第20話

 それから2週間が経った。ゴウはひとまずかつての同僚に連絡を取ってくれたらしい。相談したところ、今は使っていない型のロボットを丸ごと一体送ってくれるとのことだった。


 一方フウカは腕がなくても特に苦労していなさそうだ。元々の鉄パイプの腕はあんまり使っていなかったし、最近していることと言えば部署内をうろうろ歩き回るくらいなので、必要性を感じていなかったのかもしれない。


 けれど腕がなくなったことで、俺やみんなの気を引くために体でぶつかってくるのが少し厄介だった。石の体をわざわざぶつけられると痛い。何度もそう言い聞かせているのに、フウカは一向にやめない。つい数日前はナオヤにキレられていたというのに気にせず彼にもぶつかっていくのだから、随分図太い性格をしているようだ。


 フウカの身長に合わせてかがみ、彼女を叱っていると俺は何をしているのだろうという気持ちになる。まるで自分の子供のように叱っているこいつは、黒災から生まれた人外だ。面倒なら閉じ込めておけばいい。


 それなのに、そうできないのは『フウカオーラ』のせいなのか、もう2か月近く面倒を見ているせいで本当に愛着がわいているのかわからなかった。


 事務所内を走り回ってはふらふらと棚に体をぶつけるフウカを窘めていると、玄関のチャイムが鳴った。この島の人はめったにチャイムを鳴らさない。何かあれば勝手に入ってくる。何事かと向かえば、でかい段ボールを台車にのせた男性が立っていた。



「第八部隊の部署ってここで合ってます?」



 宅配業者という風体でもない、ラフな格好をした男の人は、何やら手元の端末と建物とを見比べている。



「はい、そうですけど」



「よかった! アニークスの者なんですけど、ゴウいます?」



 アニークスの人間で、ゴウの名前を知っているということは、おそらくこの台車に乗っているのが例のロボットなのだろう。俺は入口に立ったままゴウを呼ぶと、彼が事務所からひょっこりと顔を出した。



「お? おお、ツカサか! どうしたんだ、こんなところまで」



 ゴウは元仲間に会えたのが嬉しいのか、にこにこした顔で部屋から出てきた。



「ほんとだよ。さすがにこれ人に預けれないから、俺が自分で持ってきたの」



 ツカサと呼ばれた男性は、自分の隣に置いた段ボールを掌でばしばしと叩いた。台車に乗っている分高さがあるが、人の背丈ほどのサイズだ。


 アニークスの作る人型ロボットは、表情やその肌の質感が人間に近く見えるように作られている。公共の場所では駅などでよく見かけるが、普通の人間と見間違えてぎょっとすることも少なくない。



「ねえ、それなに?」



 いつの間にか出てきていたらしいフウカが俺の横をすり抜けて段ボールの前に立った。俺は慌てて彼女を抱き上げるが、もう遅かった。ツカサが目を見開いてフウカのことを凝視している。



「それが、言ってたアレ?」



 ツカサはフウカを指さし、ゴウにそう尋ねた。ゴウが頷くと、ツカサはまたフウカをじろじろと観察する。



「はー、これが黒災から出てきた、ねえ。こんな見た目なのに怖いと思わないのが怖いわ」



 ツカサもやはり、フウカに嫌悪感を抱かなかったらしい。フウカは俺に大人しく抱かれたまま、ツカサの方を見ているらしかった。



「まあでも、サイズは同じくらいかな。本当にちょうどいいと思うよ」



 ツカサはそう言うと、台車をごろごろと押して部署の中へと入った。通常中には関係者以外入れてはいけないが、この島では島民も普通に入ってくるし、見られて困るものも多くない。今更誰も気にしないだろう。


 ツカサとゴウが段ボールを抱えて床に下ろすと、どすんと鈍い音がした。ツカサはゴウに説明書らしき紙を渡し、事務所を出て行く。



「せっかく会えたし、てかわざわざこんなとこまで来たんだからもうちょっといたかったけど、残念ながら仕事があるんだよね。じゃあゴウ、後はよろしく。なんかあったら連絡して」



 そう言って手をひらひらと振ったツカサの後をゴウは着いていき、また2、3言葉を交わして彼は帰っていった。



 後に残された段ボールを5人で囲む。そろそろとテープをはがして、蓋を開いた。

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