第12話 旦那候補登場

「はい。どんときてください」



 かぐやが簾を持ち上げますと、目の前には赤い布に「金」と大きく刺繍してある腹かけを掛けた大男が、両手を広げて待っていました。髪の毛は竹ぼうきのように広がっていて、無精ひげも生えています。


 それに横には女性が座っていて、彼の膝に手を置いていました。お母さんと言うよりかはおばあちゃんでしょうか。随分お年を召しているようです。皺だらけの恐ろしい顔をしているくせに、5歳の子供を見るような優しい目で金時の顔を見つめています。



「ちょっと、ママ、今大事なところなんだからあんま触んないでよ」



と、デレデレしながら金時は言います。



「何言ってんの。金ちゃんの緊張をほぐしてあげようと思ってるだけじゃないの」



「あぁもう、金ちゃんって呼ぶのもやめてって」



 金時は嬉しそうに母の手を握ります。彼の言う「もう」から、怒りの感情は一切感じられません。



「椿。ちょっと」



 かぐやは広げていた手を閉じて、すぐに簾を下ろしました。ひどく低くて冷めきった声です。

椿とて、覚悟はできていました。深く息を吸うと、「はい、ただいま」と彼女の傍へと向かいます。

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