女性が男性の価値を金で決める世界で、自らの権利をオークションに出した主人公の価値が天井知らずに上がっていく、権利を所持する為にヒロイン同士が金額を上げているらしい。

三流木青二斎無一門

本作品題名『それでもギアは止まらない』

第1話 オークションシステム



「…よし、決めた」


久島くどう五十五いすずはそう呟くと、デバイスを起動する。

画面上に存在する『ステータス』の項目を選択。

すると久島五十五の情報が画面内に出現する。

その中から久島五十五は『レート』を選択。

『オークションシステムをオンにしますか?』という項目に対して久島五十五は『はい』と選択。

レートの横に記載されている「-」と言う文字が「0」と言う数値に変わる。

それを確認した上で、更新。


「これで良し、と」


一言を添えて久島五十五は部屋から出ていく。

久島五十五の住む場所は学園だった。

学園を囲む六方形の壁として建設された男子学生寮。


その中心に女子高が存在する。

年間30名程の女性が入学して来ては、ここで3年間過ごす事になっている。


『ヴンダーカンマー学園』

世界中に展開されたダンジョンの中から異常現象を引き起こすアイテムを回収する女性を育成する学園である。


ダンジョン黎明期ではさまざまなダンジョン攻略者達が実業し、現在に至るまで多くの企業や資産を持つ富豪などが誕生している。


ダンジョン攻略者のほとんどは女性である。

これはダンジョンへと入る際に必要な酸素を分解する器官を持っているのが女性しかいないためである。

基本的ににダンジョン内部は毒素で満ちている。

男性は毒素を分解する器官を持っていないので滞在するには酸素マスクガスマスクなどを使用しなければならないが、女性はそれがなくてもダンジョンへと潜り込むことができるのだ。


