桂華電機連合設立会議議事録

(議長が立ち上がり日本語で挨拶する)


「この度、古川通信と四洋電機の合併、更にポータコンの買収に伴う日米コンピューター企業の社長兼CEOに任命され、今会議の議長を務めます、カリン・ビオラと申します。

 この会社の組織図及び理念、経営戦略について説明していきたいと思います。

 皆様、お手元の資料をお読みください」


(議長座り、役員各自資料を熟読中)


(桂華金融ホールディングス出向役員発言)

「議長。

 名前についてなのだが、桂華グループ入りするのだから、桂華電機を名乗るのはわかる。

 だが、どうして後ろに『連合』をくっ付けるんだ?」


「それは我々が一緒になったとは言え、異なる企業風土であり対等であると意識するための、桂華グループ中枢からの指示でございます」


「……あのお嬢様の意向か」


「名前については伏せさせていただきます。

 これは組織図においても明確にしており、三年間は開発とブランドを維持するとのお言葉を頂いております」


(古川通信パソコン部門役員発言)

「つまり、その三年でリストラを完了させろと?

 組合を抑えきれるかどうか」


「レイオフについての事を仰っているのでしょうが、これも中枢から『可能な限り雇用を維持せよ』というお言葉を頂いております。

 開発部門については予算はそのまま、まずは企業風土の融和を目的とし、リストラ対象は営業部門と販売網についてになるかと。

 それと全体の作業マニュアルを簡素化し、技術教育にはカメラを入れ動画化します。

 もちろん、技術提供者には提供者の名前を掲載し、ボーナスをのせるとの事」


「マニュアルの簡素化と、技術教育の動画化?

 今までと何が違うんだ?」


「企業文化も国も違い、生産拠点も東南アジアにまで広がっている現在、英語が読めない労働者にも製品を作って貰う必要があります。

 そのために誰にでも分かるマニュアルを前提に、各社の生産部門の技術提携を図ります。

 これに伴い部品などの一括購入やOEMを導入してコストカットに繋げる予定です」


「ポータコン部門を使ったパソコン直販体制の強化とあるが、家電店との関係はどうするんだ?」


「維持はしますが、家電店向けはファミリー向け機種と定義し、直販部門はそれよりも価格を半分にまで下げたいと思っています。

 サービス部門を強化し、樺太にコールセンターを設立。

 この国ではプリンターの使用が多いので、スキャナーとの一体型プリンターをセットで売るパッケージを中心に2002年年末商戦へ焦点を合わせます。

 各部門は7月の夏商戦前までに案と予算の概略を、私直属のプロジェクトチームに提出してください」


「それまでのセールは?

 春の新学期セールや、夏の商戦を逃すのはきつい」


「合併スケジュールが、法的審査を経て今年の9/1に行われる予定です。

 それまでは各部門独自の判断で動いても構いませんが、手助けが必要ならば私に声を掛けてください。

 直属のプロジェクトチームに対応させます」


(古川通信通信部門役員発言)

「パソコンについては概ね理解した。

 他の部門、うちの通信なんかについてはどうなんだ?」


「帝国電話は通信網を一気に光にという腹積もりですが、おそらくADSLでワンクッション置くだろうと考えております。

 そちらの工事と共に携帯基地局の敷設が収益の柱となるでしょう。

 帝国電話の光通信敷設工事についてはお手伝いさせていただき、それと同時に自前の光通信と衛星回線の構築を考えております」


「帝国電話を敵に回す気か!?」


「どちらかと言えば、桂華鉄道と帝国鉄道の関係が近いと思われます。

 今後、回線使用量は爆発的に増大するでしょう。

 そのインフラを貸す事が我々の収益の大きな柱となります。

 そういう意味でも古川通信のプロバイダー事業には期待しております。

 また、サーバー部門及び、スパコン部門も強化する予定です」


(古川通信営業部門役員発言)

「リストラされる予定の営業部門と販売網についてお聞きしたい」


「我々の事業の中核の一つとして、社会インフラとしてのITがあります。

 そして、ADSLの普及と光通信敷設が始まった今は、企業や組織がITを導入するチャンスとなっております。

 このIT導入のコンサルティング業務に人員を投入する予定であり、リストラする予定の営業部門と販売網はそこに吸収させる予定です。

 我々はシステムプラットホームに未来を賭け、その前提となる自前通信網の掌握と情報管理運営のサーバーに資金を投じるのです。

 なお、この事業は帝国電話との合弁で行う予定であります」


「帝国電話がこの結婚に反対しなかった理由はそこかよ。

 莫大な投資が必要だからな……」


(四洋電機役員発言)

