お嬢様のゲーム実況深夜放送

 TV局の楽屋。

 私はスポンサーでもあるので、最大級に待遇の良い楽屋が与えられている。

 そんな楽屋にTVとゲーム機が一つ。

 ついてきた秘書の時任亜紀さんがADを見る視線がものすごく冷たい。

 いやまあ、そういう企画があったなというのは思い出した。

 ゲーム会社も無駄遣いで買ったし、それ相応の広告ぐらいはしようという意識もあった。


「では、お嬢様の挑戦!

 始めてください!!」


 なんで私は、TV番組の撮影で水着熱湯風呂をかけて、3D戦闘メカアクションをやっているのだろう?

 ふと我に返りながら、私はゲーム機のスイッチを押した。

 無駄遣い目的で買ったゲーム会社だが、それをコンテンツとしてTVに流すという試みは結構早くから行われていた。

 もっとも、それがメジャーになったかといえば、斜陽になりかかった時期がこのあたりである。

 で、私はマスコミ対策を兼ねて無駄に深夜番組を押さえている。

 だったら流すかという安易な考えで、深夜TVゲーム番組を作る事になったのである。


「私の出演?」


 打ち合わせに来たADが私のゲーム話に乗って話が合ったのでついつい受けてしまったのだ。

 番組はコーナーによってそれぞれ作られるのだが、ゲームの場合は開発スケジュールが絡んで出せる画像や出せない画像があったりする訳で、そんなゲーム紹介コーナーの一つが開発遅延によって情報公開できなくなってしまったのだ。

 で、泡を食った制作側が慌てて穴埋めに奔走していた中、その番組制作に絡んで見物に来ていた私に急遽オファーを独断でもって来たという訳。

 この時代のTV局の空気をよく出しているエピソードと言えよう。

 まぁ、ノリも良く、どうせ時間埋めの適当企画である。

 なお、水着熱湯風呂は私からの提案で、ある程度業界なるものを知ると己の価値が見えてくるので、それを救済ラインにおいて企画がやばくなったらそっちに逃げようという腹積もりである。


「まぁ、いいけど。

 で、ソフトは?」


 スタッフはこの時ばかりなぜか有能なムーブで一本のソフトを手渡す。

 これ、有名3D戦闘メカアクションゲームである。

 あ。この人ガチだ。

 私はその時悟った。


「うーん。

 この動きは独特よね」


「左右にジャンプしながら揺れるように。

 踊っているなんて言い方をこのゲームのプレイヤーはしているそうですよ」


 隣で解説するADの声が耳に入らないぐらい私は操作に集中する。

 思った以上に機械音が生々しい。

 操作以上に、画面把握がこのゲームは大事になってくる。

 特に踊りの中核となるブーストのフカシと残量は常に把握しないと踊りが中断される。

 踊りながら攻撃をし、踊りながら攻撃を回避する。

 少しずつ私はそれに慣れようとした。

 で、なんとかクリアしてリザルトでたまらず叫ぶ。


「弾の費用まで請求されるの!?」

「報酬の中でうまくやり繰りしてください。

 特別ボーナスもあれば、ペナルティーもありますよ」

「うわ。ゲームなのに世知辛い……」


 つまり、無駄弾をばらまけば赤字確定。

 強い機体に替えるためにもお金が必要な訳で。

 そんなこんなでゲームは進む。

 もちろん、さすがの私も初見ではうまく行く訳もなく。


「キャーッ!!

 ミッション失敗したぁぁぁ!!!」

「制限時間とマップ把握がクリアの鍵ですね。

 装備や機体の更新もお忘れなく」

「あー。

 悔しいけどはまってゆく私がわかるわ」


 はっきりとそれが分ったのが、あの場所。

 カメラに写っているのに、ついついADに叫んでしまう。


「アリーナなんてあるの!?」

「もちろん、プレイヤー同士の対戦も可能です」

「うわーうわーうわーーーーー!!!」


 そんなこんなでゲームが進む。

 慣れてくると、会話もできるようになる訳で。


「ねぇ。思ったんだけど、これ、私がパイロットするより、私が会社買って動かした方が早くない?」

「お嬢様はそんなお金があるのですか?」

「お金持ち!

 わたし、お金持ちのおじょーさまぁぁぁ!!!」

「そうですか。

 という訳で、ゲームを続けてください」

「ちくしょーーーー!!!」


 実際、本当にお金を持っているのだが、ゲーム内企業にM&Aはできない。

 画面外で控えていた亜紀さんのADを見る目がとても冷たいのだが、私は見なかったことにする。

 女性にとって己の容姿や見栄えというのは最優先なのだが、このAD私のゲームの腕は見ても、私の容姿をまったく見ていなかった。

 あとでフォロー入れておくかぁ。

 そんなこんなで撮影時間が尽きた。


「あーーーーっ!!!

 クリアできなかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「お疲れさまでした。

 じゃあ、セーブして次回を決めましょうか?」

「え?次回???」

「しないんですか?」


 そう言われると言い返せない私が居た訳で。

 首をひねりながらADに確認してみた。


「けど、水着熱湯風呂はしなくていいの?」


「お嬢様の水着姿は全世界が求めるでしょうが、この番組を見ている人間は、お嬢様がゲームをしている所を求めるのです。

 我々にとって、お嬢様の水着なんてゲーム画像より価値がありません」


 言い切りやがったよ。こいつ……

 亜紀さんだけでなく局の偉い人に睨まれないように、それとなくフォローしておくか。



おまけ


「あ、今日は視聴者のみんなの希望通り、水着姿で……」


「服を着てください。

 あと、セーブから続けてもらいますから」


「……はい」


 全世界で飛ぶように売れたグラビア美女の水着姿なんぞより、ゲーム攻略を求めたADにその後非難が殺到したが、その硬派な姿勢がゲーマーの心を掴み、長期番組へと成長する事になる。

 結果、この番組はグラビア系芸能人をゲームにハメるという別の目的からカルトな人気を誇るようになるのだが、その最大の支援者である私が自分がやられただけでは気に食わんという私怨によって放映を続けている事は公然の秘密となっている。 




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闘争から逃げるな


ネタ元

 SEKIROから逃げるな

 元絵のピクシブ


https://www.pixiv.net/artworks/79448384


 Twitterで見たネタだけどこれ大好きである。

 で、調べたら2003年に『アーマード・コア3 サイレントライン』が出ているなと。

 ゲームについては書くために一通り攻略動画を見て確認できた『アーマード・コア3』をさせている設定。


ゲーム番組

 『ゲームセンターCX』(フジテレビONE)

 開始が2003年11月。


熱湯風呂

 『スーパージョッキー』(日本テレビ)の名物コーナー。

 もちろん、ポロリありで火傷なし設定。

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