12.後ろの比和さんの背中に黒い穴が開きかけてるからね?
高巣さんと比和さんはそれっきり別の話を始めてしまったので
気がつけばシャルさんと宮砂さんが消えていた。
あの二人も王国の貴族ではあるけど王女殿下や帝国の皇女将軍に比べたら格下だからね。
それでもなくても矢代興業の経営方針を巡って対立しているという話だし。
「別に対立はしてないですぅ。お互いにぃ無視しあっているだけでぇ」
信楽さん、それって何の解決にもなってないから!
「無視はないが似たようなものだな。俺たちは
「それでやっていけるの? シャルさんって矢代興業の
「CEOには事業部に対する直接権限はないからな。好きな様にほざいてくれて構わん。俺の配下には手を出させん!」
ていうか
「俺の配下」って何なの?
「谷先輩はぁリゾート関係事業のぉ黒幕ですぅ。矢代警備にもぉ食い込んでますぅ」
信楽さんがバラした。
「黒幕って」
「公的な立場はないですがぁ幹部は全員、谷先輩の直接の配下ですぅ」
「そういうことだ。ダイチが社長だった時に社長案件でプロジェクトを推進しただろう。あの時に根回ししておいた」
「感謝してるぞダイチ。あのせいで地盤固めが出来た。リゾート関係事業は俺の牙城だ」
こんな所で勢力争いかよ!
面倒くさいなあ。
「好きにしてよ。もう僕には関係ないし。所で
無理に話を逸らせてみた。
「ないな。うちは親に理解があるから。それに俺はまだ学生だし」
「え?
「失礼な事を言うな。大学院に進学するだけだ」
何と。
「大学院って」
「来年度からぁ作りますぅ。とりあえずぅ総合経営学コースのみですぅ。主宰はぁ末長名誉教授ですぅ」
さいですか。
「つまり
「失礼な言い方だがその通りだ。学生でいれば色々と便利だからな。矢代興業にはバイトの資格で所属する」
そういうことか。
大学院生が企業でバイトするのはごく自然だし目立たない。
まさか裏から事業全体を支配しているとは誰も思うまい。
「つまり見合いなんかしてる暇はないと」
「当たり前だろう。ていうか俺たちはまだ22だぞ? 俺は女だがいくら何でも早すぎる」
だったらなんで僕の所にそんな話が来るんだろう。
「僕だってまだ22歳なのに」
「それはだな。ダイチの名前が売れすぎたからだ」
「好きで売ったわけじゃない。それに僕はもう社長でもCEOでもないのに!」
「理事長ですぅ。しかも大学と財団のトップですぅ」
そうだけど(泣)。
「まあ、俺は当分無名のまま青春を謳歌するさ。そうだよな王女?」
高巣さんは微笑んで頷く。
「わたくしも大学院に進みますので」
そっちもかよ!
「高巣さんは今何してるんだっけ」
聞いてみた。
この二人も公式には名前が上がらなくなったんだよなあ。
矢代興業全体で隠蔽している臭い。
大切な
王国と帝国の精神的支柱とも言う。
「矢代財団の理事ですぅ。それだけですぅ」
信楽さんが教えてくれたけど、それって何もしてないのと同じだよね?
「俺と王女はいいんだよ。存在するだけで」
「わたくしもいずれはお役に立ちたいと。精神医療関係の資格も取りましたし」
それって別に医学部出るとかそういうんじゃないでしょう。
でも高巣さんはそれなりに役には立っているんだろうな。
さっきも比和さんを宥めていたし。
まあいいや。
「どっちにしても浮いた話はないんだよね」
「俺たちに? 当たり前だろう」
「わたくしたちの結婚は、その、ダイチ殿以上に政治的な問題がありますから」
さいですか。
いいなあ。
二人揃ってモラトリアムだ。
僕なんか理事長とか教授とかやらされてるのに!
実務は丸投げしてるけど。
煮えたぎる想いを押し殺していると
あいかわらず逃げが上手い。
美味しい所だけかすめ取って責任取らずに消えるんだよね。
まあいいや。
「この度はおめでとうです!」
中性的なイケメンが来た。
よく卒業出来たもんだ。
いや心理歴史学講座の単位は
「頑張りました。先月最後の単位を何とか」
危なかったらしい。
まあ
正直言って矢代興業で何やってるのか知らないくらいで。
「そういえば
最近あまり会ってないから知らなかったりして。
配下の魔王軍は僕の御用聞き化してるから
あの人たちの給料がどうなっているのか知らないって拙い?
「
信楽さんが教えてくれた。
そうなの?
「色々ありまして」
「新年度からぁ矢代財団のぉ理事に就任予定ですぅ。つまりぃ矢代理事長の直属ですぅ」
「ほら、私って末長の棟梁じゃないですか。末長家から大地さんに差し出された立場ですから!」
はしゃいで言う
気づいてないみたいだけど、後ろの比和さんの背中に黒い
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