身体測定
忘れている訳ではないが私たちは中学生な訳で、世に言う所の成長期というやつに入る訳だ。
という訳で、新学期の身体測定の日。
それをなんとなく感じる私が居た。
「すっかり背が追い越されたわね」
今ではカルテット四人の中で私が一番背が低い。
なお、背の順番は栄一くん、光也くん、裕次郎くん、私の順である。
「そりゃ、せめてお前に背ぐらいは勝たないと勝てる所が無いじゃないか」
とぼやく栄一君。
男女の性差がハッキリ出てくるこの辺りから男子は男子で、女子は女子でという感じでグループが出来てゆくのだが結局このカルテットは壊れない。
遊び仲間でもあり、会社という利益共同体でもある訳で。
「とはいえ、体力じゃもうきついわね」
「とか言いながら、腕試しで男子剣道部員を高橋さんと一緒に叩き潰していたよね?」
裕次郎君のツッコミを私は華麗に無視する。
合同練習の機会があって高橋鑑子さんに誘われただけで、私は悪くない。
そういう事にしてほしい。
なお、裕次郎君は私の前に鑑子さんに叩き潰されていた。
「体力測定で、大会クラスの成績を叩き出したの桂華院だったよな?」
光也くんのぼやきも私は華麗に無視する。
いや、春日乃明日香さんと競争する形になって、両方とも最後まで張り合ったもんで。
実は二人とも負けず嫌いである。
おかげで、春の地区大会にエントリーさせられそうである。
「たしか、春のクラッシックコンサートにもゲストで出るんだっけ?」
「出るんだっけ?じゃないでしょ!
出る羽目になったのよ!!」
栄一くんのつっこみに声を荒げて返事をする。
長い付き合いである帝亜フィルハーモニーの春イベントなのだが、欧州から有名所を呼んだ上に演目が『カルメン』である。
明らかに私を誘っているその姿勢に、私が釣られ……クマー!!!
見事に釣られてしまったのである。
なにも言い訳できません。はい。
なお、自分で言うのも何だが、かなりノリノリである。
「ほら。
身体測定が始まるから並んで頂戴」
雑談していたら保健の先生にしかられる。
という訳で、女子の身体測定へ。
ここの連中、私を含めてだが基本スタイルは良い。
そんな私でも負けるスタイルというのがあるのだ。
「?」
なんだろうな。神奈水樹の妖艶さは。
男を知っているからなのだろうか、蕾から鮮やかに咲き始める薔薇というべきか。
女子ですらそのスタイルにため息が出る。
「……どうしました?お嬢様?」
「世界は広いなって感じている所」
橘由香の声に適当に返事を返す。
何だろうな。
あの色気は。
そんな事を思いながら遠くのユーリヤ・モロトヴァを眺める。
なお、彼女は私が陸上の地区大会に出るのを知ってチアガール姿で応援すると張り切っているとか。
多分青少年の色々なものが危ないと思うのでやめた方がいいと思うが、言っても聞かないのだろうな。
「自分の事を棚に上げて何かろくでもないことを考えていませんか?
お嬢様?」
橘由香の隣に控えていた留高美羽がじと目で私を、正確には私の胸を睨む。
彼女の胸は私よりだいぶつつましかった。
なお、橘由香のスタイルは平均的であると言っておこう。
「いやまぁ、あれに勝つにはどうすればいいかって考えるとねー」
「そりゃ、男に揉ま…っ!?」
余計なことを言った野月美咲の足が橘由香によって踏まれる。
キジも鳴かずば撃たれまい。
意外というかある意味当然というか、性風俗的にはこの学校はかなり緩い。
何でかというと、ここの連中の存在意義が基本血の継承に置かれているからで、華族や財閥子弟がお付きの女性に手を出してというスキャンダルがそりゃもういっぱいある訳で。
運が良ければ妾として、もっと運がいいならば正妻として成り上がれるのだ。
これで若者特有の体力と情熱がある訳で。
乱れない訳がない。
「そういえば、あなたたち男子からの告白とかどの辺りまでOKなの?」
身体測定で並びながら雑談。
橘由香はその辺りあっさりと言い切る。
「瑠奈様を差し置いて、男子に現を抜かせる訳がありません」
「じゃあ、それ撤廃ね。
お嬢様命令で」
そして私の即答に唖然とする橘由香。
そんな彼女に、私はまっとうな理由を告げる。
「私、現状仲の良い男子が三人いるのに、それを見ていて恋愛禁止なんて無理でしょう?
という訳で、あなたもさっさと男子といちゃいちゃしていいから」
むすっとする橘由香だが、私の命令に不服なのか、今乗った体重計が不服なのか。
多分両方なのだろうなぁ。
なお、この日からしばらく橘由香の食事が少なかったことを記しておく。
ついでだが、側近団は結構モテたらしく、何人かはラブレターをもらったらしいが、全員ごめんなさいをしたらしい。
私への義理を通さなくていいと言ったのに……
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この学校にはきっとひっそりと水子地蔵があるな。
学校七不思議話として、話のネタにしよう。
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