10 ラミリアの過去

俺が即答で断ると、オイドが口を挟んできた。


「こら、アーノルド! 何を言っておる!」

「オイド! ここは俺に任せて医療所に戻っていてくれ」


俺はいつも以上に強気でオイドに伝えると――


「……わ、わかったわい。後で説明するのじゃぞ」


――何かを感じ取ったのか、オイドは医療所に戻っていった。

イスラは俺が即答で断った事に呆気に取られていたが、俺とオイドのやり取りで我に返る。


「……貴様、私の要求を断るとは……身の程を知らないようだな」

「いや、単純に一人に沢山売ったら他の村人の分がなくなってしまうだろ。だから一人一個までだ」


俺は適当に口から出まかせをイスラに伝える。


(……そもそもラミリアをあんな状態にしたやつにポーションを売るつもりは微塵みじんもないが)

「村人の事など知らぬ! お前は黙って私の言葉に従ってありったけのポーションを渡しておけばいいのだ!!」


やはりどの国王の親族も自分の事しか考えない糞野郎ばかりだ。

シャルロッテみたいな人格者は異例中の異例みたいだな。


「はぁ……ラミリア、先に医療所に戻ってろ」


俺は深いため息を吐きながら、ラミリアだけでも医療所に戻そうとすると――


「待て!! ラミリアは元々は私たちの実験道具だ。ポーションと一緒に引き取らせて貰おう」


――イスラはまたよくわからない理屈を並べ立ててくる。


「実験道具だと? ……一体何のだよ」

「魔法実験さ。……魔法を使えるモノは極少数。だが、我らも魔法というものに関心が高くてね。魔法の力を発現はつげんさせる為に様々な生物実験を繰り返して出来たのがラミリアなのだ」


(……この男は一体何を言っているんだ)

「よくわからないな、ラミリアは魔法を使う事が出来るのか?」


俺は要領を得ないイスラに尋ねる。


「その通りだ。だが、魔法の力を授かることに成功したのはいいもの、人体形成に失敗していてな……失敗作だと思い廃棄したのだが、どうやらお前がラミリアの体を治してくれたようだ。……さぁ、その子もポーションと同様に我らに渡すのだ!!」


自分勝手な物言いをするイスラを他所にラミリアはより強く俺にしがみ付いてくる。

……俺は一段と深いため息を吐く。


「断る! 何を言われようと答えは変わらない。そもそもラミリアを拾ったのは俺だ。拾った俺がラミリアをどうしようが俺の勝手だろ」


俺はラミリアの頭に手を置き、イスラを睨みつけながら答える。

イスラは顔を左右に振りながら深いため息を吐く。


「はぁ……残念だよ」

「……諦めて自分の国に帰ってくれないか?」

「手荒な事はしたくなかったが……しょうがない」


イスラはスッと片手を上げると顔を上げて俺に視線を向ける。


「今、お前の発言により……このネルド村は消滅する事が決まった」

「……は?」


あまりにも傲慢ごうまんで自分勝手な次期国王は上げていた手を振り下ろし――


「やれ、お前達! 皆殺しだ!!」


――後ろで待機していた兵士達は剣を取り出し、ネルド村の村人を襲い始めた。


「……おい、やめろぉ!!」


俺の静止を無視して、兵士は一番近くにいた村人に斬りつけようとする。


「ひぃっ!」

「……させるかっ!」


俺は村人に斬りかかろうとしている兵士に右手を向け――


『バインド!』


――ドサ!

すると、村人に斬りかかろうとしていた兵士はその場に倒れ込む。

本来であれば絶対にしないが、兵士の足部分の神経を麻痺させたのだ。


「……何っ! 貴様、まさか魔法を……っ!?」

「イスラ様……っ! やはり、エリナベル領土の村でこのような騒動は」

「ふん、このような村にまでエリナベル王国の目は届いておるまい! 構わぬ、一斉に行くのだ!」


一人の兵士がイスラに対して進言したが、イスラはひるまずに他の兵士に村人を襲うように命令する。

だが、人数が増えたところで関係なかった――


『フルバインド!』


――ドサドサドサァァ!

俺の魔法によって全ての兵士が次々と倒れていく。

下半身を一時的に麻痺させ使い物に出来なくさせたので当たり前である。


「……何をしたというのだ!」


全ての兵士が倒れ、立っているのはイスラだけになる。


「……後はお前だけだ。倒れている兵士達を連れて帰ってくれないか?」

「ぐっ……私の元に戻ってこないのであれば……ラミリア、お前にはもう用はない!」


イスラは血迷ったのか、俺ではなくラミリアに斬りかかってきた。

ラミリアは逃げることなく、その場で頭を抱えてしゃがみ込む。


「……っ! ラミリアっ!」


俺は咄嗟の事で魔法を使う暇もなく、剣を振り下ろされようとしているラミリアを抱きかかえて庇う。

次の瞬間――


――ズシャァァッ!

俺の背中に鋭い痛みが走る。


「つぅ……っ!」

(痛ってぇ!!!)

「……あ……あ、アーノルド! チが!」


俺が庇ったラミリアはずっと出すことが出来なかった声を上げる。


「……お前。そんな声だったのね」


俺は痛みと同様にしゃべったラミリアに驚いてしまう。

だが、そんな暇もイスラは許してくれないようだ。


「二人そろって死ぬがいい!」


イスラはそんな俺達を他所に再び振りかぶって斬りつけてようとしていた。


――ドンっ!

俺は最後の力を振り絞って、ラミリアを医療所の方へ突き飛ばす。


「ラミリアだけでも逃げろ!!」

「そんなっ……アーノルド!」


俺は痛みで逃げる余裕がなく、突き放したラミリアに微笑みかけたその時――


「そこまでです!!!」


――聞き慣れた、もう聞くことのないと思っていた声がネルド村に鳴り響く。


「……え」


俺は声が聞こえた方に視線を向けると、そこにはシャルロッテがいた。

それも数多くの部下を引き連れており、その一人がイスラの剣を受け止めていた。


「シャ……シャルロッテ!?」


俺は何が起きたか分からず、気の抜けた声を上げてしまう。


「アーノルド!! どうやら、間に合ったみたいですね」

「いや……なんで……なんでここに?」


俺に微笑みかけてくるシャルロッテに疑問をぶつける。


「説明は後です。皆さん、まずはこの者達を縛り付けなさい!」


シャルロッテの号令により、引き連れていた部下によって倒れている兵士やイスラは速やかに拘束され縛り付けられるのだった。

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