私の誕生パーティー オフィシャル編 その1

 新宿の桂華ホテルで行われた私の誕生パーティーだが、政財界や各国大使を招待して華々しく行われる事になった。

 今度九段下に桂華ホテル九段下ができると、迎賓館的機能はそちらに移り、新宿の桂華ホテルは建て替えられる予定になっている。

 最上階の会場に集っていた政財界の要人達の話題は私ではなかったのだが。


「官邸機密費問題で外務省が死んでる」

「華族経由で枢密院が状況を把握しようとしているが、幹事長が派手に動いて邪魔しているらしい」

「恋住総理もこの問題は幹事長に丸投げだ。

 不良債権処理を中心とした経済問題も武永大臣に投げているし、この内閣はそういう内閣なのかもしれんな」


 超高支持率に支えられて傍若無人に暴れている恋住政権の話題である。

 現在政府を揺るがしている官邸機密費の華族流用は元々『青い血外交』を行うという形で公家系華族救済の側面があった。

 そのため、各国大使や公使としてその席に座り、実務はその下に付く外務官僚が行い、華族の集まりである枢密院にも影響力があり国家として外交の軸をずらさないという建前である。

 その実態は、大使・公使がお飾りなのを良いことに実務者が好き勝手にやらかし、そのやらかしを大使・公使の責任にしようにも彼らの特権が邪魔をするというとても良い腐り具合に。

 何よりも致命傷だったのが、この機密費という裏金づくりを歴代内閣は積極的に行っており、その使い道が機密なのを良いことに官邸職員が流用していたというお粗末ぶり。

 国民が激怒し、切り込んだ幹事長が喝采を浴びたのはある意味当然だが、外務大臣は外務省・枢密院と国民の支持を集める幹事長の板挟みにあって、組織が機能していなかった。

 もちろん、夏の参議院選挙を前にしているから恋住総理は中立の立場をとって下手に手を出していない。


「泉川さんが残ってくれて本当に助かった」

「総理としては選挙管理内閣を押し付けられて不遇だったかもしれんが、副総理としては歴代の中でここまで影響力が出るとは思わなかっただろうな」

「だから、例の法案が出てきた訳だ」


 副総理設置法。

 内閣法を始めとした諸法案の改正なのだが、すでにその名前が広がっているこれは副総理職を正式化させて、その下に政務官や補佐官を付けるというもの。

 議員先生には座る大臣の椅子が増えるのだが、同時に総理に何かあった時の職務代行は官房長官という明文化もされるので、副総理の置物化を狙っているとも見られなくもない。

 で、このあたり明らかに米国の影響を受けているなと思ったのが、枢密院議長を副総理に兼務させるというもの。

 総理経験者には爵位を与えられる慣例があるから、総理経験者が爵位を得て副総理兼枢密院議長という形で、枢密院をコントロール下に置きたいのだろう。

 やはり米国にならって議事は副議長が行うらしいが、財閥とくっ付いている華族をこの機密費スキャンダルでたたき、副総理を使って枢密院をコントロール下に取り込もうとする上に、影響力を増している泉川副総理への牽制とした恋住総理はまさに政局の鬼と言っていいだろう。

 なお、副総裁についてはさっさと党規をいじって常任化させている。


「こうなると不良債権処理も本気で進めるのだろうな」

「武永大臣は間違いなくやる気だ」

「狙いは五和尾三銀行と穂波銀行だろうな」


 工業銀行・芙蓉銀行・DK銀行の三銀行が統合した穂波銀行はその巨体ゆえに中がまだまとまっていなかった。

 大阪を拠点とする五和銀行と名古屋を拠点とする尾三銀行がくっ付いた五和尾三銀行は関東の基盤が弱いという弱点があった。

 その結果、メガバンクにとって慈雨だったロシア国債引き受けの日系シンジゲートから漏れ、不良債権処理が遅れていた。

 武永大臣が狙うとしたらここだろう。

 なお、不良債権のデータはこんな感じ。


 金融再生法開示 (銀行も覚悟を決めて潰すやつ)

  十兆八千億円


 リスク管理債権 (やべーやつ)

  三十八兆四千億円


 問題企業向け金融機関融資 (上二つを含めた問題のある貸し出し)

  九十兆円


 ……これでも私の知る前世より経済状況がましなのが泣ける。

 一般人がイメージするのは一番下の九十兆円で、金融機関が覚悟を決めたのがおよそ十一兆。

 問題は真ん中の数字から上の分を差し引いた二十八兆円をどうするかという事で、武永大臣はここの処理を求め、金融機関に公的資金注入をもくろんでいた。

 やり方はこうだ。

 リスク管理債権で金融再生法開示を除いた二十八兆円について金融庁は審査を厳格化して、これらの債権に貸し倒れ引当金を計上するように金融機関に命令する。

 ここまでは不良債権処理過程の法律で金融機関に命じる事ができるのがポイント。

 で、二十八兆円もの巨額貸倒引当金なんて計上したら、損失が凄いことになり金融機関が破綻に追い込まれる。

 そうなったら困るので、その段階で国が公的資金およそ六十兆円を用意して、これら破綻した金融機関に注入して国有化の完成。

 これらの法律も既に整備されているが、自ら破綻したい金融機関なんて無いので、あの手この手でなんとか債権を正常化に持っていったり、増資で乗り切ったりとかなりの無理を行ってこの流れに逆らっていた。

 元々国有化されてこれらの債権が限りなくゼロに近い桂華金融ホールディングスを除いて。

 一旦この時点で桂華金融ホールディングスが対象から外れているように見えるが、この二銀行のどちらかが駆け込んだ時に審査を厳格化すれば爆弾のよろしく不良債権が炸裂するので、その後公的資金を投入して国営化という考えだと思われる。


「お嬢様。

 そろそろ時間でございます」


 秘書のアンジェラが促し、私は待合室から出る。

 衣装よし。

 笑顔よし。

 気合よし。

 軽く頬を叩いて化粧室から出る。

 なお、衣装は帝西百貨店が用意したプリンセスドレス。

 制服でいいじゃないとごねた私が折れた結果である。



「桂華院公爵家御令嬢。

 桂華院瑠奈様のご入場です」




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五和尾三銀行

 某UF○銀行。

 ここは別名五和の自爆が金融庁の逆鱗に触れる結果に。

 現在尾三銀行系を粛清中。



現実の不良債権の数字

 金融再生法開示債権(大手16行、2001年3月時点):18兆0306億円

 リスク管理債権(全銀行、2000年9月時点):31兆8190億円

 問題企業向け金融機関融資:150兆円


 他にも分類債権(全銀行)という数字があって、そっちは63兆9350億円である。

 株価が高いので、不良債権がその分減っている設定なんだが……

 なお、現実では100兆ぐらい不良債権を処理したらしい。



プリンセスドレス

 某ソシャゲの下姉様第三再臨。

 聖杯与えて90までしているので男性以外にも刺さる刺さる。 

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