天音澪と三人の姉 初等部卒業編
天音澪には三人の姉がいる。
血のつながっていない姉だが、『お姉ちゃん』と呼んで慕っているのは小学生を卒業する今でも変わらない。
「では、卒業式を終わります」
みんなと一緒に講堂から出る天音澪を三人の姉たちが待っていた。
一足先に中等部一年になっていたので、三人の姉は中等部の制服である。
「卒業おめでとう!澪ちゃん♪」
澪に花束を渡したのは長女である桂華院瑠奈。
彼女の後ろに側近団とかご学友とかとりまきが凄い事になっているのだが、気にしなくていいというお言葉を長女自身から言われていたり。
とはいえはいそうですかと振る舞えるかどうかはまた別問題なのだが。
「これで澪ちゃんも中学生ね。
色々お願いするかもしれないから、その時はよろしくね♪」
いい笑顔で握手をするのが次女の春日乃明日香。
生徒会執行部入りした彼女の理由は言うまでもない。三人の姉に直接取次できるからだ。
口の悪い人は澪が入った執行部を『桂華院政権』と呼んでいるとか。
その初等部『桂華院政権』の実務者こそ春日乃明日香だったり。
なお、長女と次女は中等部でもクラス委員というキャリアを積んでいる。
「あれ?
蛍お姉さまは?」
「さっきまで一緒に居たけど?」
「また蛍ちゃんふらふら居なくなってぇー」
「ひっ!?」
姉二人の声の後に少し離れた所から別人の驚いた声が。
あ、これは三女の開法院蛍が驚かしたなとその方を向いたら出てきたのはニコニコ顔の蛍と、恥ずかしそうに顔を赤めている中等部二年の敷香リディアがいた。
(にこにこ)
「く、偶然こっちに来たものだから……
天音さん。卒業おめでとう」
「はい。ありがとうございます!」
敷香リディアのポンコツぶりもなんとなく慣れてきた今日この頃。
三人の姉は生暖かい笑顔で彼女を見ていたり。
そんな訳で、この後長女のお気に入りの喫茶店『アヴァンティー』にて卒業パーティーが開かれる。
ここで店を貸し切りにしないのがこの三人の良い所なのだろう。
側近団や警備はたまったものではないみたいだが。
「これで来年からの一年は色々できるわね」
引っ張られたというか断れなかった敷香リディアが心からの声を漏らす。
クラス委員として中等部生徒会で多大な影響力を発揮できるからだ。
もちろん、姉たちと澪の協力が前提なのだが。
テーブルの上にはそれぞれのお茶とブームになりつつあるマカロンが鎮座している。
「色々って何をするんですか?先輩?」
長女の桂華院瑠奈が尋ねる。
彼女は中等部次期執行部である帝亜政権にて副会長がほぼ内定している。
敷香リディアの色々がそのまま彼女に押し付けられるという事もあり得るのだ。
「一つは、特待生の処遇改善かしら?
少し緩和できたらなと思うのよ」
長年の学園執行部の課題を口にして次女の春日乃明日香の顔が強張る。
確実に彼女の年代にもやってくる政権課題と理解したからだろう。
「意外ですね。
リディア先輩って侯爵家のお嬢様だから、そのあたり気にしないと思っていました」
「上に不満が向けられると革命でひっくり返るじゃない。
だから、下を作るのよ」
「あー。
そういう事ですか」
話を振って返ってきた返事に即座に理解して顔をしかめたのが桂華院瑠奈。
彼女がやりたいと思っている事を口にして確認をとる。
「つまり、一番下の特待生の更に下を作って、不満を下に向けさせるつもりですか?
