えへ顔ビデオレター

「ちょっと、亜紀さん。止めてよ。

 恥ずかしいじゃない!」


「買ったのに使わないなんて、もったいないじゃないですか。

 ほら、お嬢様。笑ってください」


「いや、それはちょっと幼稚園で使って……」


「大丈夫です。

 幼稚園の記録も出来る限り撮らせていただきました」


「ちょっと何撮っているの!?

 佳子さんなんとかして止めて……」


「お嬢様。

 私、ビデオカメラを3台も買った理由に納得していないのですが?」


「……私が悪うございました」


「お嬢様!

 せっかくの晴れ舞台!

 帝都学習館の参観日なのですから、笑ってくださいませ!」


「直美さん、この状況で私、笑うって無理があると思うんだって、こっちは写真撮っているしー!!

 ええい、そこで笑っている人たちも入りなさい!

 お嬢様命令よ!!」


「はいはい。

 この度、お嬢様の通学を任されました運転手の曽根光兼と申します」


「同じく、運転手の茜沢三郎です。

 私達が交代でお嬢様の通学の運転をさせていただきます」


「ふっふっふ。

 これに併せて、車も新調しました!」


「亜紀さん。

 普通の車で良かったんじゃないの?

 私は別に気にしていないけど」


「お嬢様。

 見栄もありますが、こういう高級車に乗っていると、馬鹿が突っ掛かって来なくなります。

 それだけでもお嬢様の安全を図れるんですよ」


「茜沢の言うとおりです。

 あと、執事の橘さんが忙しくなって、移動がどうしても多くなるので、橘さんが移動中にゆっくりできる空間をというものあるのですよ」


「あー。

 そういえば曽根さんのその言葉で、このベンツ買ったんだったわね。思い出したわ」


「お嬢様。

 私の体のことを考えていただきありがとうございます。

 そろそろお時間かと」


「えっ!?

 もうこんな時間だし。

 直美さん、茜沢さん、行ってきまーす♪」


「行ってらっしゃいませ」

「留守はお任せを」




「私ですか?」


「そうよ!

 校門前で私だけ撮られるなんて納得いかないから、画面に入りなさいよ!

 そんな格好しているんだからさぁ」


「お嬢様。

 これはお嬢様の保護者役としての格好で……」


「いいじゃないですか。

 折角ですから。

 そのスーツ姿は残しておきましょうよ」


「亜紀さん。

 貴方までそういう事を言うんですか?もぉ……」


「凄いよね。

 これでたしか年……はい。

 私は何も言っていません!ええ!!」


「よろしい」


「とかいいながら、久しぶりにブランド物を着れるとウキウキしていた……はい。

 私も何も言っていませんとも!ええ!!」


「お嬢様に、亜紀さん。

 『雉も鳴かずば撃たれまい』って言葉は覚えておいたほうがいいですわよ♪」


「はいはい。

 折角ですから橘さんも入ってくださいな」


「入るのは少し恥ずかしいですな」


「お嬢様の思い出になるのですから、さぁさぁ」


「そうよ!

 橘も入りなさいよ!!」


「仕方ないですな」


「しっかし、佳子さん時を止めているんじゃないでしょうね?

 私、いくら思い出してみても、佳子さん変わっていない気がするんだけど?」


「奇遇ですね。お嬢様。

 私もです」


「たしかに、いつまでもお美しいですな」


「橘さんまで何を言っているんですか。

 もぉ……」


「さらりとブランド物のスーツを着こなしているけど、こんな女性になりたいわよね」


「あー!

 るなちゃんおはよーーーー!!」


「あすかちゃんおはよー!

 はい。注目!

 幼稚園のお友達の春日乃明日香ちゃんです!」


「え?何?テレビ?

 あ、はい。

 春日乃明日香です。

 よろしくお願いします」


「ほたるちゃんは一緒じゃないの?」


「たしか一緒に……」


(ひょこっ!)


「「「!?」」」


「お、お嬢様!?

 今、急に女の子が!?」


「気にしないで。

 この子が私と明日香ちゃんのお友達の開法院蛍ちゃん」


(こくこく)


「……おとなしい方なんですね?」


「この子を捉える為にビデオカメラが必要だったのよ」


「それが理由だったんですか……」


「何やってんだ?お前ら?」


「栄一くん。おはよう!

 見ての通り、撮影されているのよ!

 貴方も入りなさいよ!」


「何で人のホームビデオに入らないといけないんだよ!」


「るなちゃん、この人だれ?」


(にこにこしながらやりとりを見詰めている)




「えっと、これを見ている大人の私へ。

 没落していませんか?

 ロクでもない仕事を押し付けられる会社に入って体を壊したりしていませんか?

 私の未来は真っ暗になっていませんか?」


「お嬢様。

 真顔で悲観的な事を言わないでください」


「そうならないように、未来の私に警告しているのよ。

 今の私は幸せです。

 未来の私は幸せですか?

 たとえ不幸だとしても、こんなに幸せな過去があった事を思い出してください。

 こういう風に笑っていた事を思い出してください。

 未来の私へ。

 この笑顔を忘れている私に、この笑顔を送ります」


「……変なやつだな。

 お前……」


「わっ!

 バッテリーが!?

 充電器はど……」



(画面が消えて、真っ黒になる)



────────────────────────────────


佳子さん

 銀座の女帝も夢ではなかった美魔女。

 瑠奈の乳母役として保護者出席したが、見事なマダムぶりに目を奪われた殿方多数だったらしい。

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