23 治療の女神エイル

俺はぽけーっとした表情で俺を見つめているラミリアに気が付く。


「……アーノルド?」

「あ、すまないラミリア。……えっと、どう説明すれば……今から俺に力を授けてくれている女神にお願いしてラミリアに魔法を教えて貰えるか確認してみるからもう少し、待ってくれるか?」

「……? ウン! わかっタ!」


ラミリアは思いっきり疑問を抱く表情を浮かべていたが待ってくれる様子だ。


(……という訳でエイル。ラミリアに魔法を教えたいんだが、どうすればいい?)

≪わぁ~とっても可愛らしい子ですね! ふっふっふ~それはとても簡単ですよ。アーノルドさん、ラミリアさんの頭に右手を置いてくれますか~?≫


俺はエイルの言う通りにラミリアの頭に右手を置く……ついでに撫でておこう。


「ん~……♪」

(……エイル、これでいいか?)

≪はい! それでは、これからラミリアさんに全魔法の使い方を伝授してきま~す≫

(エイル!? ちょ、ま――)


エイルは俺の静止を聞かずに、ラミリアに何かをし始める。


「――っ!? アーノルド、何か声が聞こえル!!」


ラミリアが俺に問いかけてくる。


(おい! 危ない事をしてるんじゃないだろうな?)

≪大丈夫ですよ~、アーノルドさんを介してラミリアさんの脳内にすべての魔法の使い方を刻み込ませて頂くだけですから~≫


同じような事を俺も子供の頃に一度されたが、特に痛みというモノは無かったはずだ。


「あ~……ん~~……とりあえずラミリア……そいつの言う通りにしておいてくれ」

「ウン! わかっタ!」


俺は説明するのも面倒になり、エイルに全て任せる事にした。




しばらくすると、ボーっとしていたラミリアが我に返り俺を見つめてくる。


「アーノルド!! 終わったみたイ!」

「お、そうか」

(……どうなったんだエイル?)

≪はい~。ラミリアさんにもアーノルドさんと同じように全魔法の使い方を刻み込んできました~≫

(……よかった。無事終わったみたいだな)

≪あ、でもでも~ラミリアさんは魔力の上限が少ないみたいなので、一日に仕える魔法の量が限られているみたいです~。なので、使い過ぎたら倒れちゃうのでそこは注意するようにしてくださいね~≫

(魔力の上限? 魔力って上限があるんだな)

≪もちろんですよ~。アーノルドさんは私がいるので大丈夫ですが、ラミリアさんは違いますからね~≫

(……なるほど、道理で無尽蔵に魔法を使えた訳だ)

≪後々~、念のためラミリアさんの精神を私と繋げておきました~。これで離れていてもラミリアさんの状態を察知できるようになりましたよ~≫


最後にエイルがよくわからない事を言い出していたので適当に受け流す。


(ん? あぁ、分かったよ。いろいろ助かった。エイル、しばらく休んでおいてくれ)

≪わっかりました~!≫


エイルの意識が裏に引っ込むのを感じた後、俺はラミリアに視線を戻す。


「よし、ラミリア。適当に何か使って見ろ。あと、魔法を放つ方向には注意しろよ」

「ウン! さっきアーノルドがしたやつをやってみル!」


ラミリアはそう言うと、歩いて来た道に手をかざし――


「エアーシュート!」


――先ほど俺が放った魔法と同様に風を収縮した球体を放った。

遥か遠くの岩肌に衝突し、大きなへっこみを作って風の球体は消滅した。


「アーノルド!!! 出来た出来タ!!」


ラミリアは嬉しいのか、その場で小刻みにジャンプを繰り返す。


「……ほんとに使えるようになったみたいだな」


半信半疑でエイルに任せていたが、実際に魔法が使えるラミリアをの当たりにすると、やる時はやる女神という事がわかった。

とても嬉しそうなラミリアを横目に、俺はラミリアに魔法を使う上での注意事項を伝える。


「いいか、ラミリア。良く聞け」

「なぁに? アーノルド?」

「今みたいに魔法を闇雲に使わない事だ。魔法は便利だが、使い方を間違えると他者を傷つけてしまうからな。……それに、魔法が使える事がバレたら悪いやつに悪用されるからな、使ってもいいのは信頼できる者の前か自分や大切な人が危険な時だけにする事。……いいな?」

「わかっタ!」


ラミリアは元気よく頷く。


「よし、これは俺とラミリアの秘密だからな。……さてっと、素材もある程度集まったし、ネルド村に帰るか」

「ウン! 帰ろウ!!」


俺は魔法が使えて上機嫌のラミリアの手を掴み、ネルド村へと共に帰るのだった。




◇◇◇




村に帰るとネルド村に興味津々のエイルが語り掛けてくる。


≪わぁ~! 何ですかここは! アラバスト王国とは全然違いますね~! アーノルドは今この村に住んでいるんですか~?≫


頭の中からエイルの甲高い声が鳴り響く。


(……あぁもう、うるせぇな。……そうだよ、お前が寝ている間にアラバスト王国を追放されて、いろいろあって今はこのネルドっていう村が俺の住む村だ)

≪へぇ~そうなんですね! いろいろワクワクしちゃいます!≫

(ワクワクするのは勝手だが、俺が他の人と話している間に邪魔するなよな?)

≪わかっていますよ~任せてください!≫


エイルとのやり取りを億劫に感じつつも、俺はラミリアと共にドワーフの鍛冶師がいる場所へと移動する。


「これで、武器の製造を頼めるか?」


俺は集めた素材が入っている大きなかごを机の上に置く。


「おぉ……すごいな、短期間でこれほどの素材を集めるとは、さすがアーノルドさんだ」

「いや、それほどでもないさ。……ラミリアも手伝ってくれたしな」


俺は傍にいるラミリアに視線を向けながら答える。


「私、頑張っタ!」


まんざらでもないラミリアを横目に、ドワーフの鍛冶師に視線を戻す。


「武器の製造はもう任せて大丈夫か? ある程度のバリエーションの武器があればいいんだけど」

「あぁ、後は任せてくれアーノルドさん! 出来たら薬屋へ報告に行かせてもらうよ」

「頼むよ。それじゃ」


俺はドワーフの鍛冶師と別れて、ラミリアと共に薬屋へと戻る事にした。




薬屋に戻ると、シャルロッテとリーシアが忙しく薬屋で来客の接客を行っていた。

服装は薬屋専用のヒラヒラしたメイド服のような服装をオイドが発案し、シャルロッテ達にはそれを着て接客をしてもらうようにしている……こればかりはオイドに良い仕事をしていると言わざる終えない。


≪あぁー! リーシアちゃんじゃないですか!! 大きくなってぇ……可愛くなりましたねぇ≫


エイルはリーシアを見た途端、興奮気味に語り掛けてくる。


(……あぁ、ここまでリーシアが成長できたのもエイルのお陰だったな。あれからすくすく育っているぞ)

≪うんうん! とても良い事ですね~。……それはそうと、綺麗なエルフの女性の方もいるようですが?≫

(ん? あぁ、シャルロッテの事か。こいつはアラバスト王国から追放された俺を受け入れてくれたエリナベル王国のお嬢様だな)

≪へぇ~! シャルロッテさんという方ですか~! アーノルドさんは私が寝ている間にこんな綺麗な方とお知り合いになっていたんですね~!≫

(……エイル、念のため言っておくが、こいつらと俺が話している間に話しかけてくるなよ?)

