16.お願いだから背中の暗黒穴はしまって!
僕が色々妄想している間に黒岩くんが力ずくで事態を沈静化させていた。
さすがは重鎮。
身体も重量級だけど存在感も凄いよね。
「皆様方。時間がありません故、私語は慎んで頂きたく」
言葉は丁寧だけど迫力が凄い。
一瞬で静まりかえる会議室。
「そうだな。神薙、始めろ」
というよりは発表?
「それでは。色々と聞かれている事もあるでしょうが、全員の意識合わせのために最初から説明させて頂きます」
そして神薙さんは僕の両親から矢代興業に来た調査依頼の事を説明した。
僕も初耳の事もあった。
親父の話では、そもそもお見合いの打診とかじゃなかったらしい。
仕事で関係したどこかの偉い人が契約後に「そういえば頼まれていることがあるのですが」とかそういう気のない言い方で持ってきたとか。
何でもその人の知り合いの娘さんが僕に興味を持っているのでどこかで会えないか、という程度の戯れ言だったそうだ。
もちろん親父はその場で断った。
そういった話は今までにも無数にあったようだし、そもそも親父は息子に対するそういう干渉を何より嫌う男だ。
あの人、僕を息子じゃなくて独立した個人として認識しているみたいだからね。
いや肉親としての情がないわけじゃないんだけど、僕が小さい頃からその態度は一貫している。
命令したり支配下の人間として扱うんじゃなくて取引しようとするんだよ。
これは大したもので、自分の息子を一人前として認めているということだよね。
実は前に聞いてみたことがある。
親父が僕を対等な相手だと意識したのは何時からかって。
驚くなかれ、僕が小学校を卒業した時点だそうだ。
つまりあれだ。
共働きで家にいなくなる両親の代わりに家政婦を雇おうと思うけどどうすると僕に聞いたことがあったんだよ。
僕の意向を聞いてくる事も凄いけど。
その時僕は自分が家政夫をやるからお小遣いを値上げしてくれと交渉したんだよね。
それで親父は僕を認めたと。
これってやっぱり育児放棄だよね?(泣)
母さんは一応反対したらしいけど、親父に言い負かされて半年くらい僕の世話をやいてくれた。
で、母さんも息子に家事を押しつけて育児放棄に走った。
それを知った時には涙も出なかったっけ。
(
「……矢代氏はそれで済んだと思われたそうですが、しばらくたって別の取引の後に似たような相談を受けたそうです。やはり、知り合いの方の娘さんが大地殿に会いたがっているからと」
「どこかおかしいのか? ダイチに会いたがっている娘なんざいくらでもいるだろうが」
「それとも同じ娘だったと?」
「……それが何の関係もなかったそうです。紹介者も依頼主も、その娘さんとやらのお名前も」
「……ということはまだ先があるわけか」
「はい。一度や二度なら偶然ということもあるでしょうが、それが何度も重なると意図的である可能性が高まります。矢代氏は最初に遡って取引先の方や依頼主について調べてみたそうですが」
「無関係だった」
なぜか口を挟んだのは八里くんだった。
「
「そうだな。よくある手だ」
頷き合う
「と、おっしゃいますと?」
高巣さんの疑問に八里くんが応える。
「帝国情報局でもよくやった手です。
「おそらくダイチを狙っている奴は色々なバリエーションで試しているんだろうな。 矢代氏だけじゃあるまい。最初に気がついたのが矢代氏だったということだろう」
そうなの。
何か出来の悪いスパイ小説みたいになってるけど、何で僕に会いたがるの?
ていうかその前にお見合いって?
「僕に会ってどうするつもりなんだろう」
思わず呟いてしまった。
全員が僕を見た後溜息をつく。
「ダイチ。お前は自分の値打ちをもっと認識した方がいい」
「ダイチ殿にお目にかかるためなら何でもする人は数え切れないくらいいますよ」
「増してお見合いなどと。やはり斬るべきでは」
最後のは比和さんだけど止めてね(汗)。
「……矢代氏からの依頼で調査を行った時点では対象に何の繋がりもなかったのでそこまでで終えましたが。
宇宙人のネットワークにも引っかかったのか。
「実に巧妙で、なおかつ用心深かったそうです。ひとつひとつはちょっとした頼み事やお願いで、それ自体に怪しい要素はない」
神薙さんが淡々と続けた。
「依頼内容も直接ダイチ殿に会いたいという事だけではなく、ダイチ殿への接触方法や行きつけの店などを聞いてみるだけ、というものが大部分。調べなければ気づかない程度の接触の痕跡が大量に発見されたと報告を受けています。しかも後を追えない」
何それ。
矢代興業が
しかも知らないうちに。
「問題だな。気が緩んでるんじゃないのか」
「返す言葉もない。俺の失策だ」
「この際、セキュリティを洗い直せ。宇宙人にも協力させろ」
「御意」
また江戸時代になってる(泣)。
王国も帝国も中世だったからって何で武家言葉になるの?
「既に動いてますぅ」
信楽さんが発言した。
「コンプライアンスの改訂にかこつけてぇ攻勢防御体制をぉ強化しますぅ。この
やっぱり信楽さんが噛んでいたか。
凄いなあ。
すると僕の隣から声が上がった。
比和さんだ。
「よく判らないのですが。その件がダイチ様の
比和さん。
お願いだから背中の
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