VSスカベンジャー ROUND1

 香港。金融街。

 アジアの金融センターの一つであるこの街でも、日本を舞台にした超大規模仕手戦の余波をモロに受けて勝者と敗者が天国と地獄に分かれて現在を生きている。

 そんな金融街にオフィスを構えるマフィアのフロント企業のオフィスでは、そこの責任者が東京にいる大兄こと岡崎祐一に電話越しに祝辞を述べていた。


「大兄。

 社長就任おめでとうございます!

 大兄ならばきっとその椅子に座ると思っていましたよ!!」


「やっている事は今までと変わらんよ。

 まぁ、そういわれて嬉しい事は嬉しいが、そろそろ仕事の話をしようか」


 ここで互いに声が低くなる。

 つまりそういう話だ。


「はい。

 こっちで確認している限りですが、『月光投資公司』。

 そっちの仕手戦で莫大なリターンを上げています」


 その報告に岡崎祐一は何も言わない。

 それを続きを話せと理解した彼は、続きを口にする。


「『月光投資公司』は、仕手戦の時間違いなくドル売り円買いに加担していました。

 ですが、そっちの衆議院解散の報告が伝えられると、損切り覚悟でポジションを全部解消して円売りドル買いに切り替えました。

 そこからは言わなくていいでしょう?

 日銀の市場介入で最初の損切りを埋めきれるだけのリターンを稼ぎ出しています」


「潰れると思ったんだがなぁ……」


 岡崎の感想に彼は少しだけ黙り、そしてその理由を口にする。

 最悪、命すら賭けた責任を口にする覚悟の上で。


「すいません。大兄。

 どうもこっちの売買を手繰られたみたいで……その責任は俺にあります」


 これだけ大規模な仕手戦ともなると、表に裏にファンドが絡みレバレッジを掛けながら世界中で売買が行われていた。

 メインのニューヨーク市場や東京市場は岡崎やアンジェラが目を光らせていたが、香港市場という脇役に回った舞台でならば、この程度のトレースは可能だった。


「まぁ、仕方ないか。

 これだけの大仕掛けで情報が漏れない方がおかしい。

 あの時点で大損を出しているはずなのに、さらに賭け札を突っ込んだ向こうの度胸を褒めるさ」


「それについては、もう少し話さないといけない事があります。

 『月光投資公司』に、あの仕手戦の後半から妙な金が流れ込んでいる形跡があるんです」


「妙な金?」


 岡崎の質問口調に彼はいくつかの企業の名前を挙げ、その企業の正体を告げた。

 その新たな金主に岡崎はある意味納得する。


「……こいつら全部、共産中国人民軍のフロントです」

「つまり、国家がこの丁半博打に乗ってきたと?」


 岡崎も分かっているが、その報告が彼から挙げられた事に意味がある。

 つまり、香港・上海・シンガポール市場でそういう動きがあったと言っているのだから。


「大火傷を負った連中も多いですが、大兄みたいに一点全掛けして大勝利した連中もいます。

 そいつらの多くは、さっき言った解散後の損切りを経て莫大なリターンを挙げています」


「ロンドン市場じゃなくて?」


「ええ。

 隠れて香港や上海やシンガポールでこそこそと。

 俺みたいに最初から全賭けしているならともかく、損切り乗り換えからの、こんな場所での倍プッシュ。

 おかしいでしょう?」


 世界の三大市場。ニューヨーク・東京・ロンドン。

 今回のドル円の仕手戦は、ロンドンで円が買われ、その流れでニューヨークが動き、東京がドルを買って円を売る流れだったが、その基底では日銀の市場介入によって、ほぼどの時間でもドル買いが行われていた。

 その市場介入前、時差的に東京とロンドンの中間に位置する香港・上海・シンガポール市場で、岡崎の主である桂華院瑠奈と同じ動きをした連中がいる。

 その事実を岡崎は主である桂華院瑠奈に報告する必要があった。


「それで、大儲けをした連中は他に居るのか?」


「はい。

 『月光投資公司』の他にもう一つ。

 うちと同じ全賭けで、莫大なリターンを挙げている奴らがいます」


 彼はその名前を言う。

 彼は彼が調べた限りの事実に間違いがないと誇りを賭けて。


「ロシアの政府系ファンドです」

「……奴ら、チェチェンと繋がるロシアンマフィアを潰すついでにお嬢様に乗ったな」


 この二つに共通しているのは、国家が後ろ盾になっているという事と国家が持つ諜報機関から得られた情報を元に仕手戦を展開しているという事。

 桂華院瑠奈は米露の重要監視対象であり、それを彼女自身も承知しているが故に、側近団に彼らの人員を受け入れている。

 つまり、この二か国については、この仕手戦の最初から最後まで全部見られていた訳で。


「『月光投資公司』が生き残ったのは、ロシア経由で情報が入ったからかもしれんな」


 ロシアと共産中国のアンダーグラウンドマネーは水面下で繋がっている。

 派手に潰したとしても完全には潰せない。


「この二つですが、破産したファンドから人間をかき集めています。

 急激に規模を拡大させています。

 俺の所にも声を掛けてきましたよ」


「ハゲタカ連中の死体を食い漁るか……」


「その喩えなら、こいつらはハゲタカでなくスカベンジャーですね」


 桂華院瑠奈が、その名前を知る数日前の出来事である。




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感想からネタを拾う。


スカベンジャー

 実はこの名前やる夫スレからとったりする。

 ポストアポカリスもので自動人形とかを知ったのは、実はここからだったりする。

 なお、正しくはハゲタカの死骸を食うからやる夫スレ的にはウジ虫なのだが、響きが気に入ったのでスカベンジャーにしている。

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