デザイナーメモ 昭和参勤交代列車と二重学籍

 東京への一極集中が進む昭和後期。

 地方の富裕層はある問題を抱えていた。

 東京と地方の二重生活である。

 政治経済の中枢である東京での生活は確実に有利であるのだが、基盤である地方に目を向けねばその地方から見捨てられる。

 その為、地方の有力者は必然的に二重生活を余儀なくされることとなる。

 一昔前は、出身地域閥や学閥が組んで、旅館やホテルを建ててそこを皆で使うという形にし、休日前には夜行列車にて地元に帰るというのがある種の憧れという時代だった。

 そんな中、華族復権の流れがこれに微妙な一石を投じる。

 戦後のどさくさに紛れて成立した不逮捕特権。

 これを狙って、華族にくっ付いた有力者層の一番多かった犯罪はなんと言っても脱税だった。

 そして、華族は戦後の混乱前から没落の道を辿っており、新旧の血の交換はいわば時代の必然だったと言えよう。

 そういう流れで、夜行列車に華族専用の特等車両が用意されたのは必然であり、週末の夜ともなると、その特等列車に妾を連れ込む地元華族の姿が散見されるようになる。

 そんな華族専用夜行車両を組み込んだ列車達を、その手のマニア達は憧れと軽蔑を込めて『昭和参勤交代列車』と呼んだ。


 一方で、華族が生き残ったこの昭和という時代、彼らは新しい血を交えながらその血の存続を求めて地方に散っていった。

 田舎のおらが殿様という伝説は未だ残っており、その伝説が消える前に新旧の血の交換が行われた事が、そんな幻想的奇跡を起こしたのだろう。

 政府陳情のラインに、官僚・政治家・閨閥・学閥の一つとして華族という選択肢が入り、その不逮捕特権が地方のトラブル、それこそ昭和50年台に流行した伝奇的探偵映画などで出てくる恩讐の封印役として、都合よく使われる事となった。

 そんな華族の二重生活だが、困ったのは彼らの子どもたちである。

 帝都の上流階級とのコネはもちろん大事だし、地方有力校のコネというのも馬鹿にならない。

 普通ならば、長男を帝都に、次男以下を地方になんて振り分けをするのだが、交通の発展と、華族の持つある特権が両取りという選択を可能にした。

 華族特権の一つ。

 二重学籍である。

 これは、帝都東京の名門校に籍を置く華族子弟の中で成績優秀者に限り、地方の名門校にも籍を置く事を認めるというものだが、同時に有名私立学校の提携による全国化を一気に推し進めた。

 華族などの特権階級は私立校へ、一般人の成績優秀者は公立校から帝国大学へという流れが定着するのがこの頃である。

 提携によって同一校扱いとして、どちらの授業を受けても学位を保証するという形にしたのである。

 かくして、華族の地方出身者達も参勤交代列車の乗客となった。

 そんな参勤交代列車の栄華は平成に入ってから、緩やかに衰退してゆく。

 新幹線の延長や、地方空港の整備が進み、日帰りが可能になってきたからである。

 また、帝国鉄道の分割・民営化に伴って別会社をまたぐ形になる長距離列車が敬遠されたこともあり、参勤交代列車は少しずつ姿を消すことになる。




────────────────────────────────


春日乃明日香や開法院蛍とかの地方出身者あたりを書く際にいるなと思って追加


要するに悪役令嬢もののでお約束な領地に帰りますというお話の為の整備である。


不逮捕特権の使いみち

 脱税で、成金が資産を次代に残せる事と、地方で発生する上流階級が絡んだ殺人事件なんかの封印役。

 この世界は徹底的なまでに探偵に厳しい。

 探偵を叩き潰す海勝麟六が全国あちこちに居るのだから。

 こーいう事をやっているから、第二次2.26事件で華族が殺される事になる。


こういう世界だと、深夜バスの立ち位置も社会的背景とかが透けて見えるから楽しい。

 一般視聴者で年をとられた人なんかは「なんであのお嬢様は深夜バスに乗っているんだ?」ってのが、社会階級的に問われてくる訳で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る