年越しはPHSと共に

「もしもし?

 桂華院かどうした?」


「たいしたことじゃないわよ。

 今年一年ありがとうございました。

 来年もよろしくお願いします」


「律儀だな。

 桂華院らしいといえばらしいが」


「まぁ、挨拶は半分ぐらいの理由で、もう半分はこの電話掛けてみたかったのよね」


「ああ。

 PHSか。

 たしかに気軽に電話が掛けられるとは便利になったもんだ」


「その分電話代が怖いけどね」


 PHSは学生には安くて爆発的に広がったが、私達は基本小学生である。

 家から支払いができるが自前で払うとなるとちょっと厳しい。

 そんな悩みは他の学生達と一緒だった。


「電話会社に出資している桂華院なら怖くない程度だろうが」


「言うなぁ。

 あいにくメイン出資じゃないのよ」


「ちなみに、帝亜や泉川の所には繋がるのか?」


「繋げたわよ。

 天下の帝亜グループの中部本拠でPHSがつながらなかったなんて笑えないでしょう?

 同じく、副総理の家の近くにもアンテナ局を優先して置きました。

 まぁ、あの二人にはこれから電話するのだけどね」


「なるほどな。

 二人には俺からもよろしくと伝えておいてくれ」


「ええ。

 じゃあ、良いお年を」


「ああ。

 良いお年を」




「はい。

 泉川です」


「桂華院です。

 今大丈夫?」


「まぁね。

 宴会も飲みに入ったから子どもたちは退室しているよ。

 何か用があったの?」


「大した用ではないわよ。

 今年一年ありがとうございました。

 来年もよろしくお願いします」


「ああ。

 同じくこちらこそ一年ありがとうございました。

 来年もよろしくお願いします」


「光也くんからもよろしくって」


「先に後藤くんに掛けた訳だ。

 で、栄一くんにはこの後かい?」


「そうよ。

 裕次郎くんと栄一くんの二人共時間が読めないのが難点なのよね。

 パーティーや宴会が引っ切り無しに入っているから」


「たしかにそうだ。

 じゃあ栄一くんにはぼくからもよろしく頼むよ」


「わかったわ。

 ちなみにそのPHSどう?」


「悪くはないね。

 つながるか心配だったけどちゃんと聞こえるし」


「良かった。

 それを聞いて安心したわ」


「そういえば四人おそろいのPHSにしたんだっけ?」


「ええ。

 だんだん忙しくなるから、お互い連絡が取れるようにって私が用意したんじゃない」


「それはいいけど、そのために携帯電話会社に出資するかなぁ……」


「お願いを聞いてもらうのは大株主の立場が一番でしょ?

 会社ごと買いたかったけど、さすがにお金が足りなくってさぁ……」


「だって新幹線作ろうとか言っていたら、幾らお金があっても足りないよ」


「たしかに。

 さてと長話も悪いからそろそろ切るわね。

 良いお年を」


「うん。

 良いお年を」




「もしもし?

 何だ瑠奈か」


「何だって何よ。

 わざわざ年末年始の挨拶の為に電話を掛けた私に言う台詞がそれですかぁ?」


「たしかにな。

 今年一年ありがとうございました。

 来年もよろしくお願いします」


「……むぅ。

 先に言われた。

 今年一年ありがとうございました。

 来年もよろしくお願いします」


「ちなみにお前の方はパーティーとか終わったのか?」


「ええ。

 自分の部屋に戻って、『ゆく年くる年』を見ながら年越しそばを食べている所」


「……お前、よく食べられるな」


「年越しそばは別腹」


「甘いものもだろうが、新年早々体重計に乗って悲鳴を上げない事を祈っているよ」


「おーけーわかった。

 年始早々に戦争がご所望ですか?」


「悪かった冗談だ。

 さすがに年越しを電話越しに罵り合いで過ごしたくは無い」


「了解。

 この件はこれでおしまいにしましょう。

 あ、そうそう。

 裕次郎くんと光也くんから、それぞれよろしくって言付けを」


「PHS用意してくれたのはいいけど、電話代はそれぞれ自腹だからなぁ。

 普通の小学生にはこの電話代はきついと思うぞ」


「まぁ、会社からすればお金を払ってくれるならば、家族から取るのが一番だろうからね。

 これ後で問題になるから、何か手を打っておかないと……ちなみに、栄一くんは電話代自腹なの?」


「まぁな。

 裕次郎と光也の三人でビジネスを立ち上げてそこから賄うことにしてる」


「私も大概だけど、何のビジネス始めたのよ?」


「携帯サイト製作だな。

 光也が意外にこの手のが好きで、簡単なサイトを作ってUPできる所まで作っている。

 車の評価をユーザーがコメントを付けられるようにして、高速道路の渋滞状況や目的地までの時間が分かるようにしたり、旅行先のホテルや旅先で食べた料理や観光地の評価をユーザーが付けられるサイトを作っている。

 それに旅行先の天気やニュースなんかも分かるように……」


「栄一くん。

 それ、本気でするなら私がお金出してシリコンバレーの人間紹介するけど?」


「……つまり、これ当たるんだな?」


「私がお金を出したい程度には当たるんじゃないかしら?

 ちゃんとしたプレゼン資料を用意してくれたら、融資案件として処理するわよ」


「小学生がお金を借りてビジネスなんて日本でできるとは思わなかった。

 ネタだけ身内に売って、それで電話代をと考えていたんだからな」


「帝亜グループのウェブ事業の案件にするつもりだったの?

 だったら尚の事絡ませて頂戴」


「おーけー。

 その話は学校で続きをしよう。

 時計を見ろよ。

 せめて年越しだけは、小学生らしくしようじゃないか」


「……あっ!

 もうこんな時間が……あと一分、この時間が意外と長いのよねぇ」


「一年はあっという間だった気がするな。

 思い出しても何だかんだで四人でつるんでた。

 あと30秒」


「10……5、4、3、2、1。

 新年明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくね♪

 栄一くん」


「ああ。

 あけましておめでとうございます。

 瑠奈。

 今年もよろしくな」




────────────────────────────────


PHS

 このあたりが頂点であると同時にここから一気に携帯が広がるから斜陽になってゆく。

 なお、瑠奈が出資したのは新幹線の縁から日本テレコム。


栄一の事業の肝

 Iモードでやろうとしている所で、テイア自動車の自動車情報事業の補完になるから、かなり力を入れる事に。

 それに瑠奈が金と人材を出すと言っている。


ゆく年くる年

 NHKで23時45分から始まる番組。

 紅白を見てそのままTVをつけ続けると、必然的に見る事になる。

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