第37話 負けても消えない皇室

輪の国の聖皇の歴史は長く、聖皇の中にもいろんな人がいました。

輪の国民も聖皇に対して尊敬や親しみはありました。

しかし、輪の聖皇にいろんな人がいるように、輪の民にもいろんな考えがありました。


以前話したラッキー・ホット・コモリ一派のような尊い血筋というモノに生理的嫌悪感を持つ者も少なからずいます。

また協陽党のように、聖皇にとって代わろうとする組織もありました。

協陽党はさりげなく、宮内庁にその影響力を広げていました。


彼らは自らが尊敬する「カリスマ」を聖皇の上に建てようとあらゆる手段を用いていました。

その一つが、聖皇候補の子供たちに対して「カリスマ」を崇拝するように教育することでした。


宮内庁の人事についても協陽党は力を入れて、自らの息のかかった人間を送り込みました。

かれらはメイドとして、家庭教師として着々と影響力を拡大していきました。


そうした努力を数年したのち、皇室はとんでもない状態になりました。

皇室の子供たちが聖皇を軽んじて、遊興にふけるようになりました。

元々皇室の人間は自分で子供を教育する習慣が少ないために、専門のメイドや家庭教師に任せきりでした。


ところが、協陽党が恣意的な教育を入念にしたため、子供たちに悪しき影響力を与えてしまいました。

それは単に日常の行動だけでなく、考え方にも大きな影響を与えました。


聖皇に対する尊敬や歴史的な役割についても、わざと悪い面ばかりを強調する教育を行い、皇室そのものの価値に疑問を持たせる教育を行いました。

そして、最終的には協陽党のカリスマこそが第一の権威であると考えを書き換えられてしまいました。


この動きを最初に気づいた英雄は、三男の信景でした。

信景は朝廷や将軍と長い付き合いがあり、その良さも悪さも弱点も良く知っていました。


特に将軍の脆さや不完全さは前世で嫌と言うほど身に染みて知っていました。

しかし、協陽党の子の策略については司馬家の三男ということでなにも出来ませんでした。


しかし、信景は他の兄弟たちと話し合い、やはり皇室を壊すのは輪の国の為にならないという結論に達しました。

それゆえ、信景は皇室を守るためにある策略を巡らしました。


題して「皇室の末裔温存計画」です。

つまり、協陽党の魔の手からまだ影響を受けていない皇室の面々を保護するという計画です。


これは信景が行うのに最適な計画でした。

なぜなら、四英雄のうち、行政、つまり政府に関わらない民間の人間は信景一人です。


後の三人はそれぞれ、政治家、官僚、軍人ということで協陽党に妨害される可能性がとても高い所にいます。

それに対して、民間で大金持ちで海外にもコネがある信景なら、皇室の末裔を数多く雲隠れさせることが出来ます。


このあたりの感覚は平和な時代に生きている者にはピンとこないかもしれません。

しかし、戦乱に生きた四英雄たちは、例え自分の主君であっても殺されることは良くあることを経験で学んでいました。


そうなると、確実とは言えない一部の皇室を守る事よりも皇室制度そのものを守るために、血筋が遠くても皇族になれる者たちを一人でも多く守る方が結果として聖皇制度を守ることになることを理解していました。


というわけで、信景は身分をなるべく隠し、目立たない形で皇族の末裔たちを各地に分散させる大計画を発動しました。

輪の国の地方はもちろん、美麗七州国や義の国など、外国にも一部の皇族を避難させました。


ここまですれば、協陽党の魔の手もさすがに届きません。

あくまでさりげなく、皇室を分散して隠しつつ保護する。

司馬家の「皇室末裔温存計画」はゴブライナの戦争やクラブ帝国とのいざこざが起きるこの時期に行われました。

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