ふたりはなかよし

kgin

第1話 ふたりはなかよし


 ある休日の朝、兎さんが家の外に出てみるととてもいいお天気でした。


「ああ、気持ちがいいなあ」


 深呼吸をしていると、向こうから熊くんがふらふらとやって来ました。


「おはよう熊くん。元気かい」


 熊くんは驚いたように立ち止まると、陰気な様子で言いました。


「おはよう兎さん。悪いけど僕は元気がないんだ」


 そう言って、熊くんは兎さんの家の前の石段に腰かけました。


「どうして元気がないんだい」


 熊くんは手にしたワンカップの中身を舐めながら答えます。


「僕の音楽が全く売れないからだよ」

「どうして君の音楽は売れないんだい」

「それがわからなくて、僕はこうして飲み明かしているのさ」


 熊くんのことを気の毒に思った兎さんは、懐から出した煙草を熊くんに勧めます。


「それなら熊くん、君の音楽を売り込みに行こうよ」

「売り込むなんて安い音楽家のすることさ」

「そんなことはないよ。まずは君の素晴らしい音楽を知ってもらわないと」


 自分の音楽を褒められた熊くんは、くっと顔を上げました。


「鳥さんのところに行くのはどうだい。鳥さんの音楽はとても売れているらしいよ」

「馬鹿言え。僕は鳥のようなくだらない音楽がなぜ売れているか納得いかないのだ」

「蛙さんなら君の音楽の値打ちがわかるんじゃないかい。彼は有名な批評家だよ」

「あいつは見る目がないよ。それに、気に入らない音楽はすぐ扱き下ろす」

「じゃあ、街の猿さんたちに聞いてもらおうよ。彼らは音楽が大好きだ」

「あの猿どもに僕の音楽の価値なんて理解できないさ」


 そう言って熊くんは、フィルターぎりぎりまで吸った煙草を踏みにじりました。兎さんは熊くんの手を取りました。


「それじゃあ君の音楽をわかっているのは私だけだね」


 熊くんはおいおいと泣きました。



 こうして熊くんは苦悩したまま冬眠してしまいました。兎さんはそんな熊くんを憐れみながら、今まで以上に愛おしく思いました。そして、ついぞ熊くんの音楽を聴くことはありませんでした。



 めでたしめでたし

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