第2話

家に帰宅し、リビングのソファに少女を座らせる。

そこで改めて考えてみた。

俺は少女を拾ってしまった。

別の言い方をすれば、俺は少女を誘拐したことになる。

いや、今の法律は変わっているはずだ。なぜかというと、今の世界は能力持ちの人間ばかり。

俺のような一般人は消されている。

どうして能力持ちの人間だけにしたいのか、まったく理解できなかった。

能力を持っていないとバレれば殺しにかかる。まったく理不尽すぎるのではないか。


「あの、お兄さん?」


とそこで、白髪少女が顔を上げてこちらを見る。


「ん?どうした?」

「私、ここ数日ご飯を食べてなくて……あの、ずうずうしいって思われるかもしれないけど、なにか食べたいです……」


少女はそう言って、たしかにお腹が鳴る音が聞こえた。


「うん、いいけど……何かあったかな」


俺は冷蔵庫の方に行き扉を開ける。

……しまったな、今日なにか買ってこようと思ってたのに、追いかけられる羽目になったからな。

冷蔵庫の中を見てみると、あいにくおいしそうなものは入っていない。

時計を見てみると、午後の7時ぐらい。

何か買ってこようと思えば買えるが……さすがに少女を家の中に一人でいさせるのはなぁ。

冷凍庫ならなにかあったかもと思い、冷凍庫を開けると……たしかになにかはある。

だけど、ほんとにこれ出していいのかな。

正直言うとこれ、昨日俺がなんとなくで作った肉料理なんだけど……。

なんか肉と野菜をごちゃまぜにしたものっていうさ。

とりあえず少女に聞いてみる。


「あのさ、なんか食べれないものとかない?」

「あ、別にないです」

「今冷凍庫の中見てみたんだけど、あいにくこれしかなかったんだ」

「大丈夫ですよ。私、基本的になんでも食べますから」

「そう。それはよかった」


とりあえず食べてもらえることになったので、レンジで温め少女に渡す。


「はいどうぞ。口に合わないかもしれないけど……」

「どうしてですか?」

「いやその、昨日なんとなくで作ったからさ。肉と野菜をごちゃごちゃにした料理だから……」

「ふふっ、見た目はどうであれ、大事なのは味です。だから、気にしなくていいんですよ」


そう言って、右手で箸を持ち肉と野菜をつかんで口の中へ。


「……どうかな?」

「ん、おいしいです。とっても」


にこっと笑ってそう言ってくれた。

その笑顔はとてつもなくかわいいもので、俺の心を射抜いた。


「そういえば君の名前は?」


そうそう、少女の名前を聞いていなかった。


「高橋 亜夢です。時間停止、擬態する力と言った能力を持ってます」


……うん?時間停止?


「お兄さんは?」


かわいい顔でそう言ってくるが、俺は能力といったものを持っていない。

能力を持っていないバレたら殺されるはずだ。

だけど……亜夢だったら大丈夫な気がする。


「えーと、斎藤 樹だよ。能力は……言わなきゃダメ?」

「言ってもらわないと、どういう人かが分からないです」

「能力は…………ごめん、無いんだ」

「能力がないんですか?」


今まで食べていた肉料理の皿を机に置き、しばし俺をじっと見る。


「なるほど……ということは、一世紀前の人間ということですね」


と、冷たいような声でそう言われた。



「一世紀前?いやいや、そんな経ってないはずだけど……」

「樹さんのような、能力を持っていない人間は、もうこの世にはほぼ存在してません。普通は、能力を持つために努力をするか、殺されるかのどっちかです」

「どうして能力持ちじゃない人間を殺すんだ?」

「そうですねぇ、人それぞれれ考え方は違いますが……能力を持っていないというのは、法律上許されないことなんですよ。今の法律というのは、何かしらの能力を持たないと殺されるんです。普通殺しに来るのは、そういう法律のことをよく知る人しかいません。一世紀前だったら、警察とかですね」


ということは、俺を殺そうとしてきた人っていうのは、警察ということなのか。

……待て待て、俺は警察の家に行ったということになるのか?


「何か思い当たることがありますか?」

「ああ、少し前に、なぜか一般人だからって言って殺されそうになんだ」

「それはそれは……多分警察の人だったかもしれません」

「なるほどね……てことは、亜夢は俺のことを殺さないってこと?」

「はい。一般人だからって殺しはしません。ただ、街中でそれがバレれば……ふふっ」


最後に意味深な笑い方をして、再び肉料理に手を付けた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る