。
「まずは、前線の争いを止めないとな」
(……エイル、ちょっと魔法沢山使うからそのつもりで)
≪はいは~い≫
エイルの気の抜けた声を聞きながら俺は剣を左手に持ち替え、前線で戦っている兵士達がいる方向に向けて右手を添え――
『サイクロン!』
――その周辺一帯に暴風による渦を作り出す魔法を使い、戦闘ができない状態へと変える。
「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁ」」」」」
多くの兵士が暴風により周りに飛ばされ、両軍の間に円状の隙間が空く。
俺はその空間に入り、両軍に向かって声を上げた。
「そこまでだ!!!!」
――ざわざわっ
俺の登場に両軍から困惑した声が上がる。
ともかく、俺は戦いを止める事に成功したようだ。
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