2 捨てられた少女
俺は宮廷の城下町にある行商人に頼んで馬車に揺られて数日かけてネルド村まで乗せて貰っていた。
「……そろそろ着くな」
「お、そうかい。みっちり運送代を払ってもらうからな?」
「分かっている、もう少し頼むよ」
行商人に俺はそう言うと、荷物から地図を取り出して周りを見渡す。
(……本当に何もない場所だな)
周りは緑が多い上にボロボロの建物が多く、ド田舎で人が少ない事が容易に分かる程だ。
(……ま、面倒な人付き合いもないから良いが)
バッカスみたいな糞面倒くさいやつもいない事を考えると、いままでより過ごしやすく得した気分になる。
「……ん? 誰か倒れているな」
そんなことを考えていると行商人が何かを見つける。
俺は身を乗り出して前方を確認すると、そこには道の隅でボロ布を羽織った者が倒れていた。
「本当だな……ちょっとだけ止めて貰えるか?」
「やめときな、あんちゃん。ここらへんは何もない場所だけあって生きていくために自分の子供を奴隷として売って生きる糞野郎の貧民が多いんだ」
「へぇ……大変なんだな」
「あぁ、だからあんなのに気を使ってたら気が滅入っちまう。見て見ぬふりをしていた方が
行商人はそう言うが、医者の端くれである俺はどうしても見捨てる事はできなかった。
「いや、ちょっとだけ止めて貰えるか?」
「……あぁ、わかったよ」
馬車を止めた後、行商人が振り返り荷台に座っている俺を見る。
「何をする気だ、あんちゃん?」
「俺も医者の端くれだ。倒れている人を見捨てる事はできない性分でね」
俺は行商人にそう伝えると荷台から降りて、倒れている者の傍に向かう。
近づくと初めてボロ布を羽織っていた者が少女だという事が分かる。
(耳が独特だな、少なくとも人間でもエルフでもない。……亜人族か)
俺は少女を抱きかかえると微かに息をしている事は確認する。
少女は微かに目を開けると、俺に何かを伝えてくる。
(……た す け て か……)
喋る事ができないのか、俺は
すると、少女は再び目を閉じて意識を失ってしまった。
少女の鼓動は弱く、体はボロボロで酷い扱いを受けていた事が容易に想像できる。
「……ちゃちゃっと治すか」
俺には女神の祝福を宿した目と右手を使う事であらゆる傷も治療することが出来る。
目では対象の体を透視して傷ついている部位を特定でき、右手を使って患部を内部から治療する。
(本来はサボリ用として使っていたスキルだが、こんな形で役に立つとはな)
宮廷の医療班にも隠し続けていた密かなスキルを使い、俺は少女の体を透視する。
・両足のアキレス腱断裂
・股関部分の断裂
・肋骨部位の複雑骨折
見ればみるほど、この少女が酷い扱いを受けていた事が分かった。
おそらく、死にそうになっている少女の処分に困った持ち主が道端に投げ捨てたのだろう。
(……細かい分析はいいか)
俺はボロ布に包まれている彼女の傷ついている部位に右手を当て――
『オールリカバー』
――俺だけが使える万能治療魔法を唱えて傷ついた患部を次々と内部から治していく。
鼓動も落ち着き健やかな寝顔になった少女を抱きかかえると、待たせている馬車に戻る。
「待たせたな」
「あんちゃん、今何をしたんだ?」
「ん? あぁ、治療したんだ。魔法ってやつだ」
「へぇ……あんちゃん、魔法ってのが使えるのか。それは珍しいな」
行商人が驚くのも無理はない。
魔法は誰もが使える訳ではなく、選ばれた限られる者にしか使う事ができないからだ。
俺もその一人だが、宮廷ではバレたら面倒だったので魔法が使えるのは隠し通していた。
「それよりも、ネルド村まで急いでくれるか?」
「あぁ……だが、そのお嬢ちゃんの運賃料も追加で請求させてもらうから、そのつもりでいろよ?」
「がめついな……あぁ、それで構わないよ」
それから少女を連れてネイル村まで行商人に連れていってもらった。
◇◇◇
しばらく進むと、古びた家がいくつも並ぶ村の入り口付近へと到着する。
「さ、ネイル村に着いたぜ、ここがあんちゃんの目的地だろ」
「あぁ、ここまで連れてきてくれて助かった。ほら、運賃だ」
俺は懐から運賃を渡し、行商人とはお別れをすました。
村民は数えるほどしかいない村だったが、足を踏み入れると少女を抱きかかえて目立っているのか俺をチラチラ見てくる。
(……そんなに見るな。……えっと、医療所、医療所っと……)
俺は視線を無視して医療所がある場所へと歩みを進めた。
村の奥に進むと、今にも崩れそうなボロボロの医療所がそこにあった。
(まさか……ここじゃないよな?)
俺がそんなことを思いながらドアをノックする。
――コンコンッ
すると、俺のノックで今にも取れてしまいそうな入り口の扉が開き、髪も
「おぉ……待っておったぞ。……お主が新しい医者かの?」
「……どうも、初めまして、アーノルド・エドワースです。今日からお世話になります」
「ふぉっふぉっふぉ、そんなに固くならなくてもいい。わしはオイド・ロール、ここの医療所の担当医をしていた者じゃ。……して、その子はなんじゃ?」
オイドは白髭をさすりながら俺が抱きかかえている少女を見て尋ねてくる。
「ここに来る前に拾ったんです。あの、この子を横に出来る部屋って空いてますか?」
「なんじゃ。さっそく患者かの。……ついてくるのじゃ」
オイドは特に詮索することなく、中に入れてくれた。
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