日曜午前の番組『日曜プロジェクト』より

「今日のゲストは桂華鉄道代表取締役の橘隆二さんです。

 今日は来ていただいてありがとうございます。

 今回は私にコメンテーターを務めて欲しいとのご指名ですがその意図は何か?」


「大した意図では無いですよ。

 ただいつもの方々だと鋭すぎる質問が多くて答えられないかもしれないからね」



(後ろのコメンテーターから声が飛ぶ)



「橘さん。

 それはないですよ」


「まぁ、冗談はこれぐらいにして。

 できうる限り答えられる所は答えていきたいなとは思っています」


「それでしたら最初は軽めの質問から。

 私は近畿出身でして。

 今、桂華鉄道は日本各地で鉄道を建設していますが、関西では新大阪駅のホーム拡張以外やらないんですか?」


「ははは。

 それは来ると思っていましたよ。

 なにわ筋線の事でしょう?

 やりたいなとは考えていますが、今日はこれぐらいで勘弁してください」


「関西出身の身からすると橘さんの言葉は嬉しいですね。

 会うたびに聞いてゆくことにしましょう」


「これは口を滑らせたかな?」



(コメンテーターがカメラの方を見て)



「進行を進めろと言われたので先に進めましょう(笑)

 桂華鉄道は買収で鉄道事業に参入し、基本第三種鉄道事業者の立場で鉄道建設を推進しています。

 関西の人ならば神戸三宮の私鉄と言えば分かるのかもしれませんが、要するに線路を他の鉄道会社に貸して鉄道を運営する形ですね」


「元々は新常磐鉄道を買おうと考えていたのです。

 それで最初に京勝高速鉄道を入手してここでノウハウをためてと考えていたのですが、総合百貨店救済の関係で香川鉄道も手に入れる事になりまして。

 あとはトントン拍子で四国新幹線と新大阪駅ホーム拡張です」



(後ろのコメンテーターから声が飛ぶ)



「その新幹線建設で政界に多大な影響力を行使したと言われていますが?」


「そう言われるのは否定しませんが、鉄道事業は千億単位で金が飛ぶ巨大事業です。

 そこまでかけても総裁選負けましたけどね」



(ギリギリの切り返しに場が静まる)



「今日、来ていただいて一番気になったのがそこなんですよ。

 桂華グループといえば、ITバブルの波に乗って不良債権処理で次々と企業を買収していったイメージを我々は持っています。

 言い方は悪いですが、どうして鉄道事業に巨額の資金を投入するのかと?」


「そうですね。

 こちらも悪い言い方で返しますか。

 我々は宝くじが当たった状態で、事業としての核が無かった。

 企業買収でその核を作ると同時に、信用が欲しかった。

 それが鉄道です」


「たしかに関西の私鉄系財閥は地域密着みたいな形で根付いていますね。

 それでも、宝くじ以上の現金をそのまま持っておくという選択肢は無かったのですか?」


「ITバブルが始まった95年から、2000年にかけて桂華グループの総資産は10兆を越えました。

 その急膨張はIT関連株およびロシア国債や原油価格の上昇によってもたらせられたのです。

 株神話が崩壊したのはここに居る皆さんならご理解してもらえると思っています。

 そのために、我々は手仕舞いを考え、ロシア金融危機を契機に資源に比重を移しました。

 同時に、鉄道事業に参入し、この国を良くするという事で信用を得ようとした訳です。

 ITの様に急上昇はしませんが、十年・二十年後には桂華グループにとって必要になる事業になると思っています」


「あぶく銭を残すというのはなかなか難しいですよ」


「ええ。

 ですから簡単に消せない鉄道事業に価値が出るのです。

 桂華鉄道は既に一兆円近い投資を行っており、現在申請中の新宿新幹線が通ったら三兆円を超えるでしょう。

 関西の私鉄各社はバブル崩壊後に兆単位の有利子負債を抱えていますが、未だ持ちこたえているのは毎日日銭が入ってくるからと、時価会計をまだ導入していないからです。

 恋住内閣では時価会計の導入を一部閣僚が目指していると発言なされているみたいですが、今、この段階でそれを導入するとアジアやロシア等で発生した金融危機が我が国にも起こるかもしれませんね」


(後ろのコメンテーターから声が飛ぶ)


「時価会計の導入は株式持ち合いを崩すから、財閥の維持という点から反対しているんじゃないですか?」


「その意見は否定しません。

 同時に、半分ほど皆様が知らないことがあります。

 株式を放出、つまり売却するという事は、誰かがその株を買うことになります。

 誰がその株を買うのでしょうか?

 桂華グループだけでも十兆円以上の価値があります。

 この資金を用意できる所となると欧米のヘッジファンドぐらいしか残っていないでしょう」


「……あの、物言う株主として有名になりつつ有る?」


「国民の皆様にはハゲタカファンドの方が名前は通っていると思いますけど?」


(後ろのコメンテーターから声が飛ぶ)


「信頼できる筋によると、桂華グループはPMCを保有し、財閥の私設軍隊保持に賛同していると思われますが、そのあたりはどうなんですか!?」


「おそらく北樺警備保障の事を言っていると思いますが、話題になっているゲーテッド・コミュニティの警護と、警備業法の改正を視野に業務拡張を整えているものです。

 これも鉄道と絡むのですが、政府では鉄道公安職員を復活させようという動きがあり、警察の下に付ける事で治安維持要員の確保を……」




「橘さん。

 今日はどうもありがとうございました。

 CMの後は、外務省を直撃した官邸機密費スキャンダルについて。

 華族大使・公使・領事に支払われる不適切な資金の流れを追います」




────────────────────────────────


 なお、最初の元手は五億円。

 リアル桃鉄状態である。

 なお13ドルでしこたま買った原油は現在30ドルあたり。


コメンテーター

 日曜政局の中心に居た二人。

 彼らもこの2000年から2010年台の重要なファクターだったりする。

 で、気づくがこれ右翼がらみでヤの人頼ったあの人救えるなと。


鉄道公安職員

 国鉄分割民営化に伴って警察に吸収された施設内警察。

 けど、ゲーテッド・コミュニティの論議が盛り上がっている時にこれは、合法的警察権力を手に入れる一手となって……


官邸機密費問題

 某外相が伏魔殿こと外務省とバトルをした果てに、両者とも潰れた救いのないスキャンダル。

 華族が残っているから、大使・公使等が彼らがする華族の牙城の一つに果敢に切り込む形になるのだけど、さぁどうなるのだろう?

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