事業再編 その5

『赤松商事は、帝商石井と帝綿商事と鐘ヶ鳴紡績の三社と経営統合をする事で合意した事を発表した。

 帝商石井と帝綿商事と鐘ヶ鳴紡績の三社は多くの有利子負債を抱えており、近く解禁が叫ばれている時価会計で多額の損失が出ると噂されて経営不安が囁かれており、赤松商事による三社の救済という側面がある。

 四社は合同で持株会社を設立し、その上で数百社に及ぶ子会社と万を超える取引先の整理統合を進めて経営の効率化を進める。

 同時に、桂華金融ホールディングスよりつなぎ融資を行い、三年後に赤松商事を核に合併、その後上場というスケジュールを……』


 私がお買い物をするとはいえ、実際に買うのは一条であり、橘であり、アンジェラであり、赤松商事社長である藤堂長吉であり、執行役員の岡崎祐一である。

 そんな彼らを前に、莫大にある子会社群を見て唖然とする。


「いや、分かってはいたけどこんなにあるの!?」


 子会社だけで数百、取引先は数万社というのが総合商社という業種である。

 これを大雑把に分類する。



赤松商事

  携帯通信事業

  ドッグエキスプレス

  資源事業

  北樺警備保障

  桂華部品製造

  他社


帝商石井+帝綿商事

 自動車組み立て・販売事業

 航空機リース・販売事業

 船舶事業

 鉄道事業

 プラント・インフラ事業

 資源事業

 化学事業

 通信事業

 食品事業

 繊維事業

 小売事業


鐘ヶ鳴紡績

 化粧品事業

 繊維事業

 食品事業

 薬品事業

 住宅事業



 多い。

 これらの会社を整理統廃合する。

 まずは、鐘ヶ鳴紡績の事業を分解してゆく。


「繊維事業は鐘ヶ鳴紡績をベースに帝商石井と帝綿商事の繊維事業を統合させます。

 これでも事業が再生できるか分かりませんがね。

 その際には、この事業はリストラさせます」


 藤堂が苦労した声で告げる。

 鐘ヶ鳴紡績買収の条件の一つが、この繊維事業の存続だった。

 そのため、ラストチャンスとしてこの事業を残した。


「住宅事業は桂華鉄道の不動産部門に売却します。

 同じく、薬品事業は桂華岩崎製薬に売却。

 食品事業は帝商石井と帝綿商事の事業部に合流させます」


 藤堂の報告は続く。

 これで鐘ヶ鳴紡績の至宝である化粧品事業を組み込める。

 帝西百貨店グループを桂華鉄道に渡す代わりに、赤松商事はこの三社でもっとも収益を期待できる化粧品事業を入手する事になる。


「自動車組み立て・販売事業は、桂華部品製造に統合。

 鉄道事業とプラント・インフラ事業は越後重工に譲渡した上で子会社化します。

 小売事業と食品事業は帝西百貨店に譲渡。

 化学事業は鐘ヶ鳴紡績の化粧品事業に統合。

 通信事業はこちらの携帯通信事業に統合。

 資源事業もこちらの資源事業に統合させます」


 最終的な形はこんな形になる。


赤松商事

  携帯通信事業

  ドッグエキスプレス

  資源事業

  北樺警備保障

  桂華部品製造

  航空機リース・販売事業

  船舶事業

  繊維事業

  化粧品事業

  越後重工


 ここまで整理するのに三年ほど掛かる事になるだろう。

 その先は株式公開である。


「いずれ上場する事になるけど、そのあたりはどうなるの?」


「その前にお嬢様に裁可を頂きたいことが」


 私の質問に藤堂が横槍を入れる。

 はてと首をかしげた私に藤堂は重々しく口を開けた。


「合併後に会社名義を変更したいと思っております。

 『桂華商事』に。

 どうか、新会社に桂華の名前を頂く事をお許し願いたい」


 なんだそんな事か。

 うんと首を縦に振ってそのあたりを尋ねてみる。


「いやまぁ、そのあたりは別に良いけど、なんで今さら桂華の名前を?」


「一気に3つも会社がくっ付くので、内部統制に不安が出るからです。

 桂華グループの企業の看板となっている我が社に桂華の名前がないのを、気にしている社員は多いのですよ」


 たしかに、今の桂華グループを引っ張っているのは、桂華金融ホールディングスと帝西百貨店と赤松商事と四洋電機だが、帝西百貨店が桂華鉄道傘下に移り、四洋電機は古川通信とポータコンとくっ付いて桂華電機連合となる。

 私のワンマンが無くなる代わりに、桂華の名前で会社は帰属意識を植え付けたいのだろう。

 結局、急成長の歪みは赤松商事にもあったという訳だ。


「わかりました。

 きちんとお義父様に話を通して、桂華の名前を頂いて来ます」


 私の凛とした声に、藤堂が頭を下げる。

 そして、藤堂は岡崎を見て、岡崎にも頭を下げさせる。


「ありがとうございます。

 私の任期もおそらく合併が完了する三年がめどでしょう。

 その後ですが、赤松商事の中より後継者を用意しておきます。

 岡崎は、社長の椅子に座らせるには次の次まで待たねばならないでしょうな」


 あれだけやらかした岡崎だが、藤堂は彼を社長の椅子に座らせようとするらしい。

 私の声が呆れ声になって尋ねる。


「私が言うのも何だけど、いいの?

 私と組んでまたやらかすかもしれないわよ?」


「それ、お嬢様が言っていい言葉じゃないですよ」


 岡崎のツッコミにアンジェラがキッと岡崎を睨みつける。

 えらく嫌われたものである。

 自業自得ではあるが。


「山っ気が抜けるにはそれぐらいはかかるでしょう。

 そして、それが抜けた後ならば、お嬢様の為に働ける忠臣となりうるでしょう。

 どうかそれまでお待ち頂けたらと」


 藤堂はあの騒動の後、その才を惜しんで橘やアンジェラや一条に頭を下げまくったらしい。

 岡崎もそれを知っているからこそ、反省はしたそうだ。


「いいわよ。

 その時まで待ってあげるわ」


 次の次ともなれば、十年後二十年後の話。

 私が破滅してないならば、岡崎に頼らせてもらうことにしよう。




────────────────────────────────


いろんな事をやっているので、調べながらが結構楽しい。

東南アジアの商圏がかなり強い上に、この話では中東から中央アジアにネットワークがあるから、資源が上がると笑いが止まらない状況に。


書き直しで入れないといけないのはロシア絡みの話だが、総合商社とロシアのビジネスはかなり面白いので付け足してゆきたい所。

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