「四洋の人間だが、お嬢様が進めていたOEM化はそのまま進めていいのか?」


「はい。構いません。

 むしろどんどん進めてください。

 桂華グループの保有株式は新会社において三割ちょっとですが、四洋のOEM部門は新会社においても全て中枢が握ることになります。

 具体的には、組織図にあるように桂華電機連合本体出資が49%、中枢のムーンライトファンドが第三者割当増資で51%を握ることになりますが、指揮系統はこちらが握る念書を既に頂いております。

 また、同じ形式で携帯OEM会社を設立し、全世界に売ることで収益の柱となる事を期待しています」


(古川通信北米部門役員 TV電話より発言)

「北米事業について質問だ。

 ポータコンに任せる形になっているが?」


「買収する形になりますが、実際には古川・四洋・ポータコン三社の連携と考えてもらったほうがいいでしょう。

 その重複部門を削り、互いが互いに得意なことに特化する。

 まずはそれで利益を出せる会社になろうという事です。

 我々は文化だけでなく基盤とする国すらも違っています。

 そこを認めた上で、一緒に何ができるか?

 それを考えて行きたいとおもっています」


(ポータコン役員 TV電話より英語で発言)

「任された我々だが、具体的には何をすればいい?」


(議長英語で返答)

「直販の立て直しですが、ローエンドで攻勢をかけます。

 OEMのヨンヨウと自社工場を持つフルカワを使って、西海岸を中心にシェアを奪還します。

 ケイカグループに入ったことで、アカマツの巨大物流ネットワークに乗れる。

 販売価格だと中国大陸や東南アジアの方が有利ですが、運ぶ場合日本のアドバンテージはまだこっちにあります。

 低賃金労働者も2000万ほど居るし、ポータコンが利用している中国大陸や東南アジアの工場は契約を切らなくていいでしょう。

 我々が狙うのは、最安値で買う層ではなく、最安値よりちょっと高いけれどそっちより早く確実に届くなら私達を選ぶ。

 そんな人達です」


「東海岸についてはどうする?」


「フルカワのブランドで勝負しようと思います。

 メイド・イン・ジャパンで売れる時代はもう過ぎたので、そちらのマーケティングチームを日本に派遣してください。

 ポイントは、『フルカワのパソコンで何ができるか?フルカワのパソコンで生活がどう変わったか?』それを徹底的にアピールさせます。

 これについては、東海岸のケーブルテレビとタイアップし、購入から設置までのパッケージで販売する事でシェアを狙います」



(議長が立ち上がり頭を下げ日本語で締めの挨拶をする)

「私は米国出身でこの国のことをまだ良く知りません。

 ですが、この任を任された以上、全力で事に当たりたいと思っています。

 ですから、どうかミサナマのお知恵をお貸しください」


(少し照れながら書記に命じる)

「噛んだ所、消しておいてね」


(議場大爆笑と共に盛大な拍手が鳴り止まず)




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 このCEOを知るためについつい自伝を買ってしまった。

 『私はこうして受付嬢からCEOになった』(カーリー・フィオリーナ ダイヤモンド社)。

 これが文化の違いと立身出世のサクセスストーリーに見えて、最後解任までだから栄枯盛衰というか……



 騒動の元になった文化の"The HP Way"を紹介してくれと感想にあったのでリンクを張っておきます。

 https://h50146.www5.hpe.com/info/hr/hpe/graduates/company/our_culture/



もちろん振り付けはお嬢様演出だが、日本語は彼女必死で覚えたのだろう。


連合。

 ただ『アライアンス』という言葉がかっこいいから使いたかっただけである。


組合

 企業組合

 なお、組合は電機労連に属しているのだが、この時のリストラから組織は大幅に力を失い、我が党政権での原発事故対応を巡る原発廃止論争で野党分裂の引き金を引く事に。

 本当に我が党己の支持者にすらろくな事をしてないな……


家電店との関係

 日本でのパソコン販売は家電店が担っており、この時は新型を売るという名目で価格帯がほぼ固定されていた。

 そのため、ソフトの過剰搭載やプリンター等のセット販売が横行し、これにうまく乗っかったのが家電店内でモデムをばら撒いていた某会社である。


ADSL

 光の前に流行した通信網。

 具体的に言うと、テレホタイムではカップラーメンを待つぐらいかかるエロ画像が、カップラーメンの蓋をあける前に見えていたというぐらいの速さ。


パソコンで何ができるか?パソコンで生活がどう変わったか?

 これ、実は佐世保の少し前まで社長がTVに出て通販していた会社の売り方。

 価格はあまり安くないけど、その使い方アピールで面白いように売れたという。

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