叫んで五月雨、金の雨。

おくとりょう

第0話 居間は今でもてんてこ舞い

 朝。


「だあぁーっ!くそっ、寝坊したっ!

 もう……っ!なんで目覚まし鳴らへんかったん?!」

 誰に言うでもなしに喚きながら、居間に飛び込み、灯りをつける。なぜかすぐにつかなくって、少しの間、僕は薄暗い部屋を見つめた。雨戸の閉まった白い部屋。四角い嵌め込み窓から朝の光が射し込んでいて、それは何だか穏やかに見えた。

 そのうち、パッと部屋の灯りがついた。無機質に照らす室内灯。同時に、ラジオから途切れ途切れのニュースが流れる。


 ――……本日は『』です。……ところにより……雨や青空が見られることでしょう。…傘と紫外線対策を…お忘れなきようお気をつけください……――


「……あ、今日か」

 窓ガラスに映った、寝ぼけっ面の僕と目が合った。

「そうか、そっか、そうやったかぁ。ふぅーん。……そうか。あーぁ、あーぁーかぁ」

 あの頃にはなかったシワやクマがあちこちに増えている。歳も想いも重ねた僕の顔は訳知りげにそう言った。それが少し嫌で、スーッと窓ガラスを開けた。

 ……固く閉まった金属の雨戸。その外から鳥のさえずりが聴こえてくる。思わずそっと触れてみた。冷たいそれは、埃っぽくて、なんだか少しザラザラしていた。戯れる小鳥はすぐ側にいる。そんな気がした。


「……っ」

 勢いよくガラガラガラっと雨戸を開ける。


 小鳥の姿は見当たらなかった。さえずる声は遠くに聴こえた。


「……。もう、朝ごはん食べる時間ないやんか」

 今度は静かに窓を閉めて、鞄を掴み、部屋を出た。……朝ごはんは途中で買おう。


 扉を閉めれば、灯りが消える。しんと静まり返ったその部屋はきっと外の光が薄く照らしている。……きっとそうなのだろうと思いながら、僕は玄関の鍵を閉めた。


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