生徒会のお仕事 その2

 組織というものは、つまるところお金を使うためにある。

 生徒会の予算というのもそういう所から見ると、色々と見えてくるものがある。


「なるほどな。

 初等部の予算が少ないのはこれか」


 会計の光也くんが予算案を眺めながらぼやく。

 帝都学習館学園生徒会は高等部-中等部-初等部がそれぞれ繋がっており、大まかな予算は高等部生徒会が決め、それを中等部生徒会の承認の後で初等部生徒会に配分される仕組みになっている。

 初等部生徒会を『孫請け』と揶揄しているのもこんな所からなのだろう。


「とは言っても、生徒会予算で行う仕事も無いからね。

 ある意味上手く回っていると感心するね」


 裕次郎くんは光也くんから渡された予算案を眺めながら仰ぐ。

 生徒会統合委員会という高等部・中等部・初等部の生徒会執行部の最高意思決定機関があり、それぞれの委員会も高等部・中等部・初等部で繋がっているから、強大な自治権を維持運営できているという訳だ。


「予算の配分は校内のイベントと、各部活への配分が主だから。

 初等部は特待生が入ってないから、部活がらみのイベントが少ないのもあるしね」


 私は渡された予算案を一瞥して栄一くんに渡す。

 結構な予算を取るのが部活の予算で、大会に出ると遠征費用も発生するから予算不足で寄付をという事も発生する。

 中等部からはこの特待生が文武の部活で大活躍するので、特待生と初等部からの華族をはじめとした上流階級との衝突はある意味当然と言えるだろう。

 そうなると、各種委員会を初等部から抑えている上流階級と、部活を管理する体育委員会と文化委員会の多数派である特待生との構造的に衝突するからだ。


「とはいえ、去年からちょこちょこと予算は増えているんだよな。

 部活絡みで」


 確認して予算案を机に置いた栄一くんがなんとなく不思議そうに言う。

 私はその理由をあっさりと言った。


「ごめん。

 それ、私のせい」


「「「あー」」」


 趣味と道楽程度の部活動で地区大会どころか都大会や全国大会に上がってしまった馬鹿のせいで、初等部の部活予算が増やされているのだった。

 なお、その大会と選手の名前は、陸上部の応援扱いで全国大会に行った桂華院瑠奈という。

 『女子陸上界の彗星』と呼ばれるのだが、実に困る。

 おだてられてついつい調子に乗った己が全面的に悪いのは分かっているのだが。


「大会の応援費用か。

 桂華院さんが出ると、マスコミも注目するから、良いPRになるんだよね」


 裕次郎くんが天井を見上げてぼやく。

 全国大会ともなると、応援団が出張り、垂れ幕なんかが作られ、良い成績ならば放送委員会からインタビューを受けて学内新聞に派手に載る事に。

 歌姫としての名前も轟いているので、初等部放送委員会は『ネタが無くなったら桂華院さんにインタビューに行こう』とほざいているらしい。


「という事は、卒業して中等部に移ると桂華院絡みの予算が中等部に移動する訳だ」


 光也くんは意地悪そうな声で裕次郎くんの話に乗る。

 ネタを提供できる人間というのは貴重なのだ。

 そんな人間をこの学園では特待生として招いて、世に出すと同時に己の存在意義と定義していた。

 で、最後は栄一くんが〆る。


「中等部からはさらに注目されるから、予算はもっとつくだろうよ。

 部活連はきっと瑠奈を取り込みたくてウズウズしているだろうな」


 男子三人のお言葉に頭をかきながらぶりっ子笑いでごまかす私。

 こう考えると、今の時点で生徒会執行部に席を置いているのは幸いだった。

 先輩である敷香リディアは、私の前でこの流れを受けているのだが、初等部からクラス委員を続けて己の手駒を増やし続けて中等部でも辣腕を振るっているとかなんとか。

 多分、ゲームでの私の取りうるコースをリディア先輩が歩いている。


「まぁ、私は私の道を進むわよ」


 その場の気分で偉そうなことを言ってみるが、実際ノープランである。

 というか、ゲーム通りだったら失脚するので生き残りの方に頭を使っていた訳で。

 今更、そっちの道をと言われてもピンとこないというのが本音だったり。


「さぁ。

 お仕事をして頂戴!

 その予算案に判子を押したら、私が中等部生徒会に持っていくわ!!」


 男子三人は予算案に承認の判子を押して、私も副会長として判子を押しこの予算案は了承された。

 四人で中等部に書類を届けた帰り道、中等部の生徒たちとすれ違う。

 不思議なもので年はそんなに離れていないのに、彼らが大人に見える。


「来年には俺たちもあの服を着るんだぜ」


 栄一くんの言葉に裕次郎くんが反応する。


「で、それを後輩たちが見て憧れるわけだ。

 僕らは、最上級生として憧れられる対象になれたかな?」


 光也くんの突っ込みは、こういう時にも外さない。


「なれただろうよ。

 たとえ、俺たち三人が無理でも、桂華院は間違いなく憧れの対象だろうよ」


「さぁ?

 憧れても真似できないのはどうかしら?」


 私は三人の方を振り向いて微笑む。

 こんなやり取りがすごく愛おしい。

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