第2話 隣町タンパ

 「おはようお父さん」

 お母さんより先に家に戻り、私はお父さんと顔を合わせると元気よく挨拶した。


 「おはようアサ、またあの丘に行ったのか?」


 「うん」

 その言葉にお父さんは少し難しい顔をし、私に注意するように言った。 


 「あの丘には行かん方がいい、聞けば盗賊がでるって噂だ」


 「そうなの?そんな噂初めて聞くけど。わかったわ、少し控えるわ。でも小鳥が巣立つまでは面倒見させてほしいの」


 「んー分かった」

 お父さんも流石に小鳥をほっとけとはいえず、しぶしぶ受け入れてくれた。

 そうしているとお母さんが帰ってきた。お母さんは緑のロングスカートに黄色い服を着ている。髪色は茶色より明るめのオレンジ色で長く伸びた髪を後ろで髪留めで纏めている。ちなみに私の髪色は茶色がかった黒色だ。


 「ちゃんと火とめてくれたんですね、助かりました」

 お母さんが感心するようにお父さんに言った。


 「わしだってそれくらいのことはできる」

 お父さんは馬鹿にされたようで少し不満気だ。 


 「アサ、そんな格好で出歩かないの、着替えてらっしゃい。それが終わったら皿に盛った料理を運んで頂戴」


 「はーい」

 

 私はお母さんに言われた通り、自分の部屋の2階に上がり、タンスからいつも着ている服を取り出した。私のお気に入りの服、誕生日にお母さん、お父さんからプレゼントされた服だ。

 赤いワンピースで裾にはフリルがあしらわれていて可愛い。新品の時と比べ、鮮やかな赤色がくすんでしまった感じもするけど、こっちほうが馴染んで私は好きだ。

 これだけでは少し肌寒さを感じるので中に白のトレーナーを着、その上からワンピースを着た。

 鏡で自分の姿を確認すると、肩ほどまで伸びた髪を整えていく。少し伸びたもみあげを三編みにし赤い紐でリボンを作り縛った。


 2階までお母さんの作る料理の香りが立ち込め、食欲をそそり私は駆け足で台所に向かい、お母さんの手伝いをした。


 テーブルには次々と御馳走が並んでいく。お父さんもようやく新聞を脇におき、私たちの朝食の時間が始まった。


 「いただきます」

 食事がはじまると私は自分の好きなものばかりに手をつけていたため、お母さんからバランスよく食べなさいとお叱り受けた。

 お母さんは行儀やマナーにはうるさい人だから怒られるのはしょっちゅうで、何度も言われてるはずなんだけど、いざ御馳走を目の前にすると衝動で体がいうことをきいてくれないの。


