中庭オペラ
文化祭だが小学生では出店などで参加ではなく、展示参加となる。
まぁ、それについては問題がないのだが、古今東西揉めるのは出し物である。
「教室で絵とか展示して済ませない?」
帝都学習館学園はエリート校らしく、小中高大まで一貫教育を売りにしている。
このあたり面白いもので、各地の帝国大学系は地方の秀才のために開かれているというのがこの国の建前である。
「あそこは官僚になる連中が行く大学だ」
と言って帝国大学に行かなかった大物政治家が居るぐらい。
ん?
では、光也くんはどうしてこっちに来ているのだろう?
聞いてみた。
「俺の所は代々官僚で事務次官を二代出しているからな。
事務次官まで行くと、叙爵で一代男爵位を得られるんだ。
帝大は成り上がり系が行く場所なんだと」
納得。
光也くんのお父さんも事務次官になるから、三代も一代男爵を出せばそれはもう貴族だろう。
こういう官僚貴族連中の受け皿としてもこの学園は機能していた。
閑話休題。
「折角やるんだからもっと派手なのをしようぜ」
大体こうやって場を動かすのは栄一くんであり、それを裕次郎くんと私が奔走してフォローする。
で、この二人で頭を抱えると、光也くんがツッコミという名前の打開策を出してくるという訳。
良くも悪くもチームワークは良いのだろう。多分。
「派手なのってなによ?」
私のツッコミに首をひねる栄一くんを放置して、裕次郎くんが黒板に派手そうなもののリストを出してゆく。
なお、この場所は教室で今はクラス会。
ついでに言うと、学級委員長は裕次郎くんで私が副委員長である。
「飲食の出店については小学生は校内規定で禁止されているから、演劇、もしくは演奏あたりになるかな。
体育館の利用状況だけど、基本中高大のみんなが使うから、こっちにまで空きが回るのは珍しい。
ちょっと難しくないかな?」
「待った。
確か、中庭については文化祭実行委員会に申請を出せば使えるはずだ。
本格的なものをやる必要がなくて、派手な見た目ならばこっちの方がいいんじゃないか?」
ほら。
こうやって突っ込んでくれる光也くんに本当に感謝。
そうなると、問題は一つに絞られる。
「じゃあ、演劇か演奏かのどっちかだけど、どっちにする?」
いい所の人間が集まっているクラスだから、そこそこ演奏スキルを持っている連中がいるのがこのクラスの特徴である。
なんとかなるだろうと思っていたら、栄一くんが私の方を見てにっこりと笑った。
あ。これはろくでもない事を考え出したな。こいつ。
「なら、オペラでいいじゃん。
瑠奈歌えるだろ?」
「おーけーわかったから、まずその発想に至った理由を説明しなさい」
この間のコンサートの件だなとうっすらと分かっていたが、だからと言ってそれで決まると私の負担が凄いことになる。
一応最低限の抵抗を考えるが栄一くんの発想は私達の発想を軽く越えてくるから困る。
「この間瑠奈とコンサートに行ったんだが、帝亜国際フィルハーモニー管弦楽団の関係者が瑠奈ともう一度何かしたいと言ってきてな」
女子から悲鳴が上がるが、栄一くんはお構い無しである。
カルテット組んでいる時点である程度の黙認はあるが、女子たちにとって面白い訳がない。
なんらかのフォローを考えないとなんて考えていた私を尻目に、栄一くんは話を進める。
「この文化祭にうちのチャリティーコンサートとして出るんだが、それだったら楽団の空いている連中が使えるだろう?
俺たちは劇という事で、演じていればいいし」
「栄一くん。
それ桂華院さんの負担が凄いことになると思うんだけど……」
裕次郎くんフォローありがとう。
これで見事に没になると思ったが、栄一くんは既に切り札を用意していたのだった。
「そうかな?
瑠奈にはこれを見せると、首を縦に振ると楽団の連中が言っていたぞ♪」
立ち上がった栄一くんは一枚の楽譜を持ってつかつかと教卓に歩いて、机にそれを突き付ける。
それを見た私は、ため息をついてそれを了承したのだった。
「♪~」
中庭に私の声が響く。
私の声に周囲の人間の足が止まり、演じているクラスメイト達も私を見て呆然としている。
モーツァルト『魔笛』。
その有名過ぎる『夜の女王のアリア』。
あのコンサートに居た連中は、私の才能と歌への思いに勘付いていたのだ。
この歌は、コロラトゥーラ・ソプラノの登竜門と呼ばれる曲で、日本では『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』という名よりも『夜の女王のアリア』で知られている。
私の歌をサポートするはずだった帝亜国際フィルハーモニー管弦楽団、メインをこっちに引っ張ってきてんじゃねぇ!
あ、一条発見。
そういえば、家族サービスのついでに家族を連れてくるって言っていたな。
橘の隣に居るのは、仲麻呂お兄様!?
秘密にしていたわね!!
しかも全員私を見て楽しそうに笑ってやがるし。
「♪♪♪~♪」
永遠に等しい三分ちょっとの時間が終わると、万雷の拍手が私を出迎える。
栄一くんや裕次郎くんや光也くんだけでなく、橘や一条や仲麻呂お兄様まで拍手している。
その拍手が眩しくて、自分の知っている人たちが私に向けて称賛している事が嬉しくて。
指揮者が私に近づいて、私に囁いた。
「この拍手は、この間のコンサートの時に、君が受けるべきだった称賛の後払いだよ」
何かわからない感情が溢れてドレス姿の私は泣いた。
その賞賛を前世の私は長いこと忘れていたという事まで思い出してしまったから。
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官僚になる連中が行く大学
これ麻生副総理の逸話と思ったが、確認できず。
モーツァルト『魔笛』
書くために調べたが、これエジプトの話だったのか……
7/5
読者からのメッセージにて過去の政治資金パーティーの席での発言との情報提供を頂きました。
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