第22話 室長三葉

「一体これは何事だ!」


 主たる指示を出す隊長を一人失った混乱した現場に新たな人物が帰還した。


 それを見た白衣の男たちは青ざめながらその男に駆け寄り、早口で現状を報告する。


「三葉室長! 申し訳ございません。本日早朝、侵入者により施設を破壊されました。それに乗じて捕らえていた実験体たちも逃走。どうにか貴重な者どもだけでも捕らえようとするも、SN-001に妨害をされ、逃走されてしまいました。本当に申し訳ございません!」


 報告をした部下は腰のあたりから体を直角に曲げて頭を下げたまま三葉の顔を見ることができない。


「SN-001か。あいつは誰よりも強い。いつか逃げられていただろう。それが今だっただけだ。データも取れているし、まあいいだろう。それで? 奴らはどうした」


「そ、それがSN-002とWI-001も、妨害してきた奴に連れ去られてしまい、まし、た……」


 報告する白衣の男はこれから何を答えても殺されるんじゃないかと冷や汗が止まらなかった。


 施設は派手に爆破され、捕らえていた者たちのほとんどは逃げ出した。爆破されたということは今までの記録も、研究用の機器も、集められていた文献も、そのほとんどを失ったということだ。


 報告できることなど、悪い知らせしかない。


「へえ。随分と派手にやってくれたな。犯人はおそらく僕の知り合いだろうな。それにSN-001もいる。奴らはどこへ向かった」


「あちらの方角に」


 三葉は白衣の男たちが思っているほど怒りをむき出しにはしていなかった。ただ、声から怒りが滲み出ているのはわかる。


「やはり南下の道を選ぶか。誰か地図を持って来い。これから奴らの目的地と辿るであろう道順を説明する!」


「地図も全部燃えました!」


「じゃあいい感じの枝持ってこい! 地面に直接書く」


 枝はすぐに準備され、室長の三葉は簡単な地図を書いた。


「奴らの指令役はおそらくSN-001だ。奴が知っていておそらく一番安全なのはここ。染井集落だ」


 三葉は細長い地図の西と東の境目よりも少し東よりのある地点を丸で囲んだ。


「子供を連れて逃げているなら尚更、僕たちへの復讐は後にしてとにかく子供を安全な場所に連れていくだろう」


「随分とお詳しいのですね」

 

「前の戦争でな」


 三葉は茶色い癖のある髪の毛に手を突っ込んでワシワシと頭をかいた。


「ああ腹が立つ。あいつを捕まえるのにどれだけの犠牲を払って、どれだけの苦労をしたか。いいかお前ら。今から闇雲に探しても奴らは逃げ切るだろう。染井集落に行くには必ず通らなければならない森がある。だからそこを狙え。仮にそれまでに見つけたとしても手は出すな。集団を離脱する奴らもだ。監視に留め、できるだけどこにいるか情報を集めろ! 捕獲の最優先は藤宮だ。そのほかはついででいい。指揮は紫苑がとれ」


「あの、あの方なら退職届を置いてどこかへ行ってしまわれました」


 紫苑の元部下が受け取っていた退職届をおずおずとさしだす。


 三葉はそれを奪い取り、雑に封を開け内容に目を通す。


「チッ。勝手なことしやがってあのクソキツネ。じゃあ他の奴がやれ。僕は研究しかしてないから軍の序列は知らん」


「了解しました。必ずや連れ戻して見せましょう」

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