15.だから配下の人たちがよってたかって僕の結婚に口出しを?(泣)

 お菓子を摘まみながら信楽さんや比和さんと雑談していたら誰かが手を叩いた。

 喧噪が一瞬で静まる。

 神薙さんか。

「宴たけなわでございますが、ここでいったん締めさせて頂きます。では解散」


 パンパンと手を叩くとみんなが一斉に動き始めた。

 凄い統制力だ。

 矢代興業の総務担当役員だもんね。

 つまり全社員の弱みを知り尽くしている……わけでもないんだろうけど情報を握られている事は間違いない。

 ほんの数分で混み合っていた会議室ががらんとしてしまった。

 残ったのは黒岩くんや八里くん、神薙さんといった矢代興業の重鎮と、後はシャルさんに宮砂さん。

 王国王女様高巣さん帝国将軍様晶さんもいる。

 それから僕と信楽さんに比和さん。

 これって。


「矢代財団のぉ幹部会ですぅ」

 信楽さんが言って立ち上がった。

「理事会じゃないの?」

「最高幹部会なのでぇ。お飾りのぉ理事さんたちにはぁ遠慮して貰ってますぅ」

 なるほど。

 矢代財団には中二病患者以外の理事もいるからね。

 法務とか行政関係とか大学生には無理な資格や経験がないと財団を運営できないと言うので専門家の人たちも参加しているんだよ。

 後は末長さんみたいな重要人物とか。


「これだけでいいの? 何か王国と帝国関係だけに見えるけど」

「これはぁまさに王国と帝国のぉ問題ですぅ。もっとも私ぃは関係ないですがぁ」

 いや、信楽さんを外すわけにはいかないのは僕にだって判る。

 むしろ信楽さん以外は必要ないくらいで。


「懇親会の後はカラオケかと思っていたんだけど」

 聞いてみたら黒岩くんに頷かれた。

「対外的にはそうなっております故。このメンバーを怪しまれずに集めるにはこれが一番だと信楽殿が」

「カラオケ棟に行ってもぉ良かったんですがぁ、行ったら皆さん歌いそうなのでぇ」

 さいですか。

 まあそうだろうな。

 つまり信楽さんは矢代財団の最高幹部会を極秘裏に開きたかったと。

 だから懇親会を開いた?


「違いますぅ。懇親会がぁ先ですぅ」

 心を読んで返事するのは止めて欲しいんだけど(泣)。

 昔、僕のAI秘書碧さんが散々それやってくれて、一時はノイローゼになりかけたもんね。

 我慢出来なくなって加原技術部長にねじ込んでプログラムを修正して貰ってから「サトリの化物」はあまり出なくなったんだけど信楽さんが残っていたと。

 まあいいや。


 僕がぼやっとしている間に比和さんたちが机や椅子を動かして回型の会議机をセットしてくれていた。

 信楽さんに促されて座る。

 比和さんや宮砂さんが取りのけておいたペットボトルやお茶請けを配膳していた。

 比和メイドさんはともかく宮砂社長さんがそれやったら駄目だと思う。

 パシリ体質だからしょうがないけど。


「それでは」

 一同が着席した所で神薙さんが言った。

「これより矢代財団臨時理事会を開催します。この理事会は非公式です。議事録は作成しませんので」

 何と。

 つまり正規の理事会じゃないわけか。

 密談とも言う。


 僕は改めて出席メンバーを見てみた。

 まずは高巣さんとアキラさん。

 王国と帝国の貴顕が揃っているということは事業関係じゃない。

 アキラさんはともかく高巣さんは矢代興業の事業に関係してないからね。

 黒岩くんと神薙さん、そして八里くんがいるのは当然ではある。

 実務関係のトップだから。

 シャルさんと宮砂さんは微妙だけど矢代興業の表向きのトップというよりはむしろ王国貴族としての参加かもしれない。

 信楽さんはデフォルトとして比和さんがいるのはちょっと不思議だけど何か理由があるんだろうな。

 最高幹部の一人である加原くんがいないのも意味深だし、宇宙人や未来人、超能力者もいない。

 魔王炎さんや神様たち、あるいは精神生命体パティちゃんなんかも出てないということは。


「では信楽殿。お願いします」

「はいですぅ」

 神薙さんに言われて信楽さんが立ち上がった。

 言い忘れていたけど僕の隣の席だ。

 反対側には比和さんがいるんだけどそれはいい。

 信楽さんが淡々と話し始めた。

「ここにいる人はぁご存じと思いますがぁ、今回の議題はぁ矢代先輩のぉお見合いですぅ」

 言っちゃったよ!

 ていうか何それ?

 僕のお見合いって矢代財団の極秘臨時理事会を開いて議論しなきゃならないほどの重大事なの?


 すると神薙さんが慌てて立ち上がった。

「申し訳ありません! お見合いというのは不確定情報です。実際にはまだそこまで行ってないというか!」

「どういうことか?」

 八里くんが重い口調で言った。

「私が聞いたところではお見合いだったはずなのだが」

「まあ待て八里。神薙の話を聞いてやろう」

 アキラさんが舌なめずりしそうな口調で言う。

 何か混乱しているな。


「すみませんですぅ。でもぉ、どう見てもぉこれはお見合いですぅ。ただしぃ結婚を前提とするものではぁ必ずしもないですぅ」

 信楽さんが更に混乱を促進した。

 たちまち私語で溢れる会議室。

 面倒くさいなあ。

 ていうか僕そっちのけでみんな何を盛り上がっているの?

 僕の事らしいのに全然情報が入ってこないんですが。

矢代大地ガキは公人だからな)


 無聊椰東湖オッサンが訳の判らない事を言った。

 何で?

 僕のお見合いなら個人的な事じゃないの?

(抜かせ。矢代大地ガキは矢代財団のトップだぞ。その配下企業群の支配者だということだ。これほどの規模の企業体ならそれはもはや国だ。そのトップの結婚が私的な事であるはずがない)

 えーと。

 それって。

(判ってるだろう。矢代大地ガキの好きなラノベに散々出てくるじゃないか。王様が嫁を迎えるとしたら政治的な事以外では有り得ない)


 そうなの。

 でも僕、子供の頃から婚約者がいたり辺境伯の娘が幼馴染みだったりしないんだけど。

 違うか。

(だな。矢代大地ガキはラノベで言えば若くして平民から領地を支配する貴族までのし上がった英雄みたいなものだ。幼馴染みや政略的な婚約者はいない。平民だったからな。だが今は)

 だから配下の人たちがよってたかって僕の結婚に口出しを?(泣)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る