その為、必然的にダンジョン業界では女性が有利となり、社会にも反映していき最終的には女尊男卑の世界へと変わってしまったのだ。

現在では男の価値は無に近く、社会の経済は女性が回していると言っても過言ではない。


そんな男性たちが女尊男卑の世界で生き残る術があるとすればそれはダンジョンでの補助だった。

ダンジョンアイテム。

それはは女性が使う分には問題なく使用することができる。

その使用する数に限りはないが、男性の場合は違うどのアイテムを所持しても最低限の出力しか出てこないのだ。

女性と男性ではダンジョンアイテムの適合率が違うのだろう。

それでも所持することができればその恩恵は絶大だ。

なんとかダンジョンで活躍する事が出来れば、女性の目にも留まることができる、アピールが可能なのだ。


話は変わるがこの世界にはダンジョン黎明期から続いているオークションというシステム。


基本的にダンジョンで獲得したアイテムはオークションで売買されることが多い。

その欲望を仰ぎ力を枯渇させた人間は、空想上の力を金という価値観を以て購入し、アイテムの価値そのものを引き上げる。


そしてダンジョン黎明期から続くオークションには、価値のない男たちが自らの価値を得るためにその体を売る。

オークションの催しはそのほとんどが女性であるために、女性が男性を購入すると言う構図が出来上がってしまったのだ。

このような風習は現在でも残っており、この学園は古き風習を採用している。




この学園に滞在する男子生徒は、基本的に生徒という枠組みではない。

学校側から用意されるアイテムを借金をしても買い取り、それを体内へと埋め込み適合率を高める訓練を行い、ダンジョンを目指す。


借金は自腹で、または自らをオークションで売買し、女子生徒に自分を買ってもらい借金を返済するのだ。


女尊男卑の世界となったこの世では、男性は無価値な存在として扱われていた。


が、そんな男性でも、自らに付加価値を宿す事が出来る。


それが先程の説明であった『オークションシステム』であった。

自分自身の価値を、女性が購入する。

力量、能力、才能、人格、容姿、それらを見定めて、女性がその全ての権利を所持する代わりに、男性には購入した値段分の価値を与える。

一千万を出せばその男性の価値は『一千万』程。

一億を出せばその男性の価値は『一億』程。

無論、男性を買う権利は全ての女子があり、権利を持つ為に金を出して競り上げ、男性の価値が上がる様になっている。


それが『オークションシステム』であり、男性たちは皆、そのシステムを持っている。

が、その『オークションシステム』を使用してない男が居た。

それが久島五十五である。

『オークションシステム』を使わなかった彼は、多くの男性陣から嘲笑され、女性陣からは蔑まれた。

無価値の男が意地を張っているに過ぎない。『オークションシステム』の価値を知らない愚者であると。

それが今になってようやく『オークションシステム』を活用したのだ。

あまりにも遅過ぎるが、しかし、久島五十五はそれでも構わなかった。

彼は、自分の確固たる意志を以て続けて来たのだから。


校舎に入る。

基本的に、この学校に入る事が出来る男子生徒は一部のみだ。

この学園は女生徒の為に建てられており、男子生徒は女生徒の付属として扱われる。

基本的に女生徒はフリーパスで自由に学校を移動出来るが、男子生徒は学校側が発行する許可証が無ければ教室へ行く事も許されない。

久島五十五は数ある功績を持つ為に、許可証の所持を許されている。


「今日のカリキュラムは、…朝から授業か」


座学だと知って面倒な表情を浮かべる久島の元に、一人の女性がやって来る。


「おはようございます、久島様」


白い髪に綿毛の様にふわふわとした髪質。

上品な佇まいで、微睡に浸る様な、紫水晶の如き瞳をこちらに向ける。


「こんにちは、メメさん」


世界有数のダンジョンシーカーギルド、『機械仕掛けの歩兵団』のギルド長を務める宮古一族のご令嬢である宮古メメが話し掛けて来た。

デザイナーベイビーである彼女以外にも、複数の宮古の血縁者がこの学園に存在する。

宮古メメと久島五十五は知り合い同士であった。


「久島様、つかぬ事をお聞きしますが…」


そして唐突に彼女は本題に入る。


「久島様、もしかして『オークションシステム』を解禁されたのですか?」


ふわふわと綿毛のような髪を揺らして、久島へと近づいて来た。

彼女の質問に対して久島五十五は首を縦に振って頷いた。


「そうなんだ」


「今まで、ずっと使用してこなかったのに…なぜ今になってオークションシステムを活用しようと思ったのですか?」


宮古メメがそう言った。

久島五十五は頷きながら自らの心の内に留めておいた思考を彼女に言う。


「今までの俺は自分自身は無価値だと思っていた、自分が自分自身の価値を見いだせないくせに誰かに価値をつけてもらうなんておこがましいと思っていたんだ」


それが彼の意志であった。


「自分が納得できるレベルに達するまでは俺はこのオークションシステムを活用しないと決めてて…、今になってようやくこのオークションシステムを活用しても良いかなって思ったから、だから使ってみたんだけど」


久島五十五は自分に価値を見出せない存在だった。

それはこの女尊男卑の世界でなくとも久島五十五は自分自身に対して疑惑を持っていたかもしれない。

自分にはそこまで価値はない存在だと。

けれど今は違う自分自身に自信を持ち始めた。

だから久島五十五は誰かに価値をつけてもらうとそう思ったのだった。


「そうだったのですか…しかし言わせて貰いますが」


彼女は自らの手を胸に添えて彼にはにかむ。


「あなた様は決して無価値の存在ではありません。そのレートが『0』でも人の心によっては、大切な存在だと思われることでしょう、…けれど少しだけ寂しいです、あなたは『0』だからこそ、それこそが貴方さまの価値観で、素晴らしく、尊敬すると思っていたのですが」


少しだけ残念そうな表情を浮かべる宮古メメに、久島五十五もそうだなと協調する。


「…そう言われてみれば少しだけもったいない気もするな。…ずっと『0』でも良かったかも知れなない、…けど、まあ。これは俺が元から決めていたことだから仕方がない」


苦笑しながら久島五十五はそういって。


「…遅れそうだな…悪いけど、これで」


授業が始まるからと久島五十五は、その場から立ち去る。

宮古メメは彼の後ろ姿に目を向けながらポケットから自らのデバイスを取り出した。


「…」



同時に彼女がこの学園に存在する生徒のステータスが書かれた登録情報を確認。

そして久島五十五のステータスを開く。

彼女は久島五十五の『オークションシステム』を利用して自らの所持金額から金額を入力していった。

そして『この金額で入札いたしますか?』という文字の下に『1000万円』という数値が記載されていた。


「本当に残念です…あなたの価値観は唯一無二であったのに、あなた様が他の人間と同じような領域に立ってしまったのだと想うと…少しだけ、悲しく思います…」


そう言いながらも彼女は『はい』というボタンを押した。


「(まあそれとこれとは話は別です、あなた様がオークションに出ているのであれば私はあなた様を買いましょう)」


ウフフと笑いながらデバイスを唇に添える宮古メメ。

彼を所有物にしようと考えているらしいが、そう上手くはいかない。

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