お嬢様が馬主になるそうです 練習編
ある日。
処理の重要度の低い書類の為に私は橘を呼び出す。
急ぎでもないしハンコは押すのだが、何でこうなったのかは知りたかったのだ。
「北海道の競馬牧場ってこれ何?」
「お嬢様。
香港で見た馬の子を買いたいって言ったじゃないですか。
それの準備ですが」
「何でそれが北海道や自治体を巻き込んだ牧場支援策になっているの?」
馬を買ってそのままという訳にも行かないので、牧場を買うというのは分かる。
だったら一つでいいだろうと私は思ったのだが、出てきたのは道を巻き込んだ中小牧場支援策である。
さすがにハンコを押す前に橘を呼んだのは間違っていないと思う。
「お嬢様のお名前に便乗……」
「おーけいわかった。有名税という訳ね」
橘の話をまとめるとこうなる。
私が牧場を買って馬を走らせようと動いた結果、経営の苦しい中小の牧場が『うちを買ってくれ!』と殺到。
その選定をしている間に、牧場側が自治体や道とつるんで陳情合戦を始めて泥沼化。
結果、まとめる為に牧場支援策という所まで話が大事にという訳だ。
「これは、私どもから確認させてもらいたいのですが、お嬢様は牧場の経営にどのような方針を持っているのでしょうか?」
「?
お馬を買って、走らせてでおしまいじゃないの?」
牧場施設の維持・運営の費用が発生するし、その為の人件費もかかる。
更に馬は生き物なので、食費やもろもろの費用だけでなく、レースに出る際には運搬しなければならない訳で。
そういうのも入れて、百億円用意して好きにしてと言っておいたのだ。
百億円を好きにしてと言えるようなった中学生。えらいものになったなぁとふと我に返る。
競馬が紳士のスポーツとはよく言ったものだ。
「牧場側にも浪漫とかモチベーションがあるのです。
お嬢様が買うだろう馬は中央で勝てる馬です。
それをどう育てるとか、どう繋げるとか考えていないでしょう?」
「繋げる?」
私は首をかしげる。
育てるは分かるが、繋げるとは?
「馬というのは育てて、走って、血を繋げるものなのです」
橘の説明にまだピンとこない私。
橘はそんな私を見て納得という感じのため息をついた。
「このあたりはやってもらわないと分からない所なのでしょう。
そこで、お試しという形で違う馬を買ってみてはどうでしょうか?」
橘の言葉にも一理あるなと思って、私はその提案を受け入れる事にした。
「で、何であんたたちが来ている訳?」
橘を連れて北海道にやってきたのはいいが、ついてきたのが岡崎と天満橋のコンビ。
悪びれもせずにおっさんこと天満橋桂華商会副社長は言い切った。
「嬢ちゃんの金で浪漫ができると聞いて!」
「蹴っていい?」
岡崎を練習台にした蹴り技をおっさんに披露しようと足をあげる寸前に岡崎に止められる。
なお、このギャンブラーも顔が笑っていたから、天満橋副社長と根は同じである。
「お嬢様。書類ちゃんと見ていなかったでしょ?
牧場の管理は桂華商会の子会社が行うんですよ」
あ。納得。
総合商社というは、文字通りの何でも屋である。
だから、儲かるならば何でも首を突っ込むので、この手の何処に投げればいいか分からないものを投げるのに実に都合がいいのだ。
なお、社内の馬好きどもが勝手にプロジェクトを立ち上げているらしい。
こいつらは……
「まぁ、利がない話でもないんですよ。
社交界でのステータスになりますし、急膨張した桂華グループには求心力のある旗はお嬢様以外にも必要なのです。
そろそろ、スポーツチームを持っても悪くない時期かもしれませんね」
岡崎の言葉にも一理ある訳で。
桂華グループは寄せ集めから、一つの企業グループとしての形を整えようとしている現在、求心力のある旗を私以外に探す必要があったのも事実である。
「そのあたりの話は、また今度しっかりとしますか。
とりあえず、目の前の馬に集中しようと思うのだけど、何がいいのか分からないのよねぇ……」
カタログを見ながら私は必殺技を使った。
「うん。任せた」
「それで、本当に任せるんだからこの人仕えがいがあるんですよ」
「まぁ、損はさせへん程度に浪漫に走りましょ」
分かってたとばかりに苦笑する岡崎と天満橋のギャンブラー二人。
「淀と仁川の恨みここで晴らさせてもらいまっせ!」
とか言っているおっさんに岡崎が苦笑しながら引いている珍しい絵が見れたからよしとしよう。
なお、落ち着いているようで橘も結構ノリノリだったのは見なかった事にしよう。
「お嬢様。
ちなみに、どのレースに勝ちたいかとかありますか?」
何気に聞いてきた橘の質問に私は首を傾げながら返事をする。
「ダービーとかに拘りはないけど、強いて言うなら有馬記念?」
私の返事に三人とも納得する。
あまり競馬に詳しくない私でも、有馬記念の名前は知っているのだ。
だったら、その知っているレースに勝ちたいと思うのは当然な訳で。
「有馬かぁ。
という事は、中山競馬場ですな」
「あれに勝てる馬は中々厳しいですよ」
「ま、お嬢様のオーダーでっせ」
そんなこんなで、最終的に三人がセリで買ったのは十頭ばかり。
それと、私の趣味でピンときた一頭の計十一頭である。
「で、何でこの馬を買ったんですか?」
岡崎の質問に私が答える。
ちょうど私の買った馬が出ていくところだった。
「あの馬、眺めていた時に私から視線を離さなかったのよね」
好きに買っていいという事だったので、それで決めただけだったりする。
そんな返事をした後、私に天満橋副社長がつっこんだ。
「せやけど、あの馬ダート向けで有馬にはきつうおまっせ」
「え?そうなの??
まぁ、いいか。
そのダートレースで一番をとる事を目標にしましょう」
「ちなみに、名前はどうするのですか?」
橘の確認に私は頬に手を当てて考える。
馬の名前にはいくつかルールがある。
その上で、桂華グループの冠名である『ケイカ』をつけてカタカナで9文字。
「試験的な意味合いでプレビュー。
『ケイカプレビュー』にしましょう」
こんな感じで私の馬主人生はまだ始まったばかりである。
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用意したもの サイコロ
買った馬の能力はこんな感じ
二歳 牡
1000-1600
晩成
ダート ◎
体質 A
気性 B
実績 C
底力 B
安定 C
親まで決めるのきつかったので、読者でそれっぽい馬を提示してくれたらそれを採用するというぶん投げスタイル。
架空馬だけど、親は実在という感じてお願いします。
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