帝都学習館学園七不思議 学生寮のざしきわらし その7
後日談。
高橋鑑子はしばらく鈴が鳴る生活をしていたのだが、ある日を境についに鈴が鳴らなくなった。
その為に神奈水樹の所に持っていき、やっと彼女の七不思議が終わった事を知った。
「つまるところ、あれ何だったの?」
「ざしきわらしの成りそこないって考えるのが妥当でしょうね。
水子は生まれてこなかった子供の他に早世した子も入るから、『もっと長く生きたかった』という思いを誰かが悪用したんでしょう」
「で、その誰かをざしきわらしごとまとめてぶっ飛ばした。
相変わらず桂華院さんはスケールが大きい事で」
食堂で談笑する二人。
テーブルにはお茶とケーキ。
窓際の席で優雅なお茶会とも見えなくもない。
「その鈴預かっていいかしら?
ものがものだから、ちゃんと調べたいの」
「いいわよ。
神奈さんの見立て通りならば、私の七不思議は私が関与する前に終わったみたいだし。
その鈴は、次の七不思議の人に渡してあげて頂戴」
「ありがとう。
そうさせてもらうわ」
しばらく沈黙が二人の間に漂う。
話す話題がなかったのではなく、目の前のケーキを食べていたからだ。
「で、七不思議はまだ続くの?」
「そりゃ続くわよ。
誰が選ばれるかわからないけど、『音楽堂』と『手紙』と続いてこの『ざしきわらし』よ。
七不思議ならばあと四つ。
何かはそこまで含めて、桂華院さんの関係者に接近するでしょうね」
高橋鑑子の確認に、神奈水樹はあっさりと断言する。
そして、高橋鑑子から視線を逸らせてぼやいた。
「今回は勝ったには勝ったけど、失ったものも大きかった。
開法院さんの力の源も同時に潰してしまったわ。
これは、残りの七不思議で、開法院さんのフォローが期待できなくなったという事」
その決定は狙われているであろう桂華院瑠奈が決めた事だから、神奈水樹はそれ以上口を挟まなかった。
占い師は最後は傍観者として運命と相対せねばならないのだから。
同時に、ここからの七不思議はさらに神奈水樹が重用される事を意味する。
「つまり、しくじったら桂華院さんが危ない?」
「そのついでに、この学園ぐらいも危なくなるんじゃないかしら」
神奈水樹の口調に淀みはない。
間違いなく、ここから先の七不思議は厄介に、危険になると占い師の勘が告げていた。
だからこそ、神奈水樹は高橋鑑子と今話している。
出番の終わった彼女だからこそ、盤外で動いてもらう駒として確保するために。
「で、私に何をさせるつもりなのかしら?
神奈さん?」
「せっかく剣を極めているのだから、物の怪を斬ってみたいと思わない?」
話がとんでもない方向に行ったなと高橋鑑子は思ったが、神奈水樹は真面目である。
つまり、それだけ危険なのだろうと高橋鑑子は悟った。
「もちろん、あなたの七不思議はもう終わっている。
神奈の占い師である神奈水樹が断言してあげる。
ここで手を引けばあなたには害はない」
占い師神奈水樹はここで己の顔をわざと戻す。
この学校に通う生徒として、高橋鑑子の友人として。
実にわざとらしく手を合わせたりしてみせる。
「けど、友人としては助けてほしいなーって思って」
「こういう時に友人を持ち出す神奈さんは本当にいい性格をしているわね……
けど、斬るって言っても得物がないじゃない?」
「そこは神奈のコネと桂華院さんの財力総動員で用意させておりますので。
白紙小切手おしつけられたから、最高級の逸品をご用意させていただきます」
高橋鑑子はジト目で話をわざとそらす。
それは、この件を受けるために聞いておきたかった事。
「桂華院さんに聞いたけど、風水陣そのものを無力化するって方法は『派手な策』だったらしいけど、じゃあ『派手でない策』って何だったの?」
「ああ。
とっても簡単。
桂華院さんの所のPMCだっけ、私設軍隊からスナイパーを用意させて高橋さんを狙撃する予定だったのよ」
からん。
高橋鑑子のコーヒーについていたスプーンがテーブルに落ちた。
当人の衝撃を知ってか知らずか、神奈水樹は淡々と未使用だった策を語る。
「もちろん殺しはしないわ。
けど、憑いていた何かが分からず、高橋さんの魂にどれだけ影響を及ぼすかも分からなかったから手が出せなかったのよ。
で、一番確実なのはその何かに自ら出て行ってもらう事で、何かもわからない不意の一撃かつ高橋さんの生命に問題がでかねない一撃を受けたらその何かも逃げ出すという訳。
もちろん、死なせないようにフォローもバックアップもするという前提の話だけどね」
聞いてドン引きした桂華院瑠奈は、『お金しかかからない』派手な策を採用する事になるのだが、さて、それは本当に桂華院瑠奈の意志だったのか?
占い師神奈水樹はそこは絶対に語らない。
高橋鑑子は神奈水樹に顔を近づけて小声で話す。
「私のメリット、ないように思うんだけど?」
「刀は自由に使っていいわ。
桂華院さんからも確約させるわ。
そうね……これはメリットかもしれないから言うわ。
まだ絡むことで、脇役として主役を食えるわよ。
憑いた何かに意趣返しの一つぐらいはしたいでしょう?」
「それは……魅力的かもね」
高橋鑑子は大体何かを間違える。
一番の間違いは、その間違いが大体正解に繋がるのだ。
だから、彼女は自らの意志で間違えて、正解に進む。
食堂を出た高橋鑑子に開法院蛍がやってくる。
心配したのだろう。力を失って不安なのだろう。友人である彼女が無事なので安堵したのだろう。
そういう混ぜ込みの顔を見て、高橋鑑子は笑顔でまた間違える。
「ありがとう。
だから、今度は私がお礼をする番」
その時の開法院蛍の顔がどんなだったのかは、高橋鑑子の秘密。
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