元社会主義国出身のお嬢様の発想じゃないですよ」
「そんな事言っても、私の国が崩壊する直前にはソ連崩壊時のロシア難民やら共産中国から逃れてきた中国人やらで、社会がめちゃくちゃだったんだから。
なんとか穏便に国家が潰せたのは、当時の支配層がその難民に敵意を向けさせたからに決まっているじゃない」
絶対にこれ中学生がする会話ではないなと思いつつも、主役の天音澪は開法院蛍とともにマカロンを食べることで口を挟まない選択をする。
「という事は、特待生の下だから一般市民枠ですか?」
「そのあたり、天音さんが苦労するからパス」
春日乃明日香の質問に敷香リディアは人差し指を頬につけて返事をする。
少し首を傾けるしぐさがかわいいのだが、出て来る会話は大人顔負けの泥臭いもので、変に一般市民枠を作ると天音澪がその枠の星と見られて担ぎ上げられかねない事を危惧しているのだった。
敷香リディアも悪辣であろうとしても、自分を慕ってくれる後輩を犠牲にするほど外道ではないらしい。
尤も、彼女の生まれである官僚ではあるみたいなのだが。
「ほら。1999年に男女共同参画社会基本法が制定されたでしょ?
その後の動きだけど、樺太の二級市民救済策も盛り込まれる事になりそうで、教育についてアファーマティブ・アクションを入れるかって動きがあるみたいなのよ。
そうなったら、二級市民の出来のいい連中が継続的にここ帝都学習館学園に入学してくる事になるわ」
本来ならば理事会案件だが、親や未来の自分たちがこの国の国家中枢に立つからこそ学園内の強大な自治権を有する学園執行部には理事会に働きかけるぐらいの力はある。
ましてや、国家方針の先取りという事は教育機関としてPRの一面もできて理事会に恩も売れる。
「そこまで仕掛けるなら、先輩執行部狙ったらいいじゃないですか?」
「できたらやっているけど、私、結局外様なのよね」
「あー。すごく納得しました」
二人してテーブルに突っ伏す敷香リディアと桂華院瑠奈。
この二人の金髪がどうあがいてもこの日本と言う国において異物感を出してしまっている。
おまけに、桂華院瑠奈には帝亜栄一という同世代の旗頭になるだろう傑物がおり、敷香リディアには彼女が担げる傀儡が居ない。
「という訳で、澪ちゃん。
中等部執行部生徒会会長狙ってみない?」
「リディア先輩。かわいい妹を政争に巻き込まないでください!」
さらりとスカウトする敷香リディアを春日乃明日香が窘める。
天音澪は初等部で生徒会執行部入りしているし、バックに桂華院瑠奈と春日乃明日香という大物がつく。
狙うのならば、中等部生徒会執行部会長も夢ではないのだ。
そんな先の事を天音澪は腰に手を当てて姉たちを叱る。
「もぉ、私の卒業パーティーなんですから難しい話はダメダメです!
見てくださいよ!
三人のマカロンもう残ってないですよ!!」
「「「え?」」」
(ぱくり)
敷香リディア・桂華院瑠奈・春日乃明日香の三人がマカロンの皿に視線を向けると、最後のマカロンが開法院蛍の口に入った所だった。
そのまま、彼女が姿を消すのもお約束。
「蛍ちゃん!マカロンがおいしいからって私たちの分まで食べたぁ!!」
「卑怯よ!蛍ちゃん!
まずくなったらその姿隠すのやめてよ!!!」
「もう一回注文すればいいじゃない……」
そしてまた中学生らしいたわいない話に五人は戻る。
そんな卒業パーティは天音澪の大事な思い出。
天音澪にはそれを行うチャンスも才能もあった。
だが、それを行う意思はなかった。
だからこそ、彼女はこの三人の妹でいられるのだ。
────────────────────────────────
天音澪の生徒会執行部時の役職が分からなかったので、後で探して修正する予定。
マカロン
ちょうどこのあたりにブームが来ている。
派閥継承
敷香リディア>>桂華院瑠奈>>天音澪
三代三年の間クラス委員として影響力を行使できる。
なお、このあたり某ラ党の派閥継承と影響まんまである。
学校は年次で継承序列が強制的にできるけど、社会に出るとこのあたりが絶対ではないから派閥争いが世にはびこることに。
アファーマティブ・アクション
肯定的措置・積極的是正措置と訳される。
弱者集団への社会救済策の一つして教育においてその弱者集団の枠を用意したり優遇する事。
これ、今では大問題になっていたり……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます