第5話 時は流れ、君は美しい 数島大陸

『おいしい格闘技』

第二回 数島大陸

『時は流れ、きみはうつくしい』




2022年1月16日、グローブ空手の全日本大会が行われた。

及川道場に通う小学4年生の大城秀馬は2回目の出場だ。

会場に向かう車のなかで爆睡している秀馬の姿を、インスタのストーリーで見た数島大陸は秀馬に、いった。

「車のなかで寝っとたやろ!めっちゃ寝起きの顔やん!大物やな!」

大陸の言葉で、秀馬は緊張がほぐれたという。



2022年1月22日

RISE154の公開計量と会見が行われた

会見時数島は、いった。

「フライ級で'倒せる選手'はぼくしかいないので僕以外ありえない」

「RISEさんにベルトをつくってもらって、ぼくがベルトを巻くと言い切ります」

真っ直ぐに見つめた凛とした表情が

強い意志を感じさせた


翌日のRISE154後楽園大会

対戦相手はRISE初参戦となる空龍

数島の持ち味であるスピードと

多彩な蹴りとパンチを出させずに

空龍がフルマークの判定勝利をかざった。


数島はプロになって初の敗北を味わうこととなった。



大会前

わたしは数島大陸の父、数島学さんと話をさせてもらう機会があった

学さんは、いう。

「(及川道場に)入った頃、試合は負けてばかりでしたよ。その頃にはもう渚海もこゆるも強かったですね」

わたしは、訊いた。

「大陸選手は、悔しかったんじゃないですか?」

学さんは目を細めていった

「悔しい気持ちもあったと思いますけど練習が好きでねえ。あと、あいつはほんまに及川先生のことが大好きなんですよ」

「趣味が練習ですよ」

と笑う。


父、数島学の話を聞いたときに

2021年8月におこなわれたRISE_EVOLでの

及川知浩の言葉を思い出した。

「あいつはほんまに空手がだいすきなんですよ」


数島大陸は、5歳で及川道場に入門した。

近所にたまたまあったから、が理由だ。

1ヶ月か2ヶ月くらいの違いで現在RISEの55キロで活躍している有井渚海や現在修斗ストロー級ランカーで中蔵隆志さんが代表をつとめるBLOWS所属の田上こゆるが、いた。

ほぼ同期で年齢も近い3人はすぐに仲良くなった。

その頃の話を田上こゆるに訊いた。

こゆるは、いう。

「なんでも率先していく印象がありますね」

同じく及川道場で先にデビューし無敗が続いていた有井渚海は、いう。

「キッズの頃は自分もそうだったけど大陸も弱かったです。お互いに気持ちも弱かった」

と優しく笑う。


1月23日

フライ級を引っ張ると宣言していた数島は惜敗した。

わたしはこの日の夜

試合のことに想いを巡らせ

なかなか眠れなかった。

ふと、及川知浩の言葉が浮かんだ。

「大陸は努力の天才」


有井渚海は、いう。

「アマでも負けはあったんですがだんだん勝ち越すようになったんです。プロになってからは'強い'て印象です」

続けて、渚海はいった。

「大陸はめちゃくちゃ努力家で尊敬してます。お互いに高めあえる存在なんです」


田上こゆるに話をうかがっていると、ふと思い出したかのように、いった。

「そういえば‥」

「地元の友達たちと大陸とお祭りの時に集まったんです。そのとき、軽くボクシングをやったんですよ」

こゆるは、つづける

「大陸のワンツーをもらって人生で初めてフラッシュダウンして尻もちつきました」

と笑う。

その時、こゆるはプロ修斗でデビューした頃だ。まだプロデビューしていなかった大陸に遊びとはいえフラッシュダウンされ、思ったという。

「やっぱり努力は報われるんやな、と。大陸がデビューしてからの飛躍の仕方もちゃいますし自分自身が大陸の試合をめっちゃ楽しみにして観ています」


及川道場に通う小学4年生の大城秀馬は

Abemaで空龍との試合を観た。

大陸が判定で負けた瞬間、泣きじゃくった。

が、秀馬は大陸の試合を通してプロの世界の厳しさも感じたという。

秀馬は、いう。

「ぼくにとって大陸くんは、強くて優しくて憧れのお兄ちゃんです」


数島大陸のことだ

プロで初の敗北を味わい

あらためて己の弱さを感じたであろう

試合後、大陸はいった。

「自分のパンチを過信していました」

「この負けが最後です。必ずフライ級のベルトを巻きます」


いつのまにか大陸が及川道場に入って

14年間の時が過ぎた。

多くのキッズたちが大陸や渚海たちのことを

憧れと尊敬の眼差しで見ている


キッズたちだけではない。

数島大陸のことですぐに思い出す光景がある

2021年8月のRISE EVOL

勝利を飾った大陸は会場の新宿FACE下広場で多くの大人たちに囲まれていた。

父親の学さんや大阪から大陸を応援しに来た学さんの古くからの友人たちだ。

大陸は、みんなに丁寧にお辞儀して今後の目標を話していた。

まっすぐ真面目に、少し照れながら。

わたしはその大陸の表情を見て

彼が発する言葉の一つ一つを聞いて

心のうつくしさが大陸を強くしているんだな、と感じた。

そのうつくしさこそ、真の強さであることを証明してほしい


及川知浩は、いう。

「大陸は競技に対して真摯で真っ直ぐなんです。周りに色々なことを分け与えてることができるやつなんです」

及川は嬉しそうに、いった。

「あいつは僕なんかより立派なやつですよ」


1月23日があったから。

数島大陸はベルトを巻くまで、もう涙を流さない。


龍栄武館・及川道場

数島大陸



『おいしい格闘技』とは


1982年糸井重里氏は、衣食住だけではなく、ステキな物や心、文化を豊かにする生活を提案した。

それが『おいしい生活』


2020年、コロナが蔓延り私たちの生活は一変した。

いま、だからこそ心と、身体と、生活を豊かにする格闘技に目を向けてみてはどうでしょうか

『おいしい格闘技』はそんな気持ちから始まりました。


【プロフィール】

名前:まよいマイマイ

人生フリーランス。幼少期に猪木に出会い青春時代は週プロで育った気持ちはプロレスラー。

こちらでは格闘家の前に人間としての魅力をお伝えできたらと思い、彼ら彼女たちの日々を見つめていきます

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