帝都学習館学園七不思議 学生寮のざしきわらし その6
『神社復興 教会立ち退きに合意
本日、帝都学習館学園近くの教会が移転に合意し、関係者の間で調印式が行われた。
元々この教会の敷地は帝都学習館学園の構内に造営された神社で、大戦中は国家神道を祀っていたが、戦後にその敷地を学園が手放した際に教会が建設されたという経緯がある。
教会はバブル期の地上げにも負けず地域に根差していたが、近年老朽化が進んでおり、耐震強度に問題があるという事で行政側からも改善が求められていた。
今回の移転は帝都学習館学園のOBが移転資金と土地を提供して行われ、教会跡地にはかつての神社を再建して帝都学習館学園に寄付すると取材に答えてくれた。
かかる費用は土地提供まで含めて十数億円にもなるが、再開発に弾み……』
まずは大元の風水陣を正常化させる。
探ってみると出てくるわ出てくるわ深い闇が。
具体的に言うと、帝都学習館学園の風水陣を構築した陰陽師らしき人物が特定されたのだ。
というか、多分蛍ちゃんのお爺様か曽爺様。
蛍ちゃんはかつて将来の夢という作文で、『神への贄として捧げられて、座敷童子に成る』って書いていたが、まさか本当に生贄だったとは……
これやばくね?という訳で、私より付き合いが長い明日香ちゃんにも一声かけてのこの仕掛け。
私の資金ではあるが、窓口として明日香ちゃんのお父さんである春日乃衆議院議員に動いてもらったのだ。
運が良かったというか、春日乃衆議院議員は今年夏の選挙後にめでたく文部科学省政務官についていた。
学校回りだけでなく、宗教がらみも文部科学省の管轄である。
利権としてマスコミに叩かれないように、慎重にかつ迅速に動いての教会移転。
おそらくは連合国によって国家神道の解体を目的として建てられた教会は、今や当初の目的を果たし終えて地域に根差していたので、再開発と老朽化という建前で代替地と資金を提供したら、喜んで移転に同意してくれた。
国家神道の再建という形で叩かれる可能性もあったので、地域の氏神様を祀る形での再建になるだろう。
こっちは、神奈一門が総動員された。
国家規模の風水陣の正常化なんて神奈水樹一人の手には余るため、その手のコネを大量に持っていた当主神奈世羅をはじめ、神奈一門を巻き込んだ大仕事に。
そりゃ、神奈への支払いも十数億となった。
とはいえ、私にとってはたった数十億である。
蛍ちゃんという大切な友達を助けられるのならば、数十億は安い。
それが言えるようにお金を貯めに貯めたのだ。
ここで使わずしていつ使う?
という訳で、新聞の地方ニュースの端っこに記事が載る出来事は、さして世間の目に留まることなく行われた。
「けどさー。
風水陣だっけ?
戻して、蛍ちゃんがざしきわらしになったりとかしないの?」
教会は現在解体の真っ最中。
再利用も含めて丁寧に、慎重に解体工事が進められる中で、私たちはその一部始終を見ていた。
このあたりの知識がない明日香ちゃんが神奈水樹に確認を取る。
神奈水樹はさもあっさりと言い切った。
「大丈夫。
神の子供って、本来は七歳までだから。
七五三なんかはその名残ね。
本来ならば、その時点で開法院さんは消えていないといけなかったのよ。
けど、彼女はこうして中学生になっている」
そっかー。
あのみかん、本当にありがたいものだったんだなぁ……
私のジト目に明日香ちゃんは視線をそらしたままである。
なお、さすがにみかんをオレンジと強弁するのはきつくなってきたお年頃。
「それでもざしきわらしたちは『仲間になれ』と開法院さんを導くことぐらいはできたと思うわ。
けど、ざしきわらしたちはそれを拒否した。
何でだと思う?」
「瑠奈ちゃん何で?」
「私に聞かれても困るわよ。明日香ちゃん」
安全を考えて私たちはヘルメットをかぶっている。
なお、現場の人はこの解体がどういう意味を持つか知る訳もなく。
「ざしきわらしは幸せになってもらいたいのよ。開法院さんに。
だから、力を使って開法院さんがそっち側に行くのを阻止した」
人になった蛍ちゃんも、この学園のざしきわらしたちにとっては幸せになってもらいたい人の範疇に入っていた。
だからこそ、ざしきわらしたちは蛍ちゃんを守ったのだ。
「ざしきわらしたちが高橋さんを守っていたのはどうして?」
「守っていたと同時に、警戒していたのでしょうね。
高橋さんに憑いていた何かに」
守るという事は見方を変えると晒さないという一面もある。
ざしきわらしたちは高橋鑑子さんを守りながら、同時に彼女についていた何かが蛍ちゃんに行かないように警戒していた。
それが神奈水樹の見立てである。
「憑いていた何かはこれで力を失うわ。
ただ風水陣を正常化させると、必然的に水子からざしきわらしが生産され続けるけど……いいの?」
この話、金を出した私が決めた事がある。
風水陣を無力化した上でざしきわらしたちを供養すると。
私は苦笑しながらぼやく。
「この国はもう明治維新直後ではなく、世界第二位の経済大国よ。
ざしきわらしたちが居なくてもやっていけるわよ。多分ね」
「そうかしら?
