第18話 リップの叫び
窓にイスが直撃した瞬間、ドンと重い鈍い音を立てたが、それはガラスが割れるそれとは違っていた。
私の一撃は窓ガラス貫いた訳ではなく、ガラスの厚い壁に弾きかえされ、私は後方に倒れこんでしまった。
「いたた」
私は尻餅をついて、打った腰をやさしくさすった。
「これただのガラスじゃないわね。全然びくともしないもの」
「あの店主こういう所にはお金かけるんだから」
私は立ち上がり窓から外の様子を伺ったが人が通りすがる様子もない。
同じカルーモ村なのに西地区ではこんなにも違うなんて、中央広間の酔っ払い達はいつ家に帰ってるんだか。まぁ座って飲み食いするくらいだから、そのまま潰れて寝てても不思議じゃないな。
「民家の明かりは消えてる。みんな寝てるんだ」
「かぷぷー」
リップが今度は窓に向かって叫ぶことを提案した。試したみたものの外の様子に特に変化はなかった。
私は手の甲で軽く窓を叩いてみる。これだけ厚みのある窓だ、きっとこちらも防音加工が施されているのだろう。
「リップだめだよ。どんなに叫んでも私たちの声は外には聞こえない」
リップは私の声が小さいからいけないんだという。
「私だって必死で声出してるよ、これ以上は無理よ」
「ブーブー」リップは不服そうだ。
「そんなにいうのなら、リップに叫んでもらおうかしら」
私は窓の前に椅子もっていき、リップを抱きかかえそこにおいた。
リップが体を上下に動かし深呼吸をはじめた。ほっぺには相変わらず食物が溜まっていた。見かねた私はーー
「リップ口にあるものを飲み込んでからやりなさい。口の中の物が飛び出すのが目に浮かぶわ」
「ククプー」
リップは『平気、口から飛び出すことはない』と言った。なんでもリップが言うには非常食だそうだ。
もう勝手にやったらいい。口から出したらまた叱ってやるんだから。
「さてお手並み拝見だわ」
リップは深呼吸をおえると、前屈みになり口をめいいっぱいあけた。
そしてーー
「キーーーー!!」
あたり一帯にリップの叫びが瞬く間に貫いていった。
私は自分でも気付かないうちに反射的に耳を塞ぎ、その場にうずくまった。
しかしリップの叫びがその程度で凌ぎ切れる程甘くはなかった。
それは叫びというより、高周波の超音波のようで、あたりの物体および窓ガラスがリップの叫びに反応してこぎざみに振動している。
私は身の危険を感じ、すかさずリップにコンタクトとる。
「リップ、ストップ」
何度も必死で叫んだが、むなしくもすぐに叫びにかきけされ、リップの元まで言葉が届かない。
私は最後の力をふりしぼりリップの乗る椅子を足で蹴っ飛ばした。
椅子が倒れリップは地面に叩きつけられ、ようやく音はおさまった。
それでもまだ頭の中で耳鳴りがガンガンと響かせ、立ちあがるのさえままならなかった。
それは同じ建物にいる店主も同じであった。
「ん?今の?姉貴も聞こえた?」
捜索中のジョセがリップの叫びに反応して声をあげた。
「ええ、東地区の住宅街の方からだわ」
「急ごう」
ジョセとカトリーヌさんは駆ける足を早めた。
宿屋では一階でうなだれた店主がようやく意識を取り戻しはじめた。
「くー、あの女一体なにしやがった。あれだけの音を」
ふらつく足で立ち上がると、タンスから猟銃をとりだし、二階の私達のいる部屋へと近づいていった。
「おいお前、今何をしやがった。その部屋から逃げ出せると思うなよ」
店主の叫び声が聞こえ、私とリップはあたふたしはじめた。
店主の声が聞こえるように玄関の扉のみは防音という訳ではなさそうだ。
「どうしよリップ。奴がこっちにくるよ」
「どうやら少しばかりお仕置きが必要なようだな」
すると店主が猟銃の銃口を上にむけ、引きがえを引いた。
「どん」と大きな銃声を響かせ、店主がニヤリと笑う。銃声は空砲ではあったが、部屋にいる私達を脅すには充分だった。
