第10話 旅支度
「くっくわー」
リップは母親に会えるとあって、元気にはしゃいでみせた。その姿を見て私も自然に笑顔がこぼれた。
「よし」
大きく一呼吸し、両の手でほっぺをパチンと叩いた。
「そうと決まれば早く旅支度を済ませよう」
私ははじめに、使えそうなものが沢山ありそうな、押し入れを探すことにした。
押入れの扉を開くと、中にはびっしりと物でうめつくされており、無造作に積まれたそれは、お世辞にも綺麗とはいえない。
上まで積まれたそれを見上げ、私は呆然とたちすくしてしまった。私がしたことではあるがなんだか圧倒されてしまって。
はて見なかった事にして、このまま封印すべきか……
「やるか」
そんな訳にはいかず、私は腹を括り作業に取り掛かった。下手に途中から手をつけては、たちまちくずれてしまいそうなので、私は椅子をもっていき、順に物を下ろしていくことにした。
使えそうなものは左後ろへ、必要ないものは右後ろへ置くことにした。
はじめこそ時間がかかってしまったが、自分の目線の高さより下になるとペースも上がり、押入れの外には物が重なり小さな山ができはじめた。しかしそれは右側に仕分けたもので、無論喜ばしいことではない。
こんなにものがあればすんなり出てくると踏んでいたが、現実は甘くない。
「先が思いやられるな」
幸先の悪いスタートとなってしまったが、めげずに手を動かしているとついに私の目を引く第一号が現れた。
「リップどうかな、コレ?」
私は大喜びに青いリュックをかがけリップに言った。
「クークー(小さい、小さい)」
リップの言葉に私は心が折れそうになった。
「だよね。これじゃ食料とかまるで入らないし。それにいざという時にはリップが隠れられるくらいの大きさじゃなきゃ」
私は正当な理由をつけ、出来るだけ前向きに自己完結させた。
というわけでこちらも右側へーー。
「んーやっぱり保留」
右側におきかけたがリュックを左側に置いた。
私は押し入れを更にくまなく探してみるも、出てくるものはどれもこれも旅のたの文字もでてこないような物ばかり。
そのほとんどが私が幼少期に使っていたもので、クレヨンや画材セット、発表会に書いた絵や作文。極めつけにはコンクールで取った賞も出てきた。
「リップ私昔絵かきに憧れてたんだよね。絵もそこそこのうまかったし」
「ほらこれこれ」
私は自分の描いた絵をリップにみせた。
「くぷー」
リップが食い入るようにみている関心を持ってくれたみたいだ。いやただお腹が空いてただけかも。だってリップが好きなりんごやバナナ等の果物の絵だもの。
「でも学年が上がった時に上手い子がいてね。その子の絵を見た時に敵わないなって思っちゃったんだよね」
「それ以来絵を描くのをやめちゃった。あの時やめずに描きつづけていたらよかったのに、って時々思うんだけど、その度にやっぱり私には無理だって思った」
「もちろん彼女との力の差は歴然だったわ。でも才能の問題じゃない。それ以前の問題、私には絵に対してそこまでの情熱がなかったのよ。私は周りに褒められて自分の絵にも満足してたし、それでもう十分だったの。でも彼女は評価は自分で下すものだって、周りに絵に詳しい人がいないんですもの。彼女は素人に評価された所でなんとも思わないって言ってた。彼女はいつも自分と戦ってたの。自分のつくり出すイメージにどれだけ寄せられるか」
「格が違うよね。まったく私の趣味をかえしおくれよ」
「てっいけない、いけない。こんなところで思い出に浸ってる場合じゃなかった。作業を進めなきゃ」
リップに目をやると鼻提灯をつくり私の絵をベッドがわりに寝ていた。
「まっいっか、寝る子は育つっていうし、これから長旅になるんだから今のうちに寝かせてあげよう」
私は手に持っていた絵を右側置き作業に戻った。
「よいっしょ、よいっしょ、よいっしょ」
私は作業を効率よく進めるために掛け声とともにリズミカルに物をしわけていった。
はじめは楽しくできていたのだけど、ものの5分で、掛け声のはりはなくなり、それに比例するかのように動きも鈍くなっていった。
10分後にはとうとう無言になっていた。時計を見てまだ10分しかたってないことに驚く。
「辛い。私単調作業苦手かも」
それでもやらなきゃいつになっても出発できない。無理にやる気をつけようとせずモクモクと確実に作業を進めることにした。
実に退屈である。定期的に必要なものが出てくれれば、めりはりが着いてやりやすいものだが、こうも出てこないと動きが機械的になって退屈だ。
私の頭の中で雑念がぽこぽことシャボン玉が浮かぶように湧いて出てくる。
良くこれ程まで溜め込んだものだ、自分でも感心する。
そう溜め込むといえばーー雑念がまた一つ。
お母さんもそうだ、前にお母さんの部屋に入った時、クローゼットを覗くと服がずらーと並んでおり、それも同じような服が何枚も。お母さんは違いがあるといって譲らなかったが、私の目にはどれも似たようなものにしか見えなかった。
お母さんの変なくせが私にも移っちゃったのかな?まぁ私の場合は部屋の掃除の際、押入れに押し込んでしまうくせがあるから、気づいたらこんなに事になってしまっている。
