月刊経済誌財閥 特集 『桂華金融ホールディングスCEOに話を聞く』

記者

「今回インタビューに応じてくださったのは桂華金融ホールディングスCEO兼桂華銀行頭取を務める一条進氏です。

 どうかよろしくおねがいします」


一条

「よろしくおねがいします」


記者

「早速ですが、読者のために簡単な説明をさせていただきます。

 桂華銀行の前身は極東銀行で、早めの不良債権処理とハイテク関連企業への投資に成功していち早く金融危機から脱出する事に成功しました。

 その後、危機に陥った都市銀行の北海道開拓銀行の救済合併や三海証券と一山証券の買収、グループ内の桂華海上保険と極東生命との提携をはじめとしたM&Aを繰り返し、近年解禁された金融持株会社の第一号となった桂華金融ホールディングスをここまで大きくなさったと聞きます。

 当時のことで印象に残っていた事はありますか?」


一条

「やはり北海道開拓銀行との合併ですね。

 あの時、私はまだ極東銀行の東京支店長だったのですが、上の方で話が決まっていてね。

 頭を抱えたものです」


記者

「と、申しますと?」


一条

「今だから言えるのだけど、あの時傘下のファンドである『ムーンライトファンド』の事を考えて、証券業務の人員拡充を考えて三海証券の買収を進めていたのです。

 それが降って湧いたように、北海道開拓銀行の救済合併。

 一地方銀行にとって、都市銀行を食べるというのは荷が重すぎると正直思いました」


記者

「それでも見事に合併を成功させた上に、その三海証券と一山証券も買収なさったではないですか?」


一条

「あれは実質的な一山証券救済スキームでした。

 やばいという噂は出ていたけど、日銀特融を受けさせるには色々と無理がありました。

 で、『だったら、三海証券と合併させてそっちを残す形にして日銀特融を受けさせればいいじゃない』と言った人が居りまして。

 彼女によって日本式護送船団は救われたのです」


記者

「たしかその時の救済スキームである桂華スキームが初めて使われたんですよね?」


一条

「そうです。

 相手先の役員は全員退職させる。

 不正行為をしていた連中はちゃんと罪を背負わせる。

 飛ばしを含めた不良債権は全額切り離して整理回収機構に渡す。

 金融危機安定化の為に合併や買収時に日銀特融を受ける。

 これらのルールが無かったら、極東銀行も持たなかったでしょう」


記者

「それらのルールを作ったのは一条氏とお聞きしております。

 救済合併と買収によって、地方銀行として信じられない赤字を出すことになりましたが、反対意見は無かったのですか?」


一条

「私が作ったわけではなく、私は責任者になっただけです。

 不良債権の額が北海道開拓銀行が二兆三千億円、一山証券が二千六百億円、三海証券がおよそ八百億円。

 他の金融機関の支援と、整理回収機構への不良債権の切り離し、日銀特融が無ければ我々も共倒れになる所でした」


記者

「これは噂なのですが、極東銀行はその後二兆円の不良債権を抱える長信銀行や三兆千五百億円の不良債権を抱えていた債権銀行との合併を行いましたが、一条頭取はその時取締役になっていたと思います。

 どのように思いましたか?」


一条

「痛い所を聞くなあ(笑)。

 まぁ、大蔵省主導の不良債権処理のお手伝いをしていたというのは間違いありません。

 これも今だから話せますが、大蔵省では極東銀行の共倒れ破綻も視野にこのスキームを組んでいたそうです。

 けど、うちの調査部門が優秀で飛ばしていた簿外債務を見付け出して、ことごとく整理回収機構に回すことができました。

 グッドバンクであり続けたのは大きかったと思います」


記者

「大蔵省の指導に対してかなり無理を言ったと聞きましたが?」


一条

「うちは中堅だけど桂華グループですから。

 財閥当主が首を縦に振らなければ大蔵省の官僚と言えども無理は言えません。

 日銀特融は受けたけどちゃんと返したし、その後の公的資金を注入しませんでした。

 『ムーンライトファンド』の収入がこれらの無理をねじ伏せてくれたのは大きかったのでしょう」


記者

「たしか、ハイテク専門で米国シリコンバレーに拠点をおいて、多くのハイテク企業に出資しているファンドですね。

 抱え込んでいるハイテク株の含み益は、数千億円になるとお聞きしています」


一条

「不良債権処理が無ければ、もっとあったのですが(苦笑)。

 新たな不良債権にならないように細心の注意を払い、そして未来の投資先として重点的に投資しています。

 また、『ムーンライトファンド』は資源取引にも手を出しており、こちらも現在幾つかのプロジェクトを進めている所です」


記者

「ハイテク企業と取引をしている事もあって、色々と新しい動きをしていますよね。

 決済専用のインターネット専業銀行とか」


一条

「私は古い人間なので、半信半疑だったのですが、使ってみるとこれが便利だ。

 インターネット間では24時間365日全世界で決済取引ができるというのが大きいですね。

 米国ハイテク企業の協力を経て、本格的にこのインターネットバンキング事業を拡大させてゆきたいと思っております」


記者

「本格的に金融ビックバンが始まり、今年発足した桂華金融ホールディングスは、銀行・証券・保険を一体的に扱える金融グループになろうとしています。

 都市銀行の大規模再編が続く中、新たな再編を仕掛けたりはするのでしょうか?」


一条

「それは記者さんの方が知っているのでは?(笑)

 新聞記事では、国有化された共鳴銀行をうちとくっ付ける話が出ているけど、さてどうだろうねぇ……」




記事補足

 この一週間後、共鳴銀行の桂華金融ホールディングス入りが発表され、桂華ルールに従い共鳴銀行の全役員が退任……(以下略)




────────────────────────────────




某幼女「誰が入れ知恵したんだろうねぇ?」(棒)



北海道開拓銀行・三海証券・一山証券

 名前についてはあえて触れない。

 この三つが連鎖的に破綻した時の「あ、終わった」感は今でも忘れられない。

 なお、不良債権の額をこの話を書くために調べて唖然とする。


長信銀行・債権銀行・共鳴銀行

 この二つが飛んだのも結構衝撃だったのだが、先に上の奴が飛んだのでなんか慣れたという末期的感が。

 共鳴銀行は分かりづらいかな?


金融ビックバン

 不良債権処理とこれのせいで、日本の銀行は都市銀行体制からメガバンク体制に移行する。

 これだけ食べ尽くしても、三大メガバンクに届かないという……

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