第28話 理想の父親ラッキー・ホット・コモリ

クラブ帝国から莫大な資金援助と彼の大好きな女性接待を終えてからラッキーは働き始めます。


まずは仲間の吟遊詩人組合に莫大な資金を提供して、自分の流したい情報を流す手伝いを頼みます。

こうした行為は過去に数えきれないほどあり、彼と吟遊詩人組合との醜い癒着を示すものでした。


初めのうちはラッキーが新人で立場が弱いこともあり、彼はとても丁寧で低姿勢な感じで話をしていました。

しかし、彼の人気が高まり、発言力が強まると彼は豹変して傲慢な態度で吟遊詩人たちに接するようになります。


しかし、彼が傲慢だとしても彼の資金と彼の背後にいるクラブ帝国の事を頭に浮かべると、吟遊詩人たちは彼に協力する選択肢を選びました。


今回の依頼は、妻と子供を愛し理想的な父親であるラッキーがクラブ帝国を応援しつつ戦争反対と戦争から離れるように輪の国民を鼓舞するという内容でした。


クラブ帝国の侵略という事実は変わらないのに、無茶なオーダーだと感じた吟遊詩人もいましたが、金の魔力には勝てず吟遊詩人たちは各地に飛んでラッキーの唱える親クラブ帝国のコメントと非戦主義を広げていきました。


前日「婦長ごっこ」をしていたとは思えないほど正装の服を着て清潔感漂うラッキーを全国の吟遊詩人たちが称えます。

見ているこっちが恥ずかしくなるほどの美辞麗句を並べながら。


これらはシャイな輪の国の文化とは異なる表現でした。

大声で、大げさに振舞うその様はクラブ帝国やダークゴブリン由来国の文化でした。

しかし、うぶで免疫のない輪の国の大衆はその雰囲気に飲まれていきました。


さて、ラッキーはその後瓦版組合に向かいます。

彼はそこでも大金をばらまき、自らの主張を声高に叫びます。

瓦版組合の全員が彼の仲間だったわけではありません。


しかし、この時期瓦版組合は不景気で彼の資金力にNOを突き付ける力はありませんでした。

吟遊詩人たちは視覚と聴覚で大衆を惑わしますが、瓦版組合は知力で大衆を誘導します。


彼らもまた、ラッキーの思惑通りに動きます。

まるでカーボンコピーのように同じ内容の社説を書き、それを全国に張り巡らされた掲示板に張り付けていきます。


この効果は絶大で、町で人々はこの瓦版の話題に飛びつき、ごく一部のひねくれ者以外は瓦版に書かれていることを信じて疑わない有様でした。


とりわけ、彼の故郷であるはにわ市ではまるでカルト教団の教祖のような盛り上がりようでした。

はにわ市の住人は賢く、金銭やその他の損得を鋭く見定める優れた能力がありました。


彼らから見ると、故郷を盛り上げるラッキーの存在はとてもありがたかったのです。

もちろん、賢いはにわ市民の多くはラッキーという人間がどんな存在かを、その本質を理解していました。


しかし、今は彼に風が吹いているということで多くの市民は今だけという条件で熱狂的な支持をしているのです。


それに対して、はにわ市以外の地域では、あくまで吟遊詩人の言いなりや瓦版に書かれたことだけを鵜呑みにする者が多くいました。

はにわ市民と違い、自分で考えたり、損得勘定で動いたりする者は少なく、言うなれば彼の作られたイメージに騙されているというのが本質でした。


こうして俯瞰すると、彼は素敵な夫であり、多くの子供をも強い父親、そして優れたリーダーシップを持つニューリーダーでした。


美麗七州国の情報部も彼の存在は知っていましたが、なにわ市民同様、今は使える駒と判断して野放しにしていました。

結論から言うと、よほどの変人か変わり者以外は輪の国で彼を低く見る者はいないというのが現実だったのです。






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