番外編『傭兵のダズ』①

 俺は傭兵のダズ。ただのダズ。家の名前なんて上等なモンは持っちゃいねぇ。日々をなんとか食いつなぎ、時たま収入が転がってくれば酒にパーっと消しちまう。その程度のありふれた傭兵だ。

 別に今の生活に不満なんざぁ無ぇ。いやよ、負け惜しみなんかじゃ無くてよ。

 女にモテねぇのだけはいただけないが、まぁ、そんだけだな。

「よう、ダズ。これから仕事か?」

「あぁ、街道の魔獣退治にな。お前は?」

「俺は…」

 そこで怒声が響いて、即座に何か重たい物が叩きつけられたような音――大の男が投げ飛ばされた音がした。

「また女傭兵のリズかよ」

「大方、酔っ払いが絡みに行って投げ飛ばされたんだろうよ。ひえ~おっかねぇ」

 女傭兵のリズ。女だてらに傭兵なんざやっていることと、その実力の高さでこの辺じゃ知らない者はいない程には有名人だ。

 まぁ、確かに体付きは良いから、投げ飛ばされた男の考えも分からんでもないが。

 流石に、娘と言っても通じるほど年齢が離れているし、仮に同い年でもあんな冷めた眼をした女は御免だ。

 …そう。あの女は、手負いの獣のような眼をしている。まるで、世界の総てを憎むかのような、そんな眼を。

 傭兵家業で、数えるのも馬鹿らしくなるくらい魔獣退治をしてきた俺には分かる。アレは手を出せばコチラが殺される類の眼だ。

 あんな年若い娘が、なにがありゃあ、あんな眼をするようになっちまうのかねぇ。

 とはいえ、だ。この世界じゃ別段珍しいもんでもねぇ。

 ――この混沌とした世界には、悲劇がありふれている。

「じゃ、俺はそろそろ仕事に向かうぜ」

「おう、行って来いよ!無事に帰ったら一杯やろうぜ!お前持ちでな!」

「ふざけんじゃねえ!たまには自分で払いやがれ!」

 俺はそれきり女傭兵から興味を無くし、仕事に向かう。

 …確かに、この毎日に不満はない。

 ただ、不満があるか否かなんてことを考える時点で。変化を望んでいたことも事実ではあったのだろう。



 ◆◆◆



 ある日のことだ。

 俺が、或いはこの辺りの奴ら全員が。無意識に求めていた「変化」が現れた。それは戦争とか飢饉とかではなく、明確な人の形をとって、唐突に。

「今日から傭兵になります!ティエラです!よろしくお願いしますね!」

 この世界にゃ不釣り合いな陽だまりのような笑顔を浮かべながら、ソイツは現れた。

 そして。

 この日以降、辺り一帯の中心は彼女になる。

 大人の女とも少女ともとれる年頃の女は、周りの人間を巻き込んで巻き込んで数々の騒動を引き起こしていく。

当然、俺もそれから逃れることは出来なかった。

陽だまりのような笑顔を浮かべる癖に、その行動は嵐そのもの。

これは、そんな女に振り回される、俺と愉快な仲間たちの物語である。

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