8.嬉しいけどその「餌食」って何のこと?
僕?
いやいやいやいや!
何ぼなんでも早すぎるでしょう!
「何で僕が結婚することになってるの? ていうか僕が結婚するのに僕が知らないって?」
思わず立ち上がってしまった。
黒岩くんはハンカチで額の汗を拭きながら縮こまっているだけ。
巨体が少し小さく見えたりして。
(まあ落ち着け
どさっとソファーに座ってから信楽さんを見たらのほほんとしていた。
「これ、信楽さんの仕込み?」
聞いてみた。
「違いますがぁ。まあ、予想出来たことではありますぅ。黒岩先輩を責めないで欲しいですぅ。
やっぱ信楽さんはご存じだった(泣)。
「……なら聞くけど。最初から教えて」
「さようでございますな。失礼致しました。実は大地殿のご両親からのお話しでして」
黒岩くんが汗を拭きながら語った所に寄れば、ある日僕の両親が面会を申し込んできたそうだ。
出来れば矢代興業の幹部と極秘に話したいというので時間を作って会ったらしい。
実は黒岩くんたちって僕の両親に一目置いている。
矢代興業の立ち上げの時に世話になったということで。
その後も事業が軌道に乗るまで色々と相談や支援を受けたらしい。
僕の両親って凄腕のコンサルタントらしいからね。
でも矢代興業が株式上場した辺りで僕の両親は手を引いたと聞いていたけど。
組織のトップの親が関わっていると碌な事にはならないということだったような。
「僕の親ってもう矢代興業には関わってないんじゃなかった?」
「公式にはですぅ。裏ではまだ相談に乗って貰ってますぅ」
信楽さんが言うんだから本当なんだろうな。
「それで?」
「大地殿のご両親のお話では、某所から非公式に申し込みがあったそうでございます」
「申し込みって僕の親に? 何で? ていうか何の申し込み?」
それは親の話なのでは。
「大地殿とのお見合いでございます。こういった事は対象者のご両親にお話を持ち込むということだそうで」
ああ、そういうことか。
つまり誰かが僕を見初め? て是非婿に欲しいと。
だから僕の両親に申し込んだわけで。
「いやいや! だって僕、両親からそんな話は聞いてないし!」
すると信楽さんが言った。
「矢代先輩ほどの方の結婚になるとぉ既にぃ個人や家族の問題ではなくなりますぅ。政治的なレベルですぅ」
「何なのそれ? だって結婚させられるのは僕でしょ?」
「いえまだそうと決まったわけでは」
「そういえばそうか」
つい錯乱してしまった。
とりあえず珈琲を飲む。
ちょっと落ち着いた。
言われてみればまだ何も決まってないし始まってすらいないよね。
少なくとも当事者の僕が知らない結婚とか有り得ない。
お見合いは……あるかも(泣)。
「お話を続けてよろしいでしょうか」
「うん。話の腰を折ってご免」
「無理ないですぅ。ただぁ最後まで聞いて欲しいですぅ」
信楽さんの進言(違)が怖い。
「ご両親のお話では一見何ということもない某家のお嬢様とのお見合いというか、一度会ってみて頂けないかという程度のものだったそうでございます。ですがお父上は何というか
「
「長年の経験による勘だとおっしゃっておられましたな。これは矢代家の問題に留まらないと。なのでご両親は私どもに調査を依頼されたわけで」
そうなの。
変だよね?
息子の見合い相手の調査なんか親父や母さんなら簡単だろうに。
だって二人とも凄腕のコンサルタントなんだよ。
調査にかけては超一流のはずだ。
もっともそれは企業関係に限っているのかもしれない。
個人や家の調査は苦手かも。
でもだったら矢代興業に調査を依頼するのはもっとおかしいよね。
矢代興業こそ企業専門でしょう。
「調査したの?」
「致しました。矢代警備の調査部門の総力をあげてあらゆる方向からダブルトリプルリサーチを重ねまして」
そこまでやる?
矢代警備って今や世界的に見ても有数の警備会社なんだよ。
全世界にネットワークを持ってるし実働戦力も凄い。
非合法的なお仕事にも関わっているという噂もあるくらいで。
とても一個人の見合い相手を調査するような会社じゃないのに。
(逆だ。矢代警備が出てこざるを得ない程の相手だったということだ)
まさか。
「結果は?」
聞いてしまった。
黒岩くんは珈琲で舌を湿らせてから言った。
「大地殿のご両親はさすがでございます。まさしく先方はただ者ではございませんでした」
やっぱし(泣)。
僕、矢代興業が警戒するような相手から狙われているのか。
「矢代先輩ぃ。とりあえず落ち着くですぅ」
信楽さんに言われて我に返る。
そうだ、まだ決まってない。
ていうかこの話が僕の所に持ち込まれたということは信楽さんが何とかしてくれる目処がたったということなのでは。
覚悟を決めろ大地!
「で、その相手って誰。いや何だったの?」
「まだ不明でございます」
ズッコケた。
「判らないって?」
「さようでございます。現在調査中で」
(気がつけ
判ってるって。
矢代興業にシッポを掴ませない相手だということだよね?
少なくとも矢代興業に匹敵する組織? なわけで。
嫌だなあ(泣)。
「大丈夫ですぅ」
信楽さんののほほんとした声が響いた。
「私ぃたちがついてますぅ。そう簡単にぃ矢代先輩をぉ餌食にしたりしないですぅ」
嬉しいけどその「餌食」って何のこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます