大ハード中 裏

 内閣府危機管理センター。

 泉川副総理は危機管理担当大臣として、成田空港郊外のテロの対処に追われていた。

 状況は、加速度的に悪化している。


「空港内の爆発について報告してくれ」


 机に腕を組んで泉川副総理が報告を求める。

 この会議には関係閣僚とその省庁の官僚が集まり、総理に報告を上げる前の会議という事になっている。

 報告をしようとした官僚がその声を出す前に恋住総理がこの場に入って来たので、泉川副総理以下が起立しようとした所を恋住総理は手を振って断る。


「時間がないはずだ。

 私も生の情報が知りたい。

 会議の妨害はしないから、進めてくれ」


といって端に座ろうとするのを放置する訳にも行かず。

 総理大臣秘書官がさっと椅子を泉川副総理の隣に用意する。

 そんな一幕の後、報告が始まった。


「都内ボートハウスに潜伏していたテロリストは無事に制圧しました。

 五人とも無傷で逮捕し、自決しないよう拘束して現在所轄警察署に留置しています。

 取り調べの後、本庁に移して本格的に取り調べを行う予定です」


「成田空港内の爆発ですが、銃撃戦の発生によって成田空港の安全規定に則って封鎖したコインロッカーで発生。

 死傷者は居ませんでしたが、空港内部で混乱が発生。

 避難客が安全と思われるVIPホームに殺到しています」


「爆発と火災については空港消防隊が対処し、消火に向かっているそうですが、現在残りのコインロッカー及びゴミ箱の探索に掛ける人員が不足しており、難航しています」


「成田空港の爆発と混乱について、包囲していた機動隊及び空港警備隊の予備戦力を抽出し対処に当たらせています。

 銃撃犯については、散発的に抵抗していますが突破する様子は見られません。

 攻撃は、当初予定通りの深夜2時で変更はありません」


「習志野の第1空挺団及び周辺駐屯地はすべて出動準備が整っております。

 ご命令があれば、いつでも出動できます」


 状況が状況だけに、警察官僚と防衛官僚の間での緊迫感はこの場の全員が理解しているが、その空気を読まない総理がぶち壊す。


「人が足りないのだろう?

 ならば命令しよう」


「了解しました!」

「総理!」


 ほぼ同時に叫ぶ防衛官僚と警察官僚。

 自衛隊の治安出動が決定した瞬間である。

 同時に、この国会において政局が一気に加速する事を意味する。

 治安出動には、国会の承認を求めなければならないからだ。

 それなのに恋住総理は事も無げに言い放つ。

 それは、この事件がテロになった事を明確にしていた。


「いいかね。

 始まりはともかくこれはもはやテロとして諸外国には認識される。

 そして、テロとの戦いに置いて我が国が脱落する事は許されないのだ。

 責任は私が取るので、最善と思う行動をとり給え。

 以上だ」


 最高指揮官からの命令は絶対ではあるが、落とし所を探すのは泉川副総理の仕事である。

 後であの警察官僚と防衛官僚の二人を呼んで、現場の指揮命令が混乱しないように調整を行う必要があるため、泉川副総理は秘書官を呼んで指示を出す。

 

「で、あのお嬢様は動かせるのかね?」


 泉川副総理の確認に、警察官僚が苦渋の顔をする。

 かつて空港機能が乗っ取られて空港がパニックになった映画があったが、現実はそれ以上に混沌としていた。


「現場からの報告では、桂華院瑠奈公爵令嬢はVIPホームから車で成田郊外のホテルに避難し、VIPホームを避難所として開放する事を発表しています。

 警護の観点からは動かしたくないのですが、公爵令嬢の動きによって現地の混乱が沈静化しつつあるのも事実です。

 我々としては、万全の警備をもって移動していただくという事になるかと」


 そうなると現在の事件、いや、テロの状況が問題になる。

 状況説明の為に泉川副総理が特別に呼んだのが、桂華院瑠奈付きメイドの一人である、アニーシャ・エゴロワ。

 桂華院瑠奈へのテロ計画を察知し避難計画を泉川副総理側と練っていた連絡員である。

 メイド服ではなくスーツ姿なので、元KGBの空気が出ていた。


「繰り返しになりますが、今回の事件についての説明を。

 イスラム過激派がお嬢様の暗殺を企み、そのための密入国と武器調達をロシアンマフィアに依頼。

 そのロシアンマフィアが土壇場でこちらの司法取引に応じてテロリスト共を売った所、テロリストはテロリストで裏切られた報復として、ロシアンマフィアの計画をこちらに漏らした。

 これがまず1つ」


 一旦口を閉じてアニーシャは周囲を見渡し、続きを口にする。

 つまるところ、このテロは組織でよくある報連相のミスの結果なのだから。


「ですが、この取引は上の連中で行われたので末端部に伝わっていませんでした。

 漏らされた、ロシアンマフィアの計画は桂華証券取締役のアンジェラ・サリバンの暗殺。

 これが今回のテロにおける成田郊外の銃撃戦とコインロッカーでの爆発の理由です」


 総理が口を挟む。

 額に指を当てて、間違ってくれという感じで質問をする。


「つまり、成田のテロの本来のターゲットはアンジェラ・サリバン取締役なのかな?」


「はい。

 ですから、成田のテロは本来は事件として扱われるものだったのです。

 お嬢様はテロ予告を受けて、九段下のビルから北海道に逃がす予定でした。

 しかしそのタイミングで銃撃戦が発生してしまい、お嬢様は逃げられなくなった」


「待ち給え。

 末端部に伝わっていないと言ったな?

 という事は、まだ、空港内に誰か残っているのか?」


 泉川副総理の確認にアニーシャは首を縦に振った。

 彼女がここに呼ばれた理由は、彼女が非公式ながらロシア政府と繋がっているからである。

 今回の事件はロシアが深く絡んでいた以上、その情報を官邸に渡す人間が必要だった。


「イスラム過激派のテロリストはシベリア鉄道で移動しています。

 偽名を用いていたので名前までは分かりませんでしたが、人数は分かりました。

 彼らは六人です。

 で、ボートハウスで捕まったテロリストの人数は何人ですか?」


 この瞬間、部屋の空気は最悪になった。

 6-5=1。

 小学生でも分かる算数によって、成田空港にまだ一人、テロリストが居る可能性が出てきたのだから。


「テロリストは成田空港にて武器を受け取る予定でした。

 そして、アンジェラ・サリバン取締役を狙うために武器を持っていたロシアンマフィアは現在包囲中。

 という事は、誰が空港内の爆発をやったんでしょうねぇ?」




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内閣府危機管理センター

 このあたり『シン・ゴジラ』が凄くうまかったんだよなぁ。

 今やっているのは、泉川副総理へのレクであり、その後で情報を整理した上で恋住総理に上げるというのが本来の流れ。

 けど、総理は時間が惜しいのと生の情報が欲しいので、泉川副総理へのレクにお邪魔したという訳。

 そのくせ、しっかりと防衛出動の命令を即決で出すあたり、ルール破りと決断力はあったんだよ。ほんと。


治安出動

 この世界においては既に第二次2.26事件で発動している設定。

 この後、総理レク後に防衛庁長官に命じるのだろうが、官僚は既に動くという訳。

 投稿前に活動報告を見て……土浦があったか!

 という訳で、少し修正。

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