四月〇日夜のニュースより
「ご覧ください!マンハッタンのこの紙吹雪を!!
戦争勝利の報告に、市民が喜びの声を上げています!!」
「こんばんは。今日のニュースは速報が飛び込んできました。
混迷の続くイラクですが、先ほどイラク前大統領の逮捕が発表されたのです。
ワシントンの〇〇さん。よろしくお願いします」
「はい。
ワシントンの〇〇です。
先ほどホワイトハウスの記者会見において、この件をホワイトハウス報道官は正式に認めました。
この後大統領の記者会見も予定されています。
現在のイラクは北部のクルド人勢力とトルコ軍が激しく争っており、中部は前大統領のシンパが米軍を相手にゲリラ戦を展開。安定していた南部イラクに駐屯していた英軍と自衛隊が中部イラクへの増援に動き出した矢先の事でした。
これを踏まえて、中部イラクでの抵抗は急速に鎮静化すると期待され、国連信託統治領となるイラク北部と中部南部イラクの独立を認めたイラク三分割案の国連決議可決に伴って実質的な戦争終結についての筋道が整ったと言えます」
「大統領選が本格的に始まったこのタイミングでのこの報告は大統領選に影響を与えそうですね?」
「はい。
大統領選は民主党の予備選が行われて大勢が決しており、七月の党大会を前に候補者が決まりました。
現在二期目を目指す共和党現職の大統領はイラク情勢の低迷に伴って支持率を落としていたのですが、この一報が入った事による米メディアの緊急世論調査では支持率の上昇が確認されています。
先ほど始まったニューヨーク市場は全面高のご祝儀相場になっており、大統領選挙のテーマとしてイラク問題は俎上に載るでしょうが、それが『イラク復興』という中東全体のグランドデザインを問う事になるのは間違いがないでしょう。
ワシントンからは以上です」
「ありがとうございました。
今日のコメンテーターは神戸総司さんです。
神戸さん。まさかのビッグニュースですね」
「ええ。イラク問題は前大統領とその支持者の逃亡からのゲリラ戦という展開から、ベトナム化という悪夢になるのではと囁かれていました。
明確な勝者と敗者ができた事で、イラクは新しい展開を迎えるかもしれません」
「今後のイラク情勢はどうなるのでしょうか?」
「現在のイラクは自衛隊と英軍がイラン軍とにらみ合っていた南部イラク、米軍が激しいゲリラ戦に悩まされていた中部イラク、クルド人とトルコ軍が激しく争う北部イラクの三つに分かれています。
国連で決議されたイラク三分割案は、トルコとクルド人が激しく争って解決が見えない北部イラクを国連信託統治領化する事で大統領選挙後まで先送りし、安定している南部イラクのイランの勢力拡大を容認して自衛隊と英軍を中部イラクに投入し、大統領選挙前に中部イラクを安定化させることを目的にしていました。
今回の前大統領の逮捕によって中部イラクでのゲリラ戦の鎮静化は、派遣される自衛隊に損害が少なくなる事を意味するだけでなく、9.11から始まったテロとの戦いが新しい局面に移るという事も意味し、新しい世界秩序に向けた動きが始まろうとしているのかもしれません」
「ありがとうございました。では次のニュースです。
富嶽放送のTOBですが、アイアン・パートナーズは今日の夜の記者会見で、過半数の株式を取得したと発表しました。経済部の××記者です。
「はい。
外国の投資ファンドが20%以上の株を保有する事については法律に抵触するという意見もあったのですが、阿蘇総務大臣が記者会見で『名義書き換えの拒否によって20%を超える事はないので、放送免許が失効されることはない』と発言したことで、アイアン・パートナーズ側はTOBの価格を一万円にまで引き上げて株を買い進め、ついに目標の過半数に到達する事になりました。
アイアン・パートナーズは記者会見で臨時株主総会の開催を要求しており、富嶽放送経営陣の退陣は避けられない情勢となってきました。
富嶽放送は富嶽新聞や富嶽テレビ、富嶽ミュージックなどを持つ総合メディア企業富嶽グループの中心企業であり、アイアン・パートナーズは一部ではハゲタカファンドと言われていますが、株の取得後それを第三者に高値で売り渡す事で利益を得る投資ファンドです。
既に、日本への参入を目指した外国メディアや、国内のネット企業がアイアン・パートナーズに接触していると言われており、次の舞台はアイアン・パートナーズが誰にこの過半数の株式を売り渡すのかという事になりそうです」
「ありがとうございました。
神戸さん。まさかの敵対的TOBの成功でしたね」
「ええ。この成功には富嶽放送側の想定外がいくつか存在していました。
まず一つは法律の外資規制を頼りに20%以上保有される事は無いと信じきっていた事。
メディア各社はこの名義書き換え拒否によって外資が過半数まで買い進める事を想定していませんでした。
次に、高値で富嶽グループを買ってもいいと言える企業が存在した事ですね。
世界ではメディア企業の再編が進んでいた事もあり、外資系メディアが国内に参入したがっていましたし、去年からの市場の株高でIT企業を始めとして、保有資金を膨らませていた所はメディアという超優良物件に割高でも企業ブランドを高める事ができると金を出してきたのです。
こういう高値でも株を買うと判断したアイアン・パートナーズ側は、不良債権処理が進んである程度金が余っていた市場調達で容赦なく資金をかき集めて過半数をもぎ取りました。
日本的義理人情や系列や業界などを無視した価格勝負で一点突破したと言えるでしょう」
「けど一万円を超えた富嶽放送株ですが、買う会社が現れるんでしょうか?」
「これが最後の想定外ですね。
放送法の規定で外資が20%以上を持てないという事は、国内企業と組む必要があります。
今回、アイアン・パートナーズが過半数を取得したという事で51%の株を持っていると仮定しましょう。
その場合、放送法に抵触しないように外資19%、国内企業32%というバランスが必然的に生まれるんです。
国内企業からすれば、高値でも外資が二割ほど負担するので過半数を自力で買うより安く手に入れられ、外資側も主導権を渡すように見せながら、拒否権が行使できる33.4%に届かせないようにして裏切りを防ぐ。
見事なものですよ」
「ありがとうございます。
次のニュースですが、まもなく上場する桂華金融ホールディングス。
不良債権処理終了の象徴であり、企業買収によって大きくなった桂華グループが数兆円の上場益を得て狙う次は?
CMの後……」
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あの銀髪宰相一番の凄運はこれだと私は思う。
イラク大統領逮捕
史実では2003年12月13日逮捕。
閣議決定が12月9日で11月29日には在英国大使館参事官と在イラク大使館三等書記官が、イラクで襲撃を受け死亡した中での決定だった。
想定外
後に流行語になるので使いたかった。
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