お母さんに捨てればいいでしょ?なんて言われた事もあったけど、なんか思い出が詰まったものって中々捨てずらくって。
その後も煩悩との戦いは続き、大分遠回りになってしまったが、ついに報われる時がきた。
「あったー、これならいいでしょ。食料から何まで入るよ」
私は旅行用の黄色いリュックサックを高々と掲げ喜んだ。その頃にはリップも目を覚ましており、リップも気持ちを分かち合いたいようで私の胸元にとびこんできた。
「リップったら甘えん坊なんだから、ほーら高い高い」
「はははは」
リップを高らかにあげその場でくるりとまわった。
「ほらここに入ってごらん」
私はリュックの口を開き、リップ入るよう促した。するとリップは少し躊躇しながら悲しそうな声で鳴いた。暗くて狭い所が恐いのかな?はじめてリップにあった場所、あの暗い洞窟に一人取り残された事がトラウマになってるのかもしれない。
「大丈夫閉じ込めりしないから。私がついてるから」
私が手を指し述べるとリップは、恐る恐ると私の手に捕まり、私はゆっくりとリップをリュックの中へ導いた。
「ほらこれなら全然苦しくないでしょ、知らない人がきたらすぐ頭を引っ込めるのよ。少し練習してみようか」
リップはリュックの口から顔を覗かせ、もぐら叩きの要領で私が振り返る度に顔をリュックに沈めた。
「ほらもう一回」
結局押し入れから出てきたものは、このリュックと懐中電灯、替えの衣類等、雨合羽そして折りたたみ式の簡易のテントも見つかった。
お母さんとお父さんはまだ起きてるから、出発は二人が寝静まる1時に予定しておく。
時間に余裕があったので他に何が必要か考え、紙に書き出すことにした。家にないもので必要なものはお金をだして買うしかない。
「あっ替えの電池も必要ね」
コンコン
ノックの音がきこえ、扉腰に声が聞こえた。
「アサ起きてる?」
声の持ち主はお母さんだ。
「うん、まだ起きてるよ」
いつもならここでお母さんはドアを開ける所だが、今日は鍵を閉めてるのでお母さんは入ってこれない。喧嘩をした時によくあることなのでお母さんも特には疑ってこないだろう。
「お母さんさっきは少しきつく言いすぎたわ。あなたの気持ちは痛いほどわかる。リップをあれほど可愛がってたんだもの。でもお父さんの言ってることもわかって、お父さんも辛いのよ。後はリップの力を信じましょう」
「うん分かってるよ。リップもたくましく育ったものね。ちゃんと連れていくから心配しないで、明日朝早いからもう寝るよ」
「うん、わかった」
お母さんは安心したようだった。でも私は嘘を着いてる、明日お母さんの悲しむ姿考えるとと悲しい気持ちになった。
「おやすみアサ愛してるわ」
「私も」
その言葉が余計に私の心に突き刺さり心が苦しくなった。
お母さんの足音が聞こえ、部屋に戻っていったようだ
私はメモ書きに目を移し続きを書きはじめようとしたが途中で指をとめた。
隣の空白のページをみつめ、ペンをそちらに移し、ペンをはしらせた。
お母さん嘘ついてごめんなさい。私はリップのお母さんを探しにいこうとおもいます。
王都の龍の騒動を納めるためにも、こうするのが1番だと思う。数日間家を空けることになりますがどうかまがままの娘を許して下さい。
お母さん、お父さん愛してる。お父さんどうか私を探さないでください。
「よしっと」
私はそのページを切り下りリュックに入れた。
「後は………お金」
私は机の引き出しからがまぐちの小さな財布を手に取った。軽く振ってみると、小銭のチャリンチャリンという音が聞こえた。
これでもお母さんのもらったおこずかいはこつこつ貯めていた。
小銭ばかりで細かいがざっと3万ミラくらいはあるだろう。
それと私は棚の上にあった豚の貯金箱ももしものために持っていくことにした。
これで私の部屋から持っていくもの全て持てたと思う。後はもう少し夜が更けるのを待とう。私は目覚ましをセットし、わずかながらだが仮眠をとることにした。
目覚ましがなり、私は目をあけた。疲れをとるつもりで寝たがひどく目覚めは悪い。真っ先に顔を洗いたかったが大きな音を出してはお母さんが起きてしまう。
「次は食料品、リップ一階に下りるよ」
私はリップを肩にのせ台所に向かった。日持ちのする缶詰と乾物を少々拝借し、それと歯ブラシ、はし、コップ、乾電池、その他消耗品。
「こんなものかな」
私はメモに書きを一通り目を通し忘れ物がないことを確認すると玄関に向かった。
「よし、いこっかリップ」
すると玄関に進もうとする私をリップは髪を引っ張って制止した「クークー」忘れてるリップはそういった。
「あーそうだ忘れてた」
私はバッグからお父さんとお母さん向けた手紙を机に置いた。
「お母さん、お父さんいってきます」
私はリップにも届かないくらい小さな声で言った。
そして開いた扉をゆっくり閉めた。
外は涼しく天気も良好だ星空を見る限り明日晴れだろう。不謹慎かもしれない私は少しワクワクしていた。
「リップこれからお母さんを探す旅に出るけど、一つだけ約束して」
「くあ?」
「どんなときでも勝手に私から離れちゃだめだからね」
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