虚空のビート

クリシェ_Iris Project

VOL.1「あまのじゃく アマノジャック」

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僕はこの、音楽という場で語り続けます。

僕らが。貴方が。見ず知らずの誰かが!

別け隔てなく、伝え合って、手を取り合える未来を想って。

---------------------------------------------------------------------------------------------------Akira---


そんな言葉は綺麗事だ。

物事は人の都合でいくらでも塗り替えることが出来る。

現に今の自分がこうだ。

意味は。想いは。人の都合でいくらでも捻じ曲げられる。


だから俺は、音楽を捨てた。



■2020.4.7 AM10:30----------------------------------------------------------------------------------


本日、俺、葉月夕はづき ゆうは高校生になった。


「よ〜し、じゃあホームルームを始めるぞ。まずは私の自己紹介から。」


しゃがれた声と共に教室に現れた中年男が、淡々と自分語りを始める。

先程まで賑やかだった教室は緊張感に包まれ、学び舎に本来あるべき静寂を取り戻した。

黒板を叩く、太々しさまで感じられる程に力強い筆圧によれば、男の名は古屋というらしい。


「さて、じゃあ次は君達のことを教えて貰おうか。そんじゃ、天野から。」


「はい!僕は目立つのが大好きです。学年対抗スポーツ大会とか大好物でしたが、高校といえば文化祭、文化祭といえばバンドが出来たらなって思っています。」



■2020.4.7 AM11:30----------------------------------------------------------------------------------


「さっきから何なの?お前。」


初日の顔合わせが終わった帰り道、俺の真横に並んで何時までも付き纏ってくるやかましい男が一名。


「だって、バンドマンの家族なんでしょ?じゃあ羽月もミュージシャンってことなんじゃない?」


清々しいまでの都合の良さ、はた迷惑な勘違い。

元はと言えば、全部あの調子のいい担任のせいだ。

こちらが一番隠したかったことを独自の情報網と称して速攻バラしやがった。

おまけに、寂しいだろうから相手してやれなどという余計な一言まで添えて。


「だからって、家族皆がそうだと思ったら大間違いだな。」


「でも、そばで見てきたんでしょ?」


「兎に角、俺に関わらないでくれ。俺は音楽なんてくそくらえだ。現に技能教科は美術を選択してるだろう。」


「なんで?」


「は?」


「嘘つき。」


「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇ!」


「だって、目が泳いでる。言葉も異様に荒い。それってそういうことだよ。」


「そんなんで分かるのか?」


「うん。」


「ちっ!ふざけんなよ、ずりいだろうが。」


「何せ、君がたった今教えてくれたからね。はははっ、痛った!」


あまりのおちゃらけっぷりに思わず手が出た。

一本取られたのでついつい取り返してしまった。

あいつ、ただの馬鹿のように見えて。

あ、いや、実のところ馬鹿であることに間違いはないのだろうが。

ハッタリでうっかり自らの手で逃げ道を断ってしまったのが本当に悔しかった。

あぁ。態々音楽のない道を選んで、一人でひっそりと平穏な学生生活を過ごそうと思ったのに。

だって、他人やじうま程、無駄で無責任な存在は無いのだから。


「もう付き纏うな。邪魔なんだよ。」


「え?そうなんだ。じゃあ退くから一緒にバンドやろうぜ。」


「嫌だ。」


「即答 !? 何で?」


「嫌いだから。」


「だから嘘だよね、それ。」


「俺のやるべきことじゃないから。」


「それは君がそう思い込んでいるだけでしょ?」


「だから、そうだって言ってんだよ。やりたくないの。決めたの、俺は。」


「そっかぁ。でも、僕と一緒なら楽しいでしょ?」


「全然。」


「またまた〜。」


「そういうのが無理。」


「僕らまだ知り合ったばかりだよ?」


「そういう軽いノリ信用出来ないから。」


「きっと考えすぎなんだよ。」


「余計なお世話。そんなにやりたきゃ軽音部行きゃいいだろ。」


「そういうことじゃないんだよ。」


「何で俺に拘んの?」


「勿論、バンドマンの知り合いって肩書があれば目立つから!それに、上手く行けばお互い顔が売れてウイ↓ン↑ウイ↓ン↑だよね♪」


「いい加減にしろ!」


ヘラヘラしている天野に向けて、俺は再び拳を振りかぶる。

が、それを天野は右手を添えるように簡単に受け流した。

そして、呆気にとられる俺を見て天野はにこやかにこう述べたのだった。


「僕が今まで僕であれたのは “MINORITY” があったからです。


 そして何より、


 君の唄 が好きだからです。」


---------------------------------------------------------------------------------------------Vol.1 END---

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