≪わかってますよ~! アラバスト王国にいる時からそれは何度も注意されていますから~≫


俺が一抹の不安を感じていると、エイルは続けて尋ねてくる。


≪それはそうとアーノルドさん、この店は何を売っているんですか~?≫

(あぁ、エイルの力を水に注いだら体の不調を改善する面白い効果があってな、それをポーションとして売っているんだよ)

≪なんと、その発想は私にはありませんでした~! アーノルドさんは面白い事を思いつきますね~!≫


ポーションについてエイルは驚きつつも、特に異論はないようだ。

俺はホッと胸を撫でおろしながら、シャルロッテ達に素材集めが終わった旨を伝える。


「ただいま、素材集め終わったぞ」

「お帰りなさい、アーノルド! 早かったですね」


笑顔で迎えてくれるシャルロッテ。

すると、俺の隣にいたラミリアはリーシアに駆け寄る。


「リーシアお姉ちゃん! ラミリア、頑張っタ!」

「ふふ、そうですか!」


リーシアは駆け寄って抱き着いてくるラミリアに笑みを浮かべ、ラミリアの顔の位置に合わせてしゃがみ込む。


「ラミリアさん、よくがんばりましたね!」


ニコニコ顔のリーシアはラミリアの頭を優しく撫でていた。


(……ラミリアとリーシアって一緒に寝ているからか、すげー仲良くなったよな)

「ありがとうリーシア、店番助かったよ」

「アーノルドもおかえり」

「オイドは奥にいるか?」

「そうよ、オイドなら奥で売り上げの管理をしているわ」

「ありがと、俺も手伝ってくるよ。引き続き店番を頼む」

「えぇ」


俺は店を二人にまかせて、店の奥へと進む。

オイドは多くの金貨に囲まれた状態で売り上げの整理で慌ただしく作業を行っていた。


≪アーノルドさん、この方は?≫

(……こいつはオイドっていうやつで、俺がネルド村に初めて来て時にお世話になったじじぃだ。ポーションを作るキッカケをくれたやつだな)

≪へぇ……貫禄かんろくのあるおじい様ですね。長生きしますように~≫

(……そうか?)


確かにオイドは出会った頃と比べたら俺のポーションで体の不調はなくなり、健康体にはなっているが……よくわからん。

俺はエイルとのやり取りを終えてオイドに報告を済ませる。


「精が出るなオイド、素材集めが終わったぞ」

「おぉアーノルドかの。早かったのぉ。これで武器は完成を待つだけかの?」

「そうだな。俺も作業手伝うよ」

「おぉ、助かる。お願いできるかの」


俺は素材集めの報告を終えて、薬屋の業務を手伝う事にした。




その日の業務と晩飯を終えて自室に戻った後、エイルが話しかけてくる。


≪アーノルドさん! ネルド村ではとても楽しそうな生活をしているんですねぇ! このネルド村で起きた事をいろいろ教えてくださいよ~≫

(ん? あぁ……そうだな。ラミリアをリーシアに取られて暇だし……話してやるか。お前が俺の中で眠りについてからいろいろあったんだよ――)


俺はアラバスト王国からネルド村に住み着くまでの経緯を簡単にエイルに話した。


(――って感じで、このネルド村っていう場所で村長をしているんだよ)

≪へぇー!! 面白いじゃないですか! なんでもっと早く起こしてくれないんですか~≫


心の奥底で”そんなの嫌だ!”と叫びつつ、甲高いエイルの声を聞き流す。


(……いや、お前が寝ている間も力が使える状態のままだったし、特に起こす理由がなかったからな)

≪そんな~……こんなことなら眠るんじゃなかったです~……≫

(もういいだろ? こうやって起こしてやったんだから文句をいうな)

≪……それもそうですね! で、さっき晩御飯の時に皆さんと話していた件なのですが、アラバスト王国と今敵対しているんですかぁ?≫

(……まぁな。エイルの力の影響で他国の反感を買ってしまったようでな、少し面倒くさい事になっているんだ)

≪それは困りましたね~≫


エイルは他人事のように返答してくる。


(だから、今日みたいに武器の素材を集めたり、俺達で出来る限りの対抗手段を準備しているんだよ)

≪なるほどですね~!≫

(明日以降もネルド村が襲われた時の為に対抗できる取り組みを進めていくつもりだ。その為にも今日はもう寝るからエイルもしばらく休んでおいてくれ)

≪わかりました~、それではアーノルドさん、お休みなさいです~≫


エイルの声を聞いた後、俺は明日に備えて横になる。

こうして糞やかましい女神は俺の意識の中に居座る事となった。

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