 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、私はお母さんを手伝い、皿の洗いかたをした。


 「お母さん終わったよ」


 「ありがとね。アサ助かったわ」


 「はい、これ」

 私はお母さんから何かを手渡され、ゆっくり手を開くと中からお札が出てきた。


 「いいよ、こんなの。うちだって余裕ないんでしょ」


 「そんなこと子供が気にすることじゃありません」

 確かにまだ親に気を使う歳じゃないかもしれないけど、うちの家計が厳しいのを子供ながら私は知っていた。

 そんなことを考えていた私だったが俯いた顔を上げると何やらお母さんがニヤニヤしている。ずばり嫌な予感がした。


 「それとついでっちゃあれだけど隣町にいって塗り薬を買ってきて頂戴。お父さん腰が痛くて働くの辛いっていうからさ」

 ずばり嫌な予感は的中した訳だが、断ってもいいことはないし、お父さんのためになるならと快く受けることにした。


 「うんわかった」

 ちなみにうちのお父さんの仕事は農家だ。


 「はいお金、後これね」

 すると底に無数の穴のあいたカゴを手渡された。


 「何これ?」

 底の穴からお母さんを覗きこみ思わず言葉がもれる。 


 「道中に山菜がなってると思うから、帰りにでも採ってきてよ」


 「山菜かぁ、いまの時期なら沢山なってそう」

 想像しただけでワクワクした。どんな山菜に出会えるのか


 「そうでしょ、でもあんまり変なの採ってこないのよ」


 「大丈夫ー、私山菜詳しいもの」

 私はそのまま部屋を後にし玄関へかけていった。


 「じゃお願いねー」

 私が玄関から出ようとしたときお母さん思い出したかのように顔を出した「あー寄り道しないのよ」


 「もう17よ、子供じゃないもん。いってきます」

 バタンと扉をしめさっそく隣町のタンパへと向かう。


 ここエルモから隣町タンパまではそう遠くない上、道も複雑じゃない、それに中間地点には現在地がしるされた案内板があるくらいだ迷うなんてことはまずない。


 そうこうしてるうちに早くも中間地点についた。ベンチで少し休憩をとることにした私はバッグから飲み物を取り出した。冷たい飲み物、澄んだ風、そしてこの汗も気持ちよく感じられた。

 タオルで汗を拭き、念のため案内板に目を通し、私はタンパに向けて出発した。

 ようやく町につくと町の中は妙にざわついている。この前に訪れた時とは明らかに違っていた。


 「なんだろあの人だかり」

 私は不思議に思いながらも、目的である薬屋を探すことにした。

 町を歩いていると一際大きな声が耳に入った。


 「あーなんだって言うんだよ。これじゃーあたしの計画が台無しじゃないか」

 後ろの通りにいた3人組の一人が何か嘆いているようだ。手に持ってる道具から察するに大道芸の人達かな。


 「気を落とさないでジョセちゃん、タイミングが少し悪かったのよ」

 もう一人の女性が嘆く彼女を励ました。

 

 「よしやるだけやってやるかー、いくぞポルン」


 「ポポーン」

 3人目の大男がおかしな雄叫びをあげると3人組はどこかへ行ってしまった。


 上手くいくといいな、私はそう願いをこめ薬屋を見つけると店内へと入った。


 「いらっしゃい」


 「あのこれください」

 お母さんからもらったメモ書きを店員にわたす。


 「はいはい、ちょっと待っててね」

 お店の人はお婆さんで腰が曲がっており、明らかにお父さんより悪いように思えた。

 杖をつきながら棚から棚へと覗きこみ、塗り薬を見つけ戻ってきた。


 「はいお代は800ミラだよ」 

 私は母から預かった財布を取り出し代金を支払う。その際、お婆さんと目があったので思いきって疑問をぶつけてみた。


 「あの、町でなにかあったんですか?」

 その質問に驚いたような表情をするお婆さんであったが、直ぐに質問の意図を理解したのか口を開いた。


 「あーアレね。みんな掲示板に群がってるのさ。なんでも龍をみかけたとかそんな記事だったね」


 「龍ですか?」

 

 「あんたも伝承には聞いたことあるだろ?その龍を政府が写真におさめたとかで、騒ぎになってたけど、うさん臭いもんさ」

 お婆さんは椅子に腰をおろし話を続ける。

 「きっと政府が関心をあつめるためにやったに違いない。最近は失態をさらしてばかりで、国民からの信用もないからね」


 龍………確かに昔、龍がいたという話は母から聞いたことがある。でもそんなのは都市伝説や、おとぎ話の世界だけだと私は思っていた。

 私が口に手をあて考えていると、お婆さんが私に言った。「興味があるなら掲示板に寄ってみるといい」


 「そうしてみます。ありがとうございました」

 私は一礼をしてから店を出て、町の中央にある掲示板へ向かう事にした。


 人だかりは収まる事を知らず、さっきよりさらに人が集まったように感じる。

 「ほらほら皆さん世にも珍しいものだよ」


 あっ視線を真横に向けるとさっきの人達がいた。人を集めてたのはこの人達だったんだ。 


 掲示板の記事を確認したら、少し覗いてみるのもいいかもしれない。そうしよう。

 私はその人ごみをかきわけなんとか記事が見えた。

 人込みにもまれながらで記事をしっかりと読むことはできなかったが写真に写った龍の姿はちゃんと見ることができた。

 どうやら王都バルセルラ近くで目撃されたというのだ。

 真実かどうかはわからないけど、龍の写真をみた時、なぜだか懐かしいという感覚を覚えた。 

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