第9話 揺れる心
お昼に起きた出来事はお母さんがお父さんに説明してくれた。
いつもの楽しい夕食とは違く、空気が重たく感じられた。
薄々感じてはいた。リップをこのままかくまうのは限界だろう。
私は重たくのしかかる空気を振り払うよう立ち上がった。
「お母さん、お父さん私リップの親を探しにいこうと思うの」
「だめだわ、そんなの危険よ。そういう仕事は政府の人に任せればいいの」
「龍が都心に現れたのもきっと母親がリップを探しててるからだわ。そんなに遠くにはいってないはず」
「だめ、お母さんそれだけは許しません」
黙りこんでいたお父さんがようやく重い口を開いた。
「アサ、もうこの問題は子供の手に負えるものじゃない。明日その龍をもといた穴蔵に帰しなさい。お前は出来るだけのことをしたんだ。これ以上のことは我々の生活にも関わる」
「お父さん」
「アサお父さんに従いなさい。明日の朝1番にリップを連れていきなさい」
「お母さんまで」
「今ここで約束して」
「分かったわ……ご馳走さま」
私は爆発しそうな感情をこらえ、自分の部屋にかけていった。
「くあ」
扉を開くとリップは起きており、驚いた様子でこちらを見やった。
私は部屋に入るなり、一直線にベッドに飛び込んだ。体が小刻みに震える、でも声は押し殺した。それでも涙は溢れるばかりだ。
昔お婆ちゃんが言っていた。泣きたい時に泣きなさいと、泣かないことが強いことじゃないと。1番辛い時期に泣くのを我慢してた私にお婆ちゃんは優しく抱きしめて言ってくれた。私はその時泣くしかなかったのだ。
そして泣き終えた後、お婆ちゃんの言ったことがなんとなく分かった気がした。
泣き終えた私の心は、モヤモヤしたものからスッキリと澄んでいて、物事を冷静に、そして客観的に考えられた。
そして自分がいかにその場の感情に流されていたのか理解できた。
我慢することなんてない、恥ずかしいなら一人で泣けばいい。人はそのために泣けるんだから。
私は泣きながら今は亡き祖母を思いだし、さらに涙が込み上げてきた。
見かねたリップは枕元からぺたぺたと私に寄ってきた。私の耳元に近づくと小さくつぶやき、私の頭をぺたぺたと叩いた。
「大丈夫、大丈夫」そう言っているようだった。
私は目を手で拭いリップに笑ってみせる。
「ごめんね、気をつかわせて」
「くあ?」
「ううん、大丈夫私は平気よ」
私は窓をあけた。外から涼しい風が流れ込み、私の肩まで伸びた髪を揺らした。
「あなたがここから私を呼んだのよ覚えてる?」
「くあ」
「そうよね、二週間前のことだものね。でも私はなんだか懐かしく思うの。それだけあなたとの日々が充実してた証だわ、これからもそうしたかった……」
「くあ?」
リップに答えを返してあげれなかった。
お母さんに許してもらえなかった。家族を1番に考えるお母さんだから反対されるとは思ってた。
お父さんの言ったこともごもっともだ。子供のやることじゃない。でも大人達はリップを助けてはくれない。ただでさえ都心で騒ぎになっているんだ。きっとリップのことを怪物にしか見れないだろう。
「リップごめんね、私今自分がどうしたらいいかわからないの」
私は俯き泣きだしそうな声で言った。
「くあ」
リップはそういうと机に並んだ本を次々に蹴落としていった。
俯く私の暗い視界の中でドサ、ドサと本の落ちる音を耳で感じ、私は慌ててリップを止めた。
「リップどうしたっていうのよ」
動揺した私にリップはそっと腕を前に差し出した。
視線を向けるとその先には開きかけの赤い本がある。
すぐに分かった、その本が龍の記された本だと。
リップが促すので私は本を手にとった。私にみせたいものでもあるのだろうか?
「くあ」
「お母さん?リップこの中にお母さんがいるのね」
私は隣町でみた写真を今でもはっきり覚えてる。そしてこの本にそれに酷似した龍が写っていた。
私はすぐさま、そのページを見つけてリップに確認をとる。
「くあくあくあ」
リップはいつもと違い興奮したように鳴いた。やっぱりバルセルラに現れた龍はリップのお母さんなんだ。
この本はもう読むこともないと思ってた。お母さんに見つかるのが嫌で、自分の今までの人生を否定されるような気さえした。でもだからと言って捨てられずにいた。
私はページをパラパラとめくり最後のページにたどりついた。
あの時途中で断念したメッセージ、今の不安定な私の心で最後まで読みきれるかわからないけど、今を逃したらもう見ることはないかもしれない。
私は恐る恐る母と名乗るその文に目をやった。
アサ自分の信念に従いなさい。揺らぐ心を持つあなたの人生は決して平坦の道のりではないでしょう。だからこそ心を強く持ち自分が正しいと思う事に歩を進めるのです。そしてその鋼の心がきたるべき決断の日に役に立つでしょう。
私の信念………
そんな難しいことは私にはわからない。でも正しいと思う事ははっきりとわかる。
私はリップを助けたい。リップが母親と会うことが1番の解決策なら私はその道に歩進めるべきなんだ。
私は心に決めた。これは一時的な感情なんかじゃない、ここで行動しなきゃ私はこの先一生後悔するだろう。
「リップこれから私と一緒にお母さんを探しにいこう」
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