カモミールとカード、ボクのできる限りのいたわりを【朗読にも使える】

つづり

カモミールとカード、ボクのできる限りのいたわりを

 大学の女友達の相談を受けた時、彼女からこう言われた。


「柳瀬君は、他の子より話しやすい・・・どうして、こんなに話がしやすいんだろう」

 

 そんなことを言われても、ボクにはわからない。

 ただ、ボクは喫茶店をしている両親の息子で、誰かに温かい飲み物をとどけたり

姉の影響で占いがスキな、だけだ。


 夜中の0時をまわっていた。

 チャイムを何度も鳴らされて、ボクは耳を抑えながら扉をあける。

するとそこにお隣さんでもある、彼女がいた。

 OLとして、結構大きい企業で働いているという彼女は、不機嫌そうな顔でずかずかと

部屋に入ってきた。


 ボクは肩をすくめながら彼女に聞く。


「どうした? また寝られないんですか」


「そうね、寝れないの」と彼女はぼそっと言った。


 彼女にはとてもお世話になっている。

 たまたま知り合っただけなのだが、彼女はボクのことをよく世話をしてくれる。

今バイトしている喫茶店も彼女が紹介してくれたところだ。


 なので、ボクは彼女に弱い。

 お世話になっているから。


 ボクは彼女に水を出すと、彼女は一気に飲み干した。


「で、今日はどうして寝れないの?」


 彼女はコップから口を離すと、少し言いづらいのか

眉をよせた。


「食べ過ぎた・・・一人焼肉してたから。ちょっと気持ち悪いくらい・・・」


「いいなぁ、焼肉。ボクも食べたいくらい」


 彼女の話を聞きつつ、ボクはお茶を収納しているボックスを出した。

親の影響でお茶をあれこれ収集するようになって、ボクのお茶ボックスは

 一人で飲みきれないくらい。だから彼女に振る舞う。お茶の消化を進めるために。

ただ、それだけなのに、なぜか自分に対して作るより、楽しい。


「はい、どうぞ、カモミールティ」


「ありがと・・・なんでこれをいれたの?」


 彼女のなぜが始まった。

お茶好きなボクの、お茶の選定理由を、彼女はいつも聞いてくる。


「胃が休まるし、眠れなくてイライラしてる君の心も落ち着けてくれるよ。甘くしたかったら、はちみつあるよ。まあ、今回のは甘みのあるジャーマンカモミールだけど」


 ボクの説明を聞くと

 ありがとうと、彼女はゆっくり香りを感じながら口をつける。

一口飲むと、心を落ち着いたのか、大きく息を吐いた。


「しかし、焼肉食べたのに、なんでそんなに浮かないの……

食べすぎにしても、顔に憂鬱って書いてるのは重症だと思うけど」


 ボクは彼女の顔をまじまじと見た。

 彼女はわずかに頬を赤らめ、視線をそらす。

心配かけたくないのか、それともまじまじ見られて照れくさかったのか

どちらなのか、分からなかった。


 彼女はぶっきらぼうな口調で言った。


「明日歓迎会なの、幹事することになってて」


「たいへんな役目じゃん・・・ボク、絶対できないやつ・・・」


「そう、そうなの!! 仕事の傍らであれこれ考えなきゃいけないってのに・・・!」


 彼女の苦言というか、ぐちの勢いは猛烈だった。

 店探しに、出欠確認。今の御時世だ、大皿でものをつっつきあうわけにいかない、メニューを個別に出せるか確認して。

後輩からは飲みニケーションとか、と半分笑われたそうだ。

 彼女だって、この歓迎会が正しいかどうかといわれるとよくわからない。

よくわからないけど、果たさねばいけないこともある。


 自分たちの主張がそのままとおるほど、甘くないからだ。


「家でもネット使えば交流できるし、バカバカしく見えるものかもね」


 ボクが、愚痴る彼女の話を聞きながらカードの束を切っていると

彼女は頭をかしげた。


「さっきから、カードをかき混ぜたり、切ったり・・・なにしてるの」


「占い・・・ルノルマンカードってやつを、最近勉強してて。一日一回は練習しているの」


「占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦じゃない・・・よくやるわ」


 そうだねとボクはうなずきながら笑った。


「当たる当たらないとかで、占いをすると悪い意味でハマるから・・・ボクにとって前向きにするためのワードを引くアイテムにちかいかな」


「悪い結果でも?」


「うん、悪い結果なら、気をつけるポイントが見えてくるでしょ」


「ふうん・・・」


 彼女は曖昧にうなずきながら遠い目をした。

それから、ぽけーとした表情のまま、ボクに聞く。


「で、今日は何を占っているの?」


 ボクは即答した。


「明日の、お姉さんがどうなるかって、見てる」


 彼女はぎょっとしたように目を見開き

は? は?? と声をあげたが、やがて状況が飲み込めたのか

ジト目をした。


「また、勝手に・・・で、結果はどうなのよ」


 ボクは2枚のカードを見せた。

一枚目はガーデンと呼ばれる、庭の絵が描かれたカード

もう一枚は、レターだ。手紙のカード。 


 カードの意味を知らない彼女に、ボクは丁寧に結果を説明した。


「このガーデンのカードは社交の場、人と出会いが得られる場所を指しててね。

すごい楽しそうな様子が想像ついた。お姉さんの用意した歓迎会は成功するよ……やけ食いするほどまでにセッティングしたかいがあるってもんだ」


 彼女は半信半疑というか、自信なさげな顔だ。

ボクは苦笑する。


「そんな自信の無いって顔しないの。

オンライン上でも会話はできる、顔だって見せられる相手なら、別に直接会わなくても変わらないってのも本当だけど。

でもさ、会ってみたい、会いたい、出会いを感じたい時、直接がいいと思うのも本当だよ。お姉さんの用意した歓迎会はそういう場所になる」


 それにねと、ボクは言葉を続けた。


「お姉さんへ贈るアドバイスに、レターのカードが出ている

これは主に書面や情報でのいい知らせを意味していて、君が何かを受け取るってと解釈してもいい。僕は君が良い知らせを受け取ると解釈してる、きっとお礼とか言われるんじゃないかな」


「超いい結果ね・・・」


 どこか照れくさそうに視線を天井に向ける彼女に、ボクは目を細めた。


「いい結果でしょ、こんないい結果を無下にする訳にいかないよね・・・明日の歓迎会を楽しい場にするかどうかは、幹事の君の腕次第なんだから」


「そ、そうね・・・たしかに。ありがと、応援してくれた、んだよね」


 実際応援したのは事実なのに、ボクはなんともいえないむずがゆさを覚えた。

照れくさいような、口元がゆるみそうな・・・

ボクは質問に答えず、彼女に言った。


「は、はやくカモミールティ飲みきってよ・・・それでゆっくりやすんで、明日もお仕事でしょ」


 彼女はボクの言葉に、なぜかクスクスと、嬉しそうに笑った。


「もう、笑わないでよ」


 ボクはそうは言いつつ、少し笑ってしまった。

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カモミールとカード、ボクのできる限りのいたわりを【朗読にも使える】 つづり @hujiiroame

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