その銃声音に驚きリップは両頬に詰めていた食べ物を一斉に飲み込んでしまった。食べ物が喉に詰まり急速にリップの顔が青ざめる。リップは窒息の危険を感じ残された制限時間の中、リュックに向かって走りだし、中からおもむろに一升瓶を取り出し蓋をあけぐびぐびと飲み干した。
「リップあなた一体何飲んだのよ」
私はリップ駆け寄り、彼の肩を持ち体を揺さぶった。息をしてることから、どうやら喉の詰まりは解消されたものの、瓶のラベルを確認するとそれは焼酎瓶だった。
みるみる内にリップの頬は赤くなり目が虚ろになってゆく。
「えっ、うそうそ」
店主は猟銃に銃弾をつめながら、どんどん私達の部屋へ一歩一歩距離をつめていく。
「リップったらこんな時に。しっかりなさい、お酒を吐き出すの」
私は強めにリップの体を前後に揺らした。
ガチャガチャと扉から音が聞こえてきた。奴がきたんだ。
「おとなしくしとけ、今開けてやるからな」
店主の手にある、キーホルダーの鉄輪っかには複数の鍵がついており、店主はシラミ潰し鍵を鍵穴に押し当てていく。
「リップ頼むから目を覚まして」
ガチャガチャ聞こえる音をきき、私は藁にもすがる気持ちで何度もそのまん丸の体を揺らしていると、リップが吐き気をよもおしたのか、一瞬リップのほっぺが膨らんだ。
「ゲっ!?」
私は自分にかかると思いリップを180°回転させた。
するとリップが口から吐き出したものは真赤な炎だった。ポルンさんのものと比べるとまだまだ小さいが これならなんとかなるかも。
私はガラス窓へと向かいそこにリップの炎を押し当てた。すると私の見立て通りガラスは、みるみるうちに煙を上げ溶けていくではないか。
「リップその調子で頑張って」
一筋の光がみえ、声にも元気が戻りはじめた。
窓には大きな穴がぽっこりと開き、小柄な私程度ならなんとか通れるかもしれない。
ガチャ。
そんな事を思っているとあろうことが扉が解錠されれる音が聞こえた。
その瞬間空間がスローモーションに感じた扉が開きはじめる。
考えるんだ私この瞬間の打開策を。
頭では分かっていても、頭が真っ白になって思考停止してしまっている。するとそれを助けるかのように私の❨頼れる相棒❩が私の腕を使み折り畳まれた翼を広げた。
「嘘でしょ」
「キャーー」
私は気づけば窓の丸いアーチをくぐり、空一面に広がる星空の元に飛び出していた……のははじめだけでリップは私の体重を支えきれず、すぐ下の草の茂みへおちてしまった。
私はみっともなく頭から茂みにつきささり、足のみが緑の隙間から顔をだしていた。
ジェットコースターのような衝撃と落下の衝撃で私は意識をなくしていた。
リップがなんとか自力で茂みから這い上がった。
店主は二階窓から私達の姿を見つけると、逃げられると思ったのか、大急ぎでこちらに向かって走り出した。
リップが必死に服を口でひっぱり私をおこそうとしてくれている。そうしてる内にとうとう店主が私達の元にたどり着いてしまった。
リップが両腕を開いて店主の前に立ちはだかる。
「なんだこいつは」
店主が銃口をリップに向ける。しかし引き金を引く前にーー
「キーーーー!!」
リップが本日二度目の奇声をあげた。
「まただ、近いぞ。音の出掛かりはどこだ」
音がでかすぎるが故にジョセは正確な位置がつかめずにいた。
そこに見慣れたシルエットが彼女を横切った。
「ポルン」
「流石の地獄耳だぜ。嗅ぎ付けてきたな」
「ポルンお前正確な位置は分かるか?」
「ぷふぉ、ぷふぉ」
ポルンさんがその方角に指をさした。
「オーライだ。座標さえわかっちまえば後は私が一番乗りだ」
ジョセは俊敏な動きで瞬くに二人を置いていくかのごとく走り抜けていった。
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