たとえ生まれなくても、ざしきわらしには意味があった。
それは桂華院さんの感傷なのかもしれないわよ?」
「否定はしないわ」
だからこそ、私はその呪いを背負う。
悪役令嬢として。
「だから、負けるときは、滅ぶときは、真っ先に私が滅んであげるわよ」
「瑠奈ちゃん縁起でもない事言わないでよ。
けど、高橋さんについては理解したけど、蛍ちゃんの方は大丈夫なの?」
冗談として明日香ちゃんが流して、そのまま話を変える。
変えた話題に神奈水樹はあっさりとその理由を言った。
「多分ね。
この国って『穢れ』って概念があってね。
血はその『穢れ』の最たるものなのよ。
ほら。
私たち女性は月に一度血を流すでしょ?」
「あ」
「あー」
そんな会話をしていたら、いつの間にか蛍ちゃんがやってきていた。
涙目で私と明日香ちゃんを見て、こう言ったのである。
「……あすかちゃん。るなちゃん。ごめんなさい。
わたし、人間にしかなれなくなっちゃった……」
私と明日香ちゃんも泣きながら、蛍ちゃんを励ましたのは言うまでもない。
「次のニュースです。
今国会の焦点である樺太問題関連法案の集中審議が行われました。
樺太問題関連法案は、樺太疑獄への対処と、およそ二千四百万人居ると言われている旧北日本政府国民の救済を目的とした法案で、樺太特区法案、派遣法改正案、枢密院改革法案の三つの大きな法案が柱になっています。
樺太特区法案は衆議院の委員会の採決が近く行われる予定ですが、枢密院改革法案は枢密院の激しい抵抗があり法案の審議すらめどが立っていません。
焦点は派遣法改正法案ですが、二千四百万人もの旧北日本政府国民がこの法案で職に就けると政府は主張していますが、野党及び与党の一部からは「リストラ推進法ではないか」との批判が出ています。
日本経済は不良債権処理に目途がついてきましたが、アナリストは「日本企業は従業員が多すぎる。少なくとも百万人の余剰人員が居る現状では国際競争に勝てない」と主張。
財閥の解体に伴う外資を中心とした『物言う株主』たちはこの問題に積極的で……」
テレビを消して九段下の部屋から東京の夜景を眺める。
本当にこの選択が正しかったのか?自分の中で何度も問い直した。
それでも私は、オカルトやファンタジーな加護ではなく、蛍ちゃんと共にいる事を選んだのだ。
だからこそ、選んだ責任は取らないといけない。
「二千四百万人……重たいなぁ……」
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血の穢れ
昔調べたのだが、民俗学的な説の一つだったりする。
女性優位のシャーマニズムからこの転換が実は歴史的ミッシングリングになっていて、私が調べた限りでも説明できなかったのですっ飛ばしたというネタはらし。
蛍ちゃん弱体化
オカルトの能力が使えなくなったのではなく、ざしきわらしの能力である『憑いた家を幸せにする』という因果が無くなった。
なお、順調に弱体化されてゆく蛍ちゃんに対して、どんどん能力が磨かれていく神奈水樹はウイッチクラフトの系譜だから男の上に乗れば乗るほど強く……
とある国の話
東西統一後EUができて、その中心国家になったのに失業率が今現在も東側の方が悪い国があってね……
なお、少し昔の極東の某国は二千万人もの貧農を抱え、彼らが共産革命を起こす事を真剣に恐れていた。
それにも関わらず政府は資本家と結びついて腐敗し、その結果腐敗していない様に見えた軍に国民の支持があつまって……
本当に維新から戦後にかけての歴史は学ぶべきだと思う。
確実に繋がっていて理由が提示された時に天を仰ぐから……
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