映画撮影の一幕
「パンチラが怖くて、お嬢様ができるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
がしゃーーーーーーーん!!!
ドカーーーーーーーーン!!!!!
ドレス姿のお嬢様が窓ガラスを割って虚空に舞い、その後を爆発が襲う。
お嬢様はそのまま満面の笑みで、用意された安全ネットに落ちていった。
お付きの外人秘書とメイドと執事が殺気すら漂わせて映画監督を見るが、映画監督は笑い転げていて意に介さない。
なお、香具師はお嬢様の暴走と映画監督の悪乗りに虚空を見上げて呆然としている。
こうなった数ヶ月前、特別出演として出る予定だったお嬢様との打ち合わせにおいて映画監督はこんな事を言った。
「お嬢様。悪い。
脚本がまだ仕上がっていないんだ。
だから、先にお嬢様のシーンを撮ってしまいたいのだが、構わないだろうか?」
よく分かってないお嬢様に監督は詐欺師さながらに嘘をでっち上げる。
もちろん、後で知った脚本家が激怒したのは言うまでもない。
「え?
守られて、歌うだけの出演じゃなかったの?」
あくまでこの映画の予定ではおまけである。
そういう予定で参加を決めたのだが、そんな事をはなからこの映画監督が守る訳がなかった。
「そのシーンが出来上がっていなくてね。
かと言って、お嬢様に出待ちをさせるほど私も偉くはない。
で、先にお嬢様が撮りたいシーンだけ撮ってしまって、そこから話をでっち上げる形にしようと思う。
だから、お嬢様は好き勝手に撮りたいシーンをリクエストしてくれ。
出来る限り希望に応えよう」
もちろん、そのシーン全部使って物語を再構成する腹積もりである。
つじつまの合わない所は、最悪CGでごまかすことを考えていたあたり、この監督性格が悪い。
だが、この監督以上にぶっ飛んでいたのは、好きなシーンを撮って構わないと言われたお嬢様である。
「本当?
じゃあ、ちょっと新しい余興芸を覚えたのよ。
それを撮ってくれない?」
あ。また始まったとお付きのメイドは頭を抱えたが、監督の手にエアガンが渡される。
「監督。
よかったら私にそれを撃ってくれない?」
「こうかい?」
放たれたBB弾は、その途中でお嬢様が抜いたエアガンのBB弾によって弾かれる。
その早抜きと仕草に監督はこの映画の成功を確信した。
(そうだ。お嬢様。
化物が化物として振る舞えるのが映画の世界だ。
だからよ。お嬢様。
あんたの化物ぶりを全部オレの映画にぶつけてみろや)
「守られる路線は帝都護衛官のテーマだから変えちゃ駄目でしょ」
「だから、お嬢様。
あんたが守られることに不満を感じている設定にするんだ。
世間には悪がはびこっているのに、自分は護衛達によって守られている。
そのいたたまれなさから自分にできる正義をって感じだ」
「ダークヒーローよね。
それならば、私のキャラクターが活きるわ!」
「しっかし、銃撃だけでなく刀で弾を弾くかよ……」
「そこの香具師さんが教えてくれたのよ。
一発だけなら9ミリを弾き飛ばせるはず。
やろうとして、メイドに叱られたんだけど……」
「安心しろ。
映画の中だから遠慮なくやってしまえ。
CGでうまく加工してやるから」
「今の日本のアクション映画にはガンアクションが足りないのよ!」
「わからんではないが、規制が色々うるさいからなぁ。
本物の弾や爆発は、やっぱりCGなんかよりリアルなんだがこっちじゃ中々できない」
「わかったわ。
じゃあ、お金は私が出すから、ハリウッドで撮りましょう!」
「…………え?」
「ミズ・アンジェラ。
君の仕事について我々はちゃんと評価しているつもりだ。
お嬢様にちゃんと暴力の脅威を教えた事は正しいと私は思っているよ。
けど、私は、あのお嬢様をコミックスヒーローに仕立て上げろと言った覚えはないのだけどね」
「それよ!
ありがとうございます!部長!!
次はワイヤーアクションをやるわよ!!!」
「……」
「なにか言ってくださいよ。
外国指導者分析部長殿……」
「予算超過!?
まだ十億も使ってないでしょう?
ポケットマネーで払うから爆薬どんどん持ってきなさいよ!
さぁ、次はビルを爆破するわよー♪」
派手なガンアクションに、スリリングなカーアクション。
アクションスターばりの格闘シーンから、歌姫としての歌唱シーンまで。
ありとあらゆる事をお嬢様はやり尽くし、そのどれもが画像越しの監督たちを魅了した。
桂華グループ関係者は監督に殺意の視線を向けているが、そんな視線を監督は鼻で笑う。
「なんで奴らが撮影を中止させなかったか、分かるか?」
お嬢様の撮影最終日。
その打ち上げで、監督は香具師と当たり前のように付いて来た写真家の先生相手にその問いを投げかけた。
ポスター撮影は彼最高の仕事の一つと言われ、あちこちで盗難事件が発生するのだが、そんな近未来を彼は知らない。
「簡単な話だ。
あの連中は、結局の所お嬢様を知らなかった。
だからこそ止められなかったんだ」
さも当然という感じて写真家の先生が言い、監督は笑いながら酒を飲む。
人生で一番美味い酒だった。
「お付きの秘書が漏らしていたよ。
『お嬢様は何にでもなれ過ぎてしまう』と。
結果、化物に成り果てる所だったんだからお笑い草さ」
撮影シーンを三人は思い出す。
カメラ越しの彼女は楽しそうに天真爛漫に笑っていた。
それゆえに、桂華グループの人間は止められなかった。
「おいおい。
まるで、もう化物にならないみたいな言い方じゃないか」
香具師の心配顔、撮影中胃薬が手放せなかったらしい彼は自然と胃を押さえるが、監督は笑って更に酒を煽る。
「ああ。
むしろあのまま放っておけば、化物どころか独裁者すらあり得ただろうよ。
化物が化物である最大の理由は正体不明さにある。
あれだけ、化物ぶりを晒してくれたんだ。
その正体不明ぶりは周知され、対策され、時代の色として溶け込む事になる」
監督は握り拳を作って叫ぶ。
それは嘘偽りのない、かつて同じ化物だった彼の心からの叫び。
「わかるか?
俺は彼女を、時代を銀幕に封印したんだよ!!!」
伝説となった映画が封切られる前の話である。
もちろん、この監督は日本だけでなく世界の賞を総なめにした代償に桂華グループから出禁を言い渡されたが、結局お嬢様が出る特番や映画にお嬢様のオファーとして呼ばれることになる。
その時、周囲の反対を彼女はこう言って抑えたという。
「だって、私を一番上手く撮影できるの彼しか居ないじゃない」
と。
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外国指導者分析部長
CIAの部署の一つ。
仕事は役職の通りで、なんかハリウッドで馬鹿やっているお嬢様が居るので見に行ったらあのざまだったので、アンジェラ詰問からの、お嬢様大暴走のコンボ。
なお、お嬢様の戦闘力はランボーには負ける程度。
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