桂華セントラル酒田安全祈願祭
酒田駅前の再開発が桂華主導で決まったので、建設の為に安全祈願祭に出発。
橘は当然付いて来るとして、故郷に錦を飾るのが目的なので一条も付いて来た。
酒田には桂華商会直轄のコンビナートがあり、折角だからと藤堂も便乗。
つまり、今の桂華を作り上げた三人プラス私がやって来るという訳で。
酒田の町はちょっとしたお祭り騒ぎになっているとか。
なお、再開発ビルの名前は『桂華セントラル酒田』となった。
そのネーミングセンスはどーかと思ったのだが、お役所仕事とはこういう物だろうという事で黙っている事にする。
「だからって、四人同じ電車に乗る事はないでしょうに……」
エヴァの嘆きを私たち四人は聞かなかったことにする。
だって楽だし。
安全の観点からは決して褒められたものではないが。
「とはいえ、朝一だからって新幹線のグリーン車を一両貸切るんですか……」
一般人気質のままである秘書の時任亜紀さんがぼやくがエヴァはキッと睨んで一言。
その声に米国の警戒と日本側の暢気さの温度差が見える。
「できれば、この列車丸ごと、借り切りたかったんです!!!」
朝一番の上越新幹線グリーン車には私たちと警備しかいない。
という訳で、朝ご飯は新幹線の車内でお弁当である。
個人的には立ち食い蕎麦という気分だったのだが、警備のエヴァの胃が死ぬという事で却下となった。
うちの料理長和辻高道さんお手製のサンドイッチである。
それを食べながら、のんびりという訳もなく、集まった以上は仕事の話となる訳で。
「酒田から新潟へのパイプライン建設ですか」
「新潟まで繋ぐと、既存のパイプラインを利用して首都圏及び仙台まで繋がるんですよ。
エネルギー資源の効率的な運用の為には必要な投資かと」
「建設費用については、かなり掛かりますよ。
簡単な算出ですが、数百億は見積もっておいた方がよいかと」
橘、藤堂、一条の三人が話すとなりで私はデザートのヨーグルトをパクパク。
この後にはお嬢様よろしく紅茶も控えているのだが、目の前の資料にはちゃんと目を通している訳で。
「この話、経産省経由のやつで、要するに樺太案件なんですよ。
あそこのガスを首都圏に持ってゆくための巨大ガスパイプラインの建設。
もちろん、樺太に繋がるという事は、ロシアにも繋がるという事でして」
樺太と首都圏を結ぶガスパイプラインの経路は、樺太から北海道を経由して青森から秋田・山形を通って新潟に繋げ、そこで既存のパイプラインに接続という計画になっていた。
これは、秋田県内にガス田があってパイプラインが敷設されている事と、ここ酒田のコンビナートの存在が大きい。
で、酒田と新潟のパイプラインを通す事で費用を安く上げたい国は、そこから秋田のパイプラインと繋げてという考えらしい。
「これ、外交案件であり、資源安全保障案件じゃないの?」
「だから、外務省を省いているんですよ」
藤堂のキレッキレのツッコミに私たち三人は苦笑するしかなかった。
「じゃあ、そのあたりこの祈願祭に来る人に聞いてみましょうか。
頭を下げれば、色々教えてくれるでしょうね」
一自治体の駅前再開発である。
けど、こんな背景があるので酒田市長出席は当然として、山形県知事だけでなく地元出身国会議員も顔を出すことになっていた。
つまり、失脚した加東議員である。
「さてと、新潟駅に到着したわね。
私たちの列車は……あれ?一両増えてない?」
新潟駅から乗った私専用列車の車内に683系のポスターが張られていた。
買えってか?これを??
そんなこんなで酒田まで大体四時間の列車の旅。
お昼前には酒田駅に到着した。
という訳で、安全祈願祭が始まる。
……前に一波乱が。
出て来る面子が豪華過ぎて、席順がややこしい事に。
設計や施工者は地場の業者に投げたからいいのよ。
問題は来賓というか、私と知事と加東議員。
あと、桂華銀行酒田支店長が出席する予定だったのだが、その上の一条が来たもんだから席順が変更されたりとか楽しい事に。
笑い事ではないが。
私が未成年という事で橘が最前列中央の椅子に座り、私は後ろの席に座るという事で決着した。
橘の隣に市長と県知事と加東議員が並ぶという凄い絵面に。
更に、藤堂はコンビナート視察の名目でこっちに来ていたから、安全祈願祭に顔を出すことを想定していなかったらしく一悶着が。
かくして、席順の再調整という待ち時間の中で私と加東議員が話をする機会が設けられた。
「ああ。それならば知っているが、経産省が動いていたのか。
今の外務省にその辺りを差配する力はないよ」
最初会った時と比べて加東議員は色あせて見えた。
同時に、私と会った事で権力の欲が隠し切れない辺り、人の業というものを思い知る。
なお、この時期まだ加東議員は立憲政友党復党はしたが、お詫び行脚の途中だったりする。
「外務省は機密費絡みのスキャンダルの余波でまだ揉めている。
大使以下が華族で不逮捕特権で蓋をしたけど、それでかえって実権を剥がされる形になったんだよ。
主な外交案件は官邸が差配しているはずだ」
恋住政権誕生からまだ三年しか経過していないのに、各所に波紋を広げることとなった。
それを国民は熱狂的に支持していたからこそ、未だあの人は総理の椅子に座っている。
「桂華院くん。
私は、何を間違えたのかな?」
ふいに加東議員が私に尋ねる。
私は寂しそうに微笑んだ。
「間違えてはいませんよ。
ただ、時代が早かった」
「ありがとう」
加東議員は頭を下げた。
それは、最初に会った時よりも覇気がなく、寂しい姿に見えた。
安全祈願祭も終わり、紅白のテントから出る。
周りにさりげなく警護の者が立っていたので通行人が話題にしていた。
「ここ何が建つんだっけ?」
「あれでしょ。たしか桂華御殿」
おい。お役所。
はやくも別名ができてるじゃねーか……
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この話を書くにあたってネタを提供してくれたネタ提供者に感謝いたします。
お嬢様列車
感想よりネタを拾う。
これで桂華鉄道スレに繋がるな。
外務省のごたごた
覚えている限り、機能がまともに動き出したのは麻生太郎さんが外相についたあたりから。
麻生さんはこれで、総理総裁レースの切符を手に入れた。
失意の加東さん
加藤の乱はネットの民意というものが初めて出てきたものであり、それをリアルで鎮圧したのが小泉総理という側面がある。
このネットの民意なるものが花開くには更にもう十数年ほど待たねばならない。
お役所の名前
本当にカタカナを使わせるとどうしてここまでダサく作れるのか不思議で